火之迦具土神
キューピーの、「古事記」講義である.
別館の大講堂で、彼は話をしている.
大講堂の演台に立って、講義を行ったのは、子供では、彼が第一号である.
まだ海丸くんでさえ、大講堂での講義を行ったことはない.
海丸くんは、生物やら医学、物理に化学、数学が、得意分野であるのだが.ドクトルや、静香、ヘパイストスにアテナ、と言った、先輩の壁が厚すぎるという問題があり、まだ講堂で得意の領域を聴衆を前に話をするというところにまで到達していない.
その点、キューピーは、古文で「古事記」の読みこなしに関しては、すでに、先生である、ドクトルや、健ちゃん・愛ちゃんのママをすでに越えたということらしい.
日本神話に関して、彼は、別館学派の第一人者である.
座長は、ドクトルと、ママ、海丸くんである.
ライバルで、キューピーが一歩リード?
いや、いや、海丸くんと、キューピーはそういう関係ではない.
得意の分野をそれぞれがそれぞれの立場の中で、極めつつあるということなのであろう.
別館大講堂は、前にも触れたかもしれない.300人収容の大講義室である.
最前列から、前の方の席には、愛ちゃんと健ちゃん、アンテロスの別館子供軍団の仲間たち、さらに学校の友達たちの有志の10人ほどが、並んで座っている.その後ろには・・・・
な、なんと、学校の歴史の先生、校長先生、担任の先生たち.
その後ろには、さらに「ええ!」
事代主、建御名方、須佐之男命、おばば様、ヘスティア、デメテル、ポセイドン、ルシフェル、と言った、ギリシャはオリンポスと、日本神話の神様の大御所たちが少し怖い顔をして、キューピーの顔を睨みつけている.
演壇の設けられた、舞台の袖のカーテンの後ろでは、はるなと静香、アテナ、ペルセポネ、アルテミスが、裏方として、控えている.
さらにその後ろには、愛染の母ちゃん、つまり、アフロディーテが、立派に育った、息子の晴れ姿を、ハンカチで涙を拭いながら、見つめている.
前置きが長くなってしまった.
今日の演題は、
「火之迦具土神と、その子供たち」
である.
そっと彼の、講演を聞いてみよう.
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カグツチとは、古事記、日本書紀の神話における火の神.
『古事記』では、「火之夜藝速男神」「火之炫毘古神」「火之迦具土神」と表記される.
また、『日本書紀』では、「軻遇突智」「火産霊」と表記される.
神産みにおいてイザナギとイザナミとの間に生まれた神である.火の神であったために、出産時にイザナミの陰部に火傷ができ、これがもとでイザナミは死去した.その後、怒ったイザナギに十拳剣「天之尾羽張」で首を落とされ殺された.
「妊娠、出産の合併症で、妊産婦が亡くなって、それを悲しんだ、妊婦の旦那さんが、子供を殺してしまうという状況が、あるかどうかは疑問だが、生まれてきた、火
の神様は立派に大人の体裁を取っていたから、父親の深い悲しみと、激しい怒りの吐口となった、ということなのだろうか?」
「カグツチ、が子供というよりは、火そのものが使い方を誤ると、災厄でしかあり得ないということの、暗示?」
演者のキューピーは色々考えてみたが、結論は出なかったということである.
(確かによく考えると、この神話の物語、実際に同じようなケースで父が子供を殺したという話はあるのだろうか?知っている人は教えて欲しい.)
とにかく、日本神話の語るところによると、火之迦具土神は、生まれると同時に、母である、イザナミに重傷の火傷を負わせて、それが元で母は亡くなり、それを怒り、深く悲しんだ、父、イザナギの手によって、首を刎ねられて殺された.
『古事記』によれば、カグツチの血から、以下の神々が生まれた.
カグツチの血がイザナギの手にした剣に滴り、そこから生まれた、神々は皆剣の神たちである.
石折神
根折神
石筒之男神
以上三柱の神は、十拳剣の先端からの血が岩石に落ちて生成された神々である.
甕速日神
樋速日神
建御雷之男神
以上三柱の神は、十拳剣の刀身の根本からの血が岩石に落ちて生成された神々である。
建御雷之男神は、武甕槌神と表記されることもある.
別名は、建布都神とか、豊布都神と呼ばれる.
闇淤加美神
闇御津羽神
以上二柱の神は、十拳剣の柄からの血より生成された神々である.
また、カグツチの死体から、以下の神々が生まれた.
正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ、迦具土神の頭から生まれる)
淤縢山津見神(おどやまつみのかみ、迦具土神の胸から生まれる)
奥山津見神(おくやまつみのかみ、迦具土神の腹から生まれる)
闇山津見神(くらやまつみのかみ、迦具土神の性器から生まれる)
志藝山津見神(しぎやまつみのかみ、迦具土神の左手から生まれる)
羽山津見神(はやまつみのかみ、迦具土神の右手から生まれる)
原山津見神(はらやまつみのかみ、迦具土神の左足から生まれる)
戸山津見神(とやまつみのかみ、迦具土神の右足から生まれる)
「火の神である、カグツチの神から生まれたのが、剣の神であったり、山神である意味はなんだろうか?」
つまり、火から滴り落ちた血の雫、ドロドロに溶けた、鉄から生まれる、「鉄の剣」である.
山神は?そお、火山は皆、カグツチの子供達である.
山神様の元締めである、大山津見神は?
この神様を、火之迦具土神の子供であるというふうに書かれたものがある.
