「死」から生まれる新たな神々
「ねえ、ねえ、ドクトル、日本の神話、亡くなった人から、新たにまた新しい神が生まれますよね、伊邪那美命とか、カグツチの神とか.世界の他の地域にも同じような神話ってあるのでしょうか?」
この頃キューピーの影響で、神話学の研究にもはまり込んだ海丸くんの質問である.
「キューピーはどう思う?」ドクトルもこの頃は神話の話に関しては意見とか、知識の整理は、キューピーに聞くことが多い.
「そうなんですよね、まず、カグツチさんとイザナミさんのことから整理して見ますとですね、亡くなった後の体の各部分から、神が生まれているのですよね.」
それも、頭、胸、腹、どういうわけか陰部、左右の手足.八箇所から神が生まれている.
伊邪那美命の場合、八雷神が生まれている.
すなわち、
大雷:頭
火雷:胸
黒雷:腹
折雷:陰部
若雷:左手
土雷:右手
鳴雷:左足
伏雷:右足
「伊邪那岐命が黄泉の国から逃げ帰る時に、追撃してきた神々です.
それぞれの神の特徴は、体の部位の特性が神の特性になってはいるようですが、右と左手足の機能の区別とか、結構、その考えの根底にあることは、よくわかりません」
というのが、キューピーのコメントである.
そこで困った時の、AI登場!
「AIによると、それぞれの雷神の個性は、次のようになります.」
1.大雷— 頭
最上位の雷.頭にいるので、意志、支配、判断、威厳を司る感じでしょう.
ゼウス的というか、「天の雷」のイメージに最も近い.落雷というより、「雷霆を命じる王」.怒ると静かに怖いタイプ.(結構、この物語できた順に感想をもらうから、作品全体に対する忖度が、AIにはある)
2.火雷— 胸
胸=心臓・肺・呼吸・激情.
これは、情熱、怒り、愛憎、闘志の雷.火雷だけに、感情が爆発しやすい.
軍神タイプかもしれない.イザナギが黄泉の国から逃亡を図った時に追撃部隊の中心だったらしい.雷鳴と炎が一体化しているような神格ですな.
3.黒雷— 腹
腹の雷というのが実に日本的です.腹は、本能、執念、消化、内臓感覚
「腹が据わる」の世界.
黒という色も、死、闇、瘴気、地下、を感じさせる.
八雷神の中では、一番不気味で重たい存在かもしれません.表に出ないが、じわじわ怖い.「怨念の雷」ですな.
4.折雷— 陰部
ここが実に古代神話らしい.
「裂く」「咲く」「割く」が重なっているようにも思える.
陰部に宿る以上、生殖、誕生、血、生命力、性、出産の苦痛
に関わる雷でしょう.
イザナミが火神を産んで死んだ文脈を考えると、
これは「産む力」と「死の苦痛」が融合した神格に見えます.
怖いが、同時に豊穣神的でもある.
日本神話はこの辺をあまり隠さないのが古層的で興味深い.
5.若雷— 左手
「若」は若々しさ、新生、芽吹き。左手というのも面白い.
右が実務なら、左は補助・霊的・受容的.なので、新しい力、未熟だが勢いがある、俊敏、技巧、みたいな神.若い雷神.たぶん一番素直.
6.土雷— 右手
右手は「行動する手」。そこに土.つまり、大地、重量、建設、農耕、肉体労働の雷.雷なのに「地面寄り」なのが面白い.農耕神話との繋がりを感じます.
実務派.ヘパイストス系の職人神にも近い.
7.鳴雷— 左足
これは一番わかりやすい.「鳴る雷」.
音そのもの.ゴロゴロいう雷鳴.左足なので、接近、前触れ、気配
を感じさせる.
まだ直撃していないが、
「来るぞ……」という恐怖。舞台効果担当ですな.
8.伏雷— 右足これがまた怖い.「伏す雷」.
潜む雷.地中に伏せる雷.見えない雷.
右足なので、現実的行動、踏み込み、地震的な衝撃とも結びつく.
鳴雷が「空から来る恐怖」なら、伏雷は「地の下から来る恐怖」.
静かだが、一番逃げにくい.
(「」と()は、皆が入れるチャチャとかヤジ、みたいなものだと思ってください.)
