荒ぶる神を逮捕せよ!
別館.
誰が言い出すともなく、こう呼ばれるようになった、はるなの家.
なんと、10万平方メートルに及ぶ、広大な田んぼ
何LDKか、家主も知らない、無限の部屋数、
大学の講義室かと見紛う、大講堂、
多くの住人、それぞれが、正体不明・・・
そう、その正体不明の住人は、皆、古い神話に登場する神々なのだ.そして
その神々と会話のできる、いわば霊媒のような不可思議な人たち.
なぜこうも、いろいろ神々が集まり、そのサロンのような場所になったのか?
物語の初めから読んでいる人にはなんとなく謎が解けつつあるのではないかと思う.
「あ、しまった、ないしょ、ないしょ・・・・」
ドクトルは今日も、別館の図書室、はるなのお父さんの書斎であった場所を借りて、勉強をしたり、執筆をしたりしている.
のどかな、はるの日.
昨日は大雨だった.夜のうちに雨は上がり、朝方、南西の方角には月.
空に雲はほとんどなかった.
朝、天気予報によると、午前中、10時以降は曇りらしい.
「それ!布団干しと、洗濯、早い時間にしてしまえ!」
はるなと、静香が、先頭に立って、子供たち、居候たちを使って、布団を干したり、シーツとか、タオル、服やら下着の洗濯である.
「あ、外に放置された、バケツ、水が溜まってますね、ちょっと洗って乾かして、納谷に入れたほうがいいでしょうか・・・」海丸くんは、これからの季節、ぼうふらが水溜りに、増えて、夏の蚊が大量発生しないかを恐れている.
「うーん、ちょっと蚊の季節、まだ早い気がするけど、水溜りを作ってる、バケツ、地面の水溜り、ちょっと、乾かしておいたほうがいいかもね・・・」はるなは、デメテルと相談して、庭に転がっている、バケツを残らず、綺麗に洗い、下に向けて干した.乾いた後は、雨のかからないところに片付けておいた.
家中、皆で一斉に掃除をした後、思い思いの、勉強、読書、運動、買い物に出かけるもの.
「別館」のいつもの光景である.
しかし穏やかな別館の「結界」の外、街ではちょっとした、騒動が起こっていた.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そこの、男、刀を置いて、いうことを聞きなさい!」
「いうことを聞かないと、発砲します・・・」
何人かの警察官が、拳銃を男の方に向けている.
男はかなり年配のようであるが、立派な体格.埴輪の着ている服、「貫頭衣」というのだろうか、それに柔道のズボンのような、袴?を履いて、背中には、長い日本刀のようなものを背負っている.クビには勾玉のような首飾りをしている.
まるで、日本神話から出てきたような、いでたち・・・・
古代から、現代に迷い込んで、
あたりをキョロキョロしている、荒ぶる神
(刃渡り、何センチ以上の刃物を持ち歩くと、銃刀法違反で、警察に捕まる、そりゃ戸惑う、わな・・・)
「いや、俺はちょっと孫娘のところに行こうと思って、道を聞いただけだ、怪しいものじゃねえ・・・」
いや、どう見ても怪しいし、何より、刀をもって、街の中を徘徊している!
「背中の刀を我々に大人しく渡しなさい・・・」
「俺の無実は、誓で確かめてもらっても構わねえ」
いうことも訳がわからない.
「貴様、何を言ってる?」
現代人、「誓」がわかる人は、古代神話オタクくらいだろうし.
男は、まだ刀を抜いてはいない.そして、仕切りに、怪しいものではない、と訴える.
「俺は戦いに来たのではない、信じてくれ、ただ、孫娘に会いに・・・・」
男はまだ刀を背中に背負ったままで、こちらに向かってくるので、
警官たちが、一斉に拳銃を空に向けて警告発砲をした.
(本当は、落ちてくる、弾、あれはあれで、下にいる人に当たると危ないのだけどね・・ドクトルは昔、おばあさんの家に遊びに行った時、シェパードを警察犬の訓練するために来ていたお巡りさんに聞いた話である.)
今まさに、警官たちが男に向けて、引き鉄に力を入れて、発砲しようとした時、
「あ、爺さん、いつきたの?」買い物帰りの、事代主が、のんびりした声で、男に話しかける.
「え!?」警官たちは、男と、事代主をキョロキョロと見比べる.
警官の中の管理職らしい男が、事代主に尋ねる.
「あなた、この男と、知り合い?」
「ええ、父の後添えの、つまり私たちの義母にあたる人のお父さんです」
後からきた、建御名方、それにアテナと四天王と、ルシフェルである.
「あ、爺さん、何やってるの?久しぶりじゃない!」建御名方がいう.
「須佐男先生!」ゼウスが懐かしそうに呼びかける.
「おお、ゼウス、おめえ、こいつら、なんとか説得してくれ、怪しいもんじゃねえって・・・」
「ああ、なるほど・・・・」とゼウス・ルシフェルは、警官たちに事情を説明した.身内なので、見かけは危険そうだが、害はないことを説明した.
「まあ、鬼丸さんのいうことなら、心配ないか・・・」
この界隈でのルシフェルの名前は、鬼丸厳一郎である.
彼は、すでに街の顔役のようになっていて、大体の揉め事は彼が、ちょこっと、口を利くと、めでたく解決する、ということになりつつある.
それに彼のお嬢さんのアテナさんとその友達の四人の若者たちには、警察は日頃からとてもお世話になっているのだった.
あれほどの騒動が、何事もなかったように治った.
四天王と、アテナもいろんな機会に須佐男とは、面識があったので、知り合いである.
「師匠、なんか久しぶりっすね、この頃どうすっか・・・」
「おお、見ての通り、元気だ!お主らも、どうだ、ヘパの親方に絞られてんだろう、あいつ結構、厳しそうだもんな・・・」
「ははは、まあ、うちの親方なんか、結構付き合い方、上手くすれば、ちょろいもんすよ」
実はあまり知られていないが、須佐之男命、出雲が発祥のたたら製鉄の、神でもある、らしい.
そして彼は、洪水から田んぼを救い、暴れ川の治水を行なった神としても知られる.
ヤマタノオロチ伝説、頭が八つの蛇とは、8つの暴れ川である.
そして、怪しく燃える、蛇の目、それは、鍛冶場の火なのだ.
須佐男がオロチの尻尾を切るとき、十握剣を使ったのだろうか?
「かちん」と硬いものにあたった.そこから出てきたのは、天叢雲の剣であった.
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氾濫する川を治め、製鉄を始めた.それが須佐之男命・・・・
鍛冶屋の弟子の四天王は、戦だけではなくて、刀の鍛え方を須佐男に教えてもらったことがある.
彼がヤマタノオロチから取り出した、天叢雲の剣、日本の皇室に伝わる三種の神器の一つである.
とにかくすごい神なのだ.なんせ、天照大神の弟であり、兄である、月読命と三人合わせて、「三貴神」の1人であるのだから.
もちろん、そんなことまではお巡りさんには説明しない.
「それじゃ、ご苦労さんです」とルシフェルとアