脳外科医・ドクトル 「彼にも修羅場があった・・・?」
のほほんとしていて、あまり、修羅場になりそうなことを好まないドクトルも若い頃には、手術や処置で、ヒヤリとすることがあったらしい.
脳動脈瘤のクリッピング、術中の動脈瘤破裂、
血管撮影、シモンズのカテーテル、胸部のアオルタ(大動脈)で、くりくり動かしているうちに先端に結び目ができそうになってしまったこと、
上矢状洞を跨ぐ形の骨折が見られた、両側頭頂の急性硬膜外血腫
小脳出血、後頭蓋窩が、腫れて、救急室で処置をしているうちに、呼吸が止まって、夜間に緊急で手術をしたが、出血の原因が、AVMで、一向に止まらないで困ったこと.同じ患者で、後日、気管挿管チューブを交換の時に、入らなくて、徐脈になり始めて焦ったこと.
慢性硬膜下血腫の患者、ワーファリン内服していて、意識障害が急速に進行して、患側の瞳孔が開いて、あっという間に呼吸が止まりそうになって、急いで、穿頭ドレナージをやったこと.前の日に、ビタミンKを使って、PT -INRは確か、1.2くらいになっていたはずなのに・・・・
そうそう、大学の助教授の先生に、STA -MCA anastomosisをしてもらって、(あ、違うか、脳梗塞で減圧開頭した後、何週間か経って、落ち着いて頭蓋形成をしたときだ.緊急の対応で、予定のバイパスがちょっと遅くなったのだったか・・)手術の翌日に皮下ドレーンを抜いたところ、頭皮からの出血で急性硬膜外血腫血腫ができて、意識障害が急速に進行したこと.頭皮がどんどん腫れてきて気にはなっていたのだが.
修羅場というのとは違うかも知れない.これは、前に、秋の収穫祭の時に話した.
20年くらい前、傘が頭に刺さった子供の手術した.
開業の先生から、『頭に傘が刺さった子供を見てほしい』てね.
最初、傘をさした子かと思ったのですよ.意味がよくわからない.
ところが、来てみてびっくり、頭蓋骨の単純レントゲン写真見ると、柄のところではなくて、放射状に出てる骨のところ、頭蓋骨を貫いて傘の骨が刺さっている!
一体どうやって?と思うかも知れないが、傘を思いっきり蹴飛ばして遊んでいたらそれが跳ねて、頭に刺さったらしい.
CT見ると、傘の骨の先端は、脳の中にまで入り込んでいた.しかし、幸いだったのは脳の表面の大事な血管は一切損傷していないし、脳挫傷も見られなかった.手術で、傘の骨を摘出した.うまく行った.元気に退院.
その時、乱暴なルシフェルとポセイドンは、
「そんなもん、引っこ抜いちゃったらいいじゃねえ」
「いやそれがね、手術の難しいところは、傘の骨が曲がっているところあるでしょ、それが折り返しになって、抜こうとすると引っかかるんですよ.あれをそのまま引っこ抜いたら、周りの血管破いて大出血でしたでしょうね.ピンセットで、傘が曲がらないように途中を押さえて、ゆっくりぬいたらうまくいきました」
その患者さんは、術前から術後に、意識障害やら言語障害は一切なくて、術後に感染や、痙攣も起こることはなかったから、全く不幸中の幸いだったとおもう.
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「あ、そう言えば、一番最後の話、そんな話聞いたことがある気がする.
父上だったかな、おじさんだったかな・・・」
海丸くんを相手にドクトルは話をしている.
「手術なんて、好きでやる医者の気が知れませんね・・・」
とドクトルはいつも言っている.
神話の偉い神様.
アテナは戦略の神、しかし彼女はあまり戦争にならない、努力はしないかも.
そして戦争になったら、若い兵士を鼓舞して楽しそうに戦う.
アレスには戦略そのものがなくて、争いそのものを楽しむところがある.
シヴァ神・・・まさに破壊の後に再生を期待する.とにかく最初はぶっ潰して、その後、新しい何かができたら儲けものみたいな.
武力の神様で、戦争をしていないのは、武甕槌神、くらいか?相撲と外交交渉で、国際紛争を解決しているから.彼には、戦争をしたという記録がないのかも知れない.
後世の日本の歴史で、このような、軍人は、いないのではないか?
脱線してしまった.戦いの神ではなくて、ドクトルの手術のことだった.
「クリッピングの時なんか、院長先生に助手についてもらって手術したのです.60床くらいの脳外科単科の個人病院でしたけど・・・」
「前頭葉と、側頭葉の間の隙間から、内頸動脈と、動脈瘤が出て、後交通動脈も見えて、動脈瘤の首根っこにクリップをかけようとしたのですが、周りの剥離が十分じゃなかった・・・」
クリップを閉じようとすると、動脈瘤の先端がみるみる腫れてきて、とうとう、プチンと、破けてしまった.大出血して術野はみるみる血の海になった.もちろん破れる時の「プチン」という音は聞こえない.
即、頭に浮かんだのは、出血のコントロールができずに、患者さんが手術台の上で亡くなられて、自分が職を失う、そういう未来、であったろうか?しかしあまりゆっくりそんなことを考えても生産的でないとでも思ったか・・・
この場をなんとか収めなければ、と積極的に前を向いたのだと思う.おそらく数秒の間に.
助手の院長先生は、なんと居眠りをしておられる.全く人の気も知らないで.
まあ、とにかく、院長先生には起きていただいて・・・・
「あの、先生、動脈瘤、破れたので、起きてください」
優しく声をかけたのだが、院長先生は速やかに目を覚ましてくださった.
ただし、目を開けた先生は、大量の術野の出血を見て、あたふたと両手が宙を浮き、椅子から転げ落ちそうになられた.上手に表現できなくて申し訳ないが・・・
とにかく、顕微鏡の側鏡を覗かれて、流石に慌てられたようである.
「あの、先生、吸引していただいていいでしょうか・・・」
太い吸引管を2本お預けしたと思う.自分も吸引管を持ってできるだけ、血液を吸引する.すると、内頸動脈とその分岐部がなんとか確認できた.
さらに内頸動脈の近位部(動脈瘤よりも心臓より)と、中大脳動脈、前大脳動脈に、テンポラリークリップをかけたら、さらに出血が少なくなった.動脈瘤の破れ口が確認できた.
なんとペラペラの、動脈瘤の壁、内頸動脈と少し隙間がありそうで、クリップがかけられそうである.
よく手が震えなかったものである.
一回でクリップがかかって、出血は止まった.
恐る恐る、前大脳、中大脳、内頸動脈の近位のテンポラリークリップを外してみた
動脈瘤からの出血は完全に止まっていた.
特にその患者さん、術後に脳血管攣縮が問題になることもなくて、神経学的に後遺症を残さないで退院されて、社長業に復帰された、と記憶している.
「ドクトルにとっては、勲章、ですか?」海丸くん聞くが
「そんな、勲章だなんて・・・こっちは寿命削りながらやっとこさですよ.あまり経験したくありませんね、あんなことは・・・」
ドクトルはそういう人なのだ.
面白い人ではある.
こんな大人になりたいか?
「いやー・・・」
少なくともお手本にはならない.
しかし、こういう大人、好きである.
海丸くんは改めて感じた.




