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イザナギとイザナミと・・・

案内のパンフレットの前にびっしりと、古代文が書かれている.誰もそんな文章を読む人なんかいないというのは、とおに、想定の上である.


(会場に、ナレーションが流れる.優しい女性の声である.はるな、かな?

ナレーションと同時進行で、正面のモニターには、縦書きの現代語訳と、映像が流れる)


「是に天つ神諸の命以ちて・・・」


伊邪那岐命、伊邪那美命、二柱の神に、

「是の多陀用弊流国を修め理り固め成せ」と詔りて、

天の沼矛を賜ひて、言依さし賜ひき・・・・


(おや、偉そうな神様の映像、あれ?

真ん中はレアおばばさま

その後ろはデメテル母さんとヘスティアおばさんが・・・

さらにその後ろには、

ゼウスにアテナが立っている

彼らの前には『こと天つ神五柱』と書かれている.


彼らが、何やら前に控えている男女に話しかけている.

そして、最後に矛のようなものを差し出して、

そしてその文字は、デゾルブのようにパラパラと消え、

神々の映像も消えてなくなった・・・・・)


(そこで神々の前に控えていた、2人の男女の周りの映像は、急に変わり、空を飛んているような幻想的な、風景・・・そして2人は、ゴツゴツした海とも岩場ともわからないところに降り立った.

歌舞伎の役者が出てくるような渡り廊下のようなところ.

さあ、新郎新婦、初めての共同作業です.あれ、でもまだ入籍はしてないのでしょ?いやいや、結婚式で、ケーキ切るのが、初めての共同作業とかって普通はないし・・・)


画面には訳のわからない、ト書きみたいな文章が出てくる.


客の中にクスクス笑いが起こる.しかしやや冷めた笑い・・

「冷笑?」かもしれない.


かれ、二柱の神、天の浮橋に立たして、

其の沼矛を指し下ろして画きたまへば、

しお許々袁々呂々邇画き鳴して引き上げたまふ時、

其の矛の末より垂り落つるしお、

累なり積もりて島と成りき

是れ、淤能碁呂島なり


(天の浮橋に立った2人は、5人の神々から与えられた、矛を使って、どろどろの大地をこねくりまわし始めた.こおろ、こおろ・・・・と.引き上げた矛の先のドロドロが落ちて、島ができた.おのころじまと呼ばれた・・・・


そして、また舞台は急展開して、2人は、岩の柱の前に立っている)


其の島に天降り坐して、

天の御柱を見立て、八尋殿を見立てたまひき

是に其の妹伊邪那美命に問ひて曰はく、

「汝が身は如何にか成れる」といふ

答へて白さく、「吾が身は、成り成りて成り合はざる処一処あり」とまをす

爾に伊邪那岐命詔りたまひけらく、「我が身は、成り成りて成り余れる処一処あり

故、此の吾が身の成り余れる処を以ちて、汝が身の成り合はざる処に刺し塞ぎて、国土を生み成さむと以為ふ。生むこと奈何」とのりたまへば、伊邪那美命、「然善けむ」と答曰へたまひき


(お前の体、ってどんな感じ?私の体、一箇所、凹んでいるところがある・・・

あなたの体は?あ、俺の体か、ちょうどお前の凹んだ場所は、出っ張って外に突き出している.

お前の凹んでるところと、俺の出っ張ってるところを合わせて国をつくろうか?

いいわよ・・・)


ここまで、アナウンスで、露骨にいうと、問題だから、映像で現代語訳が載っている.


尓して伊邪那岐命詔りたまはく、

「然らば吾と汝と是の天の御柱を行き廻り逢ひて、みとのまぐはひ為む」とのりたまひき

かく期りて、詔りたまはく、「汝は右より廻り逢へ、我は左より回り逢はむ」とのりたまふ

約り竟へて廻る時、

伊邪那美命まづ、「あなにやし、えをとこを」と言ひ、

後に伊邪那岐命、「あなにやし、えをとめを」と言りたまふ

おのもおのも言ひ竟へし後に、其の妹に告曰げたまひけらく、

「女子先に言へるは不良し」とのりたまふ

然れども、くみどに興して生める子は、水蛭子

此の子は葦船に入れて流し去てき

次に淡島を生みき

是も亦、子の例には入れざりき


(じゃ、お前はこっち周り、俺はこっち周りで、出会ったところで、プロポーズの言葉言おうぜ.わかったは・・・

岩の柱を2人は回る.どっちが、右回りか左回りかは、古事記の記載ではわからない)


(まあ、素敵、かっこいい彼氏、付き合いたいは!)

(まあ、可愛い、美人の彼女、付き合いてえ!)


こうして子供が生まれたのだが、最初の子供はヒルコだったので、海に流して捨てた

次の子供、淡島だったから、この子供は、子供のうちに入らなかった・・・


もうお分かりだと思う.

上記の物語は、「愛染結婚相談所」がプロデュースした、結婚式


「イザナギ・イザナミの神話 ー日本で最初の結婚式ー」である.


キューピー副社長の肝煎の企画である.


脚本、シナリオを手がけ、監督のメガホンを彼が自らを取り、

演出に至るまで彼が一手に引き受けた.


初めてのカップルがいよいよ本番となった.


リハーサルもそこそこに・・・


最初のうちは、演出の凝った感じ、幻想的な映像に皆、度肝を抜かれたが、いかんせん、難解なストーリー展開と、どうかすると、少し、アダルトな内容から、以後の予約は泣かずとばずと言ったところ、だったそうである.


肝心の新郎新婦が、古事記の世界観に追従するだけの教養を持ち合わせていないのが一番の問題であったのだろう.