全体として見ると、八雷神は単なる「雷のバリエーション」ではなく、
頭(精神)
「それに加えて、高次脳機能というところか」
胸(感情)
「昔の人は、緊張したり、戦いが始まる前には、心臓の鼓動が高鳴るのを感じた.そして呼吸が早くなった.」
腹(本能)
「腹黒い?しかしストレスで胃潰瘍になったり、潰瘍性大腸炎になったり、腹一杯になったら、お腹が膨れて満足するし、空腹の時は、目がギラギラ輝く」
陰部(生殖)
「これは言わずもがな、かな・・・」
「でも、ゼウスがアテナ産んだ時は、頭から出し、ディオニソスを産んだ時は、大腿からだし、そして、その時の帝王切開はここでもまた、天才外科医、ヘルメスの登場!」
「まあ、あいつは器用なんだよな.スパイはなんでもできないとダメって頃なんじゃねえの」(会話がやや脱線する)
両手(行動)
「というよりも、作業?リハビリで言ったら、作業療法士さんの領域かも・・・」」
両足(移動)
「これまた、リハビリでいったら、理学療法士さんの領域か?
という、「人体そのものを雷化した存在」に見えるのです.
つまり黄泉のイザナミは、死体でありながら、全身が神威そのものになっている.ここが恐ろしい.単なる腐乱死体ではなく、「神の死体」なのですな.
(ギリシャ神話のティタン神族や、インド神話のプルシャ解体神話ともどこか通じる、「宇宙化する身体」の感覚があります.)
次に、カグツチの体から生まれた、8つの山神.
正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ、迦具土神の頭から生まれる)
淤縢山津見神(おどやまつみのかみ、迦具土神の胸から生まれる)
奥山津見神(おくやまつみのかみ、迦具土神の腹から生まれる)
闇山津見神(くらやまつみのかみ、迦具土神の性器から生まれる)
志藝山津見神(しぎやまつみのかみ、迦具土神の左手から生まれる)
羽山津見神(はやまつみのかみ、迦具土神の右手から生まれる)
原山津見神(はらやまつみのかみ、迦具土神の左足から生まれる)
戸山津見神(とやまつみのかみ、迦具土神の右足から生まれる)
これまた、『古事記』の中でも、えらく不思議な場面ですな.
火之迦具土神を、怒った伊邪那岐命が斬る.
すると、その死体から次々と山神が生まれる.
火の神を斬ったら山が生まれる.
ここには、
火山
地殻
鉱物
森林
山岳信仰
死体から世界が生まれる神話
が混ざっている感じがあります.
しかも、八雷神とほぼ同じく、「身体の部位対応」になっている.
つまり山そのものが、神の身体なのですな。
では、個性を考えてみると——
1.正鹿山津見神— 頭
「正鹿」は解釈が難しいですが、「真栄」「真坂」「神聖な嶺」
のようなニュアンスも感じます.
頭から生まれるので、山々の王、山脈の中心、神聖な霊峰タイプでしょう.
富士山的.人格としては寡黙で威厳がある.
2.淤縢山津見神— 胸
「淤縢」は、泥・絡まり・盛り上がり、みたいなニュアンスがあります。
胸から生まれるので、隆起、火山活動、山の鼓動を感じる。
山が「生きて脈打つ」感じですな.
感情豊かで、噴火しやすい山神かもしれません.
3.奥山津見神— 腹
これは分かりやすい。奥山。人が容易に入れない深山。腹に対応するのが実にいい.
山の内部、洞窟、地熱、鉱脈、熊や蛇の棲む場所つまり「山の内臓」です.修験道の山伏や隠者がいそう.
4.闇山津見神— 性器これ、かなり古層的で強烈です.
闇は、暗い、深い、隠れるの意味.性器対応なので、地中の生命力、子を産む山、地母神性、黄泉への入口を感じます.洞窟信仰に近い.日本神話では、「山は女性」として扱われる感覚が時々ありますが、その最古層の一柱かもしれません.
怖いけど母性的.
5.志藝山津見神— 左手
「志藝」は、繁茂・技巧・木の枝ぶり、みたいな印象があります.左手なので、細工、森林、枝分かれ、繊細な地形の山神.山林管理の神っぽい.天狗がいそう.
6.羽山津見神— 右手.これは有名ですな.後に農耕とも関わる.「羽」は、葉、羽ばたき、軽やかさを感じさせる.右手なので、実際に人間に恵みを与える山、木材、狩猟、農地への水供給、実務派の山神.村人に近い.
7.原山津見神— 左足
原.山麓の平地。左足なので、
山から平野へ降りていく途中の神。草原
放牧地、焼畑、山裾を司る感じ.
人間文明との境界線にいる神ですな.
8.戸山津見神— 右足
「戸」は入口.これは、峠、山道、関所、境界
の神ではないかと思います.右足対応なのが意味深.