日本書紀の記述に従ったらしい.
しかし、古事記の記載では、オオヤマツミの神は、伊邪那岐神と伊邪那美神の子供、つまり、神産みの作業で生まれた、35の神々のひと柱である.
このような、死んだ神から新たな神が生まれる話は死体化生形型説話の類いで、火神である火之迦具土神の説話自体が当時の焼畑耕作民文化が母体となった火の起源説話とされており、その体が多くの火山になり、その血が火山の活動・噴出物を表象しているとしているとされる.その為、正鹿山津見神含めた八神の命名には火山や山焼きに関連しているという説がある.
「火の神、子供たち、つまりは、マグマのようにドロドロに溶けた、鉄は、製鉄技術の象徴であり、そして、火の神から生まれた、山から流れ出す、溶岩の象徴である・・・
鉄の剣を主とした、製鉄の技術、そして、火山の噴火.さらに加えて、炎に包まれた、山々や、枯れ草の野原、草木の、燃えた後から、また新たな芽吹きが起こる、焼畑農業・・・・
これらが、火の神より生まれた新しい神々であると考えるのは興味深いと考えます」
とキューピーは締めくくった.
「ううん!」と咳払いをして、座長に指名されるよりも先に、立ち上がって、マイクをスタッフから引ったくって発言をしたのは、須佐男である.
「火の神が、製鉄の起源であるという、はなし・・・・」
会場中が、一瞬凍りついたように緊張する.
「全く同感である!」それだけ言うと、彼はマイクをスタッフに渡して自分の席に戻っていった.
「はい!」と手を挙げて、発言したのは、ヘスティアおばさんである.
神話の中で、取り立てて、エピソードの残ってない彼女が、発言をするのは珍しいことである.
「火之迦具土神と同じような神は、ギリシャの神話で言えば、誰になるのでしょうか?
私、ではない.カグツチの神の子供には、竈門の火の神はいない.じゃ、人類に火をもたらした、プロメテウスか?それも違う.ギリシャ神話における火は、災厄を予見はするけども、実際に、火による、災厄の話はない多くはない.少なくとも有名な話では思い当たらないという人が多いのではないかと思う.」
一番後ろの席で、居眠りをしていた、ヘパイストスがヘスティアの発言を聞いてゆっくりと目を開けた.その前の席で、よそ見をして、お互いにふざけ合っていた、弟子の四天王も、ヘスティアの方を見た.
舞台の袖で、スタッフとして働いていた、アテナが、ボソリと呟いた
「ギガースたち、ウラノスの血を受けて大地から生まれたものたち・・・・
エトナの、エンケラドス
ヴェスビオスのミマース
コス島のポリュポーテース
・・・・・・・・」
「はいはいはい、座長!」
「おや、アテナさん、どうしたのですか?」ドクトルが聞く.
「私スタッフですけど、発言したい、しゃべらせて!」
ママと、海丸君と、何やら話して、キューピーにも「演者はいいですか?」と聞いたところ、キューピーは頷いた.演者もOKである.
「アテナさん、どうぞ」ドクトルが発言を促した.
「私と、ポセイドンと、四天王、そしてヘパの親方が大地の底に封じた、ギガースたち、彼らも、ウラノスの血を受けて、ガイアから生まれたものたち.日本の神と違い、神々の中には含まれないみたいですが.今回の議論と何か関係はありますか?」
「ほお、面白い視点ですね.アテナさんありがとうございます.確かに、火そのもの、火山について、ギリシャでは神々の中には含めない、日本の神話ではこれら自然の一部も神々と認識する、日本とギリシャの神話観の違いかもしれませんね・・・」
座長の、ママの意見であった.彼女は続けて話をする.
「火の神が、自分の母親を焼き殺すことで始まる日本の神話と明らか違う.ギリシアの火の神はギガースとして捉えられて、地中近くに封じられる.日本ではそれをそれぞれ神として崇める.
ギリシャと日本の神話の違いはどこから生まれるとお考えですか?ギリシャに生まれながら、日本の神話を極めようとされている先生にとっては、極めて重要なテーマかと思いますが・・・」キューピーに確認した.
「貴重なご質問とご指摘をありがとうございます残念ながら、私は、ギリシャの神々のこと、まだ勉強が不足しているかと思います.また改めて勉強したのちにお答えできると、嬉しいです.そんな答えで申し訳ありませんが・・・」
「いえいえ、先生のこれからのご研究に大いに期待しております」
海丸君が総括するように次のように発言した.
「日本の神話と、ギリシャの神話、何が火をもたらしたか、日本とギリシャの古代の人々が火をどのように認識していたか、また火を用いて、何が、可能になったか?そのような問題を考察する良い機会であったかと考えます.
日本と、ギリシャの古代の人々、火の神に対する認識の違いから垣間見える、文化的な背景の違い、はとても興味深いことです.
他のコメント、ご質問のある方はいらっしゃいますか?」
「・・・・・」
ドクトルがマイクを取った.
「コメント、質問等、ないようであれば、本日のキューピー先生のご講演はこれにて終了とさせていただきたいと存じます.今日は、ご参加いただきありがとうございました」
満場の拍手とともにキューピーの講演会は幕を下ろした.
その日の晩御飯・・・・
キューピーと、別館の子供たち、みんなが大好きな、「焼肉」だった.
愛染の母ちゃんはじめ、大人の皆さんが奮発してくれた.
学校の友達や、先生たち、偉い神々、皆さんが、わいわいと楽しく、食事を楽しんだとのことである.