「つまり、話についていけない・・・」ということらしい.

演じている2人の主役が物語についていけないとなると、もはや、ミスキャストというしかない.念入りに、オーディションをして配役を決めないとダメということなのだろう.


しかし、製作に要したコストはあまり大したことはなかった.

神々を演じた俳優さんたちは皆、別館の友達で、「友情出演」なので、ギャラは発生しないし、スクリーンの画像も一回作って仕舞えば、何度でも使いまわせるので、しかも静香や、アポロン、ヘパイストス、にアテナといった腕利き技術者が、うまい具合にやったから、それほどコストは掛からなかったということである.


パンフレットには、以下のような記載がある.あまり説明がないのが良くないかな?

現代語訳をつけて、また売り出すか・・・・


キューピー副社長、転んでも起きないのは母親譲りだった.


是に天つ神諸の命以ちて、

伊邪那岐命、伊邪那美命、二柱の神に、

「是の多陀用弊流国を修め理り固め成せ」と詔りて、

天の沼矛を賜ひて、言依さし賜ひき

故、二柱の神、天の浮橋に立たして、

其の沼矛を指し下ろして画きたまへば、

塩許々袁々呂々邇画き鳴して引き上げたまふ時、

其の矛の末より垂り落つる塩、

累なり積もりて島と成りき

是れ、淤能碁呂島なり


其の島に天降り坐して、

天の御柱を見立て、八尋殿を見立てたまひき

是に其の妹伊邪那美命に問ひて曰はく、

「汝が身は如何にか成れる」といふ

答へて白さく、「吾が身は、成り成りて成り合はざる処一処あり」とまをす

爾に伊邪那岐命詔りたまひけらく、「我が身は、成り成りて成り余れる処一処あり

故、此の吾が身の成り余れる処を以ちて、汝が身の成り合はざる処に刺し塞ぎて、国土を生み成さむと以為ふ。生むこと奈何」とのりたまへば、伊邪那美命、「然善けむ」と答曰へたまひき


尓して伊邪那岐命詔りたまはく、

「然らば吾と汝と是の天の御柱を行き廻り逢ひて、みとのまぐはひ為む」とのりたまひき

かく期りて、詔りたまはく、「汝は右より廻り逢へ、我は左より回り逢はむ」とのりたまふ

約り竟へて廻る時、

伊邪那美命まづ、「あなにやし、えをとこを」と言ひ、

後に伊邪那岐命、「あなにやし、えをとめを」と言りたまふ

おのもおのも言ひ竟へし後に、其の妹に告曰げたまひけらく、

「女子先に言へるは不良し」とのりたまふ

然れども、くみどに興して生める子は、水蛭子

此の子は葦船に入れて流し去てき

次に淡島を生みき

是も亦、子の例には入れざりき

(古事記)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そこで天つ神たちは、

伊邪那岐命と伊邪那美命の二柱の神に命じて、


「このまだ形の定まらず、ただ漂っている国を、きちんと整え、固めて完成させよ」

と口頭にて指示して、天の沼矛あめのぬぼこを授けて、その仕事をお任せになった.


そこで二柱の神は、天の浮橋に立ち、

その矛を下へ差し入れてかき回した.


海水はコオロコオロと音を立てて揺れ動いた.

やがて矛を引き上げると、

その先から滴り落ちた塩が重なり積もって、一つの島となった.


これが淤能碁呂島おのごろじまである.


二柱の神はその島に降り立ち、

そこに天の御柱を立て、広大な御殿を建てた.


そこでイザナギは、妹であるイザナミに尋ねた.


「お前の体は、どのようにできているのか」

イザナミは答えた.


「私の体は、ほぼできあがっていますが、

まだ一か所、完全ではない部分があります」


するとイザナギは言った.


「私の体は、ほぼできあがっていますが、

一か所、余って突き出ている部分があります.


だから、その私の余っている部分で、

お前の足りない部分を補い、

国を生み出そうと思うが、どうだろうか」


イザナミは、

「それがよいでしょう」

と答えた


そこでイザナギは言った


「それならば、私とお前でこの天の御柱の周りを回り、

出会ったところで夫婦の契りを結ぼう」


そして取り決めて言った

「お前は右から回れ、私は左から回ろう」


そうして互いに回って出会ったとき、

まずイザナミが言った

「ああ、なんて立派な男性でしょう」


続いてイザナギが言った

「ああ、なんて美しい女性だろう」

しかし、その後イザナギは言った.

「女性であるお前が先に声をかけたのはよくない」


それでも二人は交わって子を生んだが、

最初に生まれた子は水蛭子ひるこであった。

この子は葦の船に乗せて、流してしまった。

次に淡島あわしまを生んだが、

この子もまた正式な子とは認められなかった.


 現代語訳が後に続くパンフレットを新たに刷りなおしたのだった.


「しかし、まあこのパンフレット、読みこなして、このコースで結婚式、しようってカップルがこの世の中にどれだけいるか、というのが問題だろうな・・・」ルシフェルの意見である.

「キューピーくん、ちょっと力入れすぎたかもしれませんね・・・」ドクトルも同意する.

「最初のお客.そして、これが最後のお客かもしれないけど・・・・」

司会とナレーター担当のはるなである.

「なんでも、新婦のご両親、結婚式の後、大事な一人娘の結婚式、こんなんじゃ、あんまりだ、って、三日間泣き続けたそうよ・・・」

(うん、うん・・・)と親友の海丸君もしきりに頷いている.


その後この結婚式の予約があったかどうかは誰も知らない.

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