つまり、「山が歩いて人界へ出る出口」.旅人・修験者・死者が通る道.
黄泉比良坂に近い雰囲気もある.
面白いのは、八雷神よりも、
こちらの八山神の方が、
人間の生活圏
森林利用
山岳地形
農耕
境界
にかなり近いことです.
そして驚くべきことに、火の神カグツチが、斬り殺されて、その滴った血が、イザナギのつるぎについて、落ちた雫から、つるぎの神の他に、なんと渓流の水の神様なんかも生まれているのですよね.山には谷を流れる、小川がつきもの・・・
闇淤加美神
闇御津羽神
の二柱のことである.
元はといえば、火の神であり、その血だから、古代日本人の発想はなかなか複雑かも.
雷神は「神の死体の恐怖」寄りですが、
山津見神たちは、
「日本列島そのものの地形神話」に近い.
つまり、火之迦具土神の身体は、
死後、日本の山岳世界へ変化した.火山列島日本らしい発想ですなあ.
火の神を殺したら山ができる.
これは、ほとんど
「火山活動によって列島が形成された」
という地質学的直観にすら見えます.
イザナミさんが亡くなる前、大火傷で具合の悪い時、その、吐物とか、排泄物からも神が生まれている.
嘔吐物からは、
『古事記』では金山毘古神、
『日本書紀』では金山彦神と表記する.
金山毘売神(かなやまびめのかみ、金山姫神)と対偶をなす神である.
「金山」は鉱山と解するのが一般的で、金山毘古神・金山毘売神の二神は鉱山の神と解釈される.
大便から、
ハニヤマヒメノミコト埴山姫命.
この神は、日本神話に登場する土や陶器の女神です.イザナミがカグツチを産んで火傷し死に瀕した際、その排泄物から生まれたとされ、田畑の守護や陶磁器業の神として信仰されています.
ミズハノメノカミ(罔象女神・弥都波能売神)は、日本神話に登場する代表的な水の女神です.灌漑用水や火を鎮める水を神格化した存在で、農業の神、井戸の神として信仰されています.
主なご利益は、
水そのものを司る神であるため、以下のような幅広いご利益があるとされています。
農業・五穀豊穣:田畑を潤す水の恵み.
生活用水の守護:井戸の神、水難除け.
産業の守護:地域によっては酒造りや紙漉きなど、水を多く使う産業の神としても信仰されています.
主なゆかりの神社は、
水波能売命などの名で全国の水神信仰の神社に祀られています.
日本神話:イザナミ・カグツチ以外の神話から.
これらの話は、死んだからだから、神々が生まれるのではありません.
オオゲツヒメ(大宜都比売神)の死
『古事記』に登場する食物神オオゲツヒメは、スサノオに殺された際、その遺体からさまざまな有用なものが生まれました.
頭: 蚕
目: 稲
耳: 粟
鼻: 小豆
股(陰部): 麦
尻: 大豆
ウケモチノカミ(保食神)
『日本書紀』では、ツクヨミ(あるいはスサノオ)に殺されたウケモチの死体からも同様に、牛馬や穀物が生まれています。
保食神の屍体の
頭から牛馬、
額から粟、
眉から蚕、
目から稗、
腹から稲、
陰部から麦・大豆・小豆が生まれた.
以上の話をまとめると、
『古事記』では、
オオゲツヒメ/ウケモチ → ハイヌウェレ型神話に近い.
イザナミ、カグツチ → 死体化生型だが、食物起源ではない.
インドのプルシャ神話.
リグ・ヴェーダ にある有名な宇宙人身供犠,宇宙的人間プルシャを神々が解体すると、
口 → バラモン
腕 → クシャトリヤ
太腿 → ヴァイシャ
足 → シュードラ
月
太陽
大気
世界
などが生まれる.
「多神教の豊かな自然観は、なくなった人の体、そしてその排泄物からも、人にとって有益な、食物、水、鉄器が生まれるということでしょうか.世界を擬人化して、捉える、全ては神々から始まっている、という世界観、これこそ日本の精神ではないでしょうかね」
と最近の神話研究から得られた、キューピーの結論である.
ドクトルや、海丸君も、「なるほど・・・」と思った.
ギリシャの多神教のボスである、ゼウス・ルシフェルはというと・・・・・
「あれ、おじさん、いたの?」と海丸君が気が付いたくらいである.
彼は珍しく、何も言わないで若者たちの、議論に静かに、耳を傾けていた.




