ドクトル、隙あり!
職員検診週間である.
放射線技師さんに、
「先生、ちゃんと、検診の心電図、取りましたか?先週のうちに取らないとダメなんですよ、職員検診受けないと、この病院首ですからね!」
と言われて、「は!」と思い出した.
土曜日に行けばいいやと思っていたのだ.そしてその週の土曜日は、病院は休診日だった.
「しまった、忘れてた!」
「先生ー、ちゃんとしてくださいよ、職員の義務なんですからね!」
「はあーい」
ということで、ドクトルは自分の検診センターの仕事が終わると、売店に買い物ついでに生理検査室を覗いてみた.受付に誰も座っていないし、検査室から、何やら技師さんと、患者さんらしき人の会話が聞こえる.
「ああ、なんか忙しそうだな・・・」
と、ドクトルはあっさり撤退して、またレントゲン室の方に行き、いつもの無駄話をしていた.
その前に売店によって、チョコのパンと、ベーコンのパンを買ってきた.点数のシールがついていて、30点だか、点数を集めると、おしゃれな皿がもらえるらしい.
クリームと杏のジャムが美味しい、スペシャルサンドは、ドクトルは結構買うので、店にないときはおばちゃんが、
「先生、今日はスペシャルサンド売り切れなんですよ」と言われるくらいであった.
しかし、残念ながら、スペシャルサンドは、0.5 点だ.
今日買ったチョコのパンと、ベーコンのパンは、それぞれ、1点だった.
ランチパックのハムカツサンドは、なんと、2.5点である!
「あれ、ハムカツサンドそう言えばあまりないかな・・・」
診察券と、これまでに集めて渡しそびれた、シールを、貼った、絆創膏の空き箱、どういうわけだが、絆創膏は全部使ってもうなくて、添付文書だけが入っている、意味不明の箱.
要するに空き箱で、表面がツルツルしているから、
「お、これはシールを貼るのにちょうどいいや・・」ということで使っていた.
医局の机の引き出しに無造作に入れてある.それに、検査の時に必要な、自分の診察券を、クリップでこれまた無造作に引っ付けて、ポケットに入れていた.
なんの話をしていただろうか?
「シール、検査科でも集めてるみたいだったら、心電図、期限までにやらなかったお詫びの印に賄賂として渡すから、ちょっとまってて.」みたいなことを言って、他の話をしていたらしい.
何気なく、ポケットに手を入れたら、(あれ、絆創膏の箱・・・触れない・・・)
しかしドクトルは、深くは考えない.
「先生、しっかりしてくださいよ、なんか無くなってませんか?」正面の若い技師さんに言われて、周りをキョロキョロ見渡すと、後ろで、絆創膏の箱を、持った技師さんが、いう.
「先生、スリにあっても、気がつきませんね、隙だらけですねー」
「え、いつの間に、私、今までスリにあったことなんか一度もないんですよ、いつの間に・・・」
絆創膏の箱は返してもらって、また別の話をしていたら、
「先生ー、気をつけてくださいよー」と
今度はさっきの技師さんがドクトルのハンカチをチラチラさせている.
「え?!いつの間に」
本当に気がつかなかった・・・
「先生、やっぱり隙だらけですよ.ポケット後ろ向いてるから、すられ放題ですよ」
歳をとって、注意が散漫になったのだろうか?
高次機能障害、ないはずなんだがな・・・・
実際、文章を書いたり、読解したりする能力は、歳と共にどんどん向上しているようにすら思える.
いや待てよ、この頃、人の名前とか、薬の名前、言葉が出てこないことがあるか、
これは、老いなのだろうか・・・・
その後、心電図をとってもらいに検査室に行き、
「心電図、本当は先週のうちのなんだけどやってもらえますか?」と丁重に聞いて、
「なんなら、パンのお皿のポイントシールあげるけど・・」
「先生、いいですよ・・・」
黙々と検査をしてくれて、心電図を記録した紙を渡された.
「お、正常心電図.心筋梗塞とか、不整脈はなさそうか・・・」
「裏に名前書いて、検診の時受付に渡してください」事務的に指示された.
またレントゲン室に行き、これまでに溜まった点数のシール、0.5+0.5+1+1=3点分.を渡してきた.
「ハムカツサンドと、スペシャルサンドと同じポイントだ.これくらいの計算は、大丈夫か・・・」
絆創膏の箱を差し出したところ、技師さんがシールを剥がして、
「先生、毎度.すでに、お皿1枚分くらい貢献してますよ!」
いや、そこは「ありがとうございます」だろうが!と思うのだが、あまりいうと老害と言われそうなので、何も言わない.
医局に戻り、ボケ予防のために、色々と書き物をしたり勉強したりした.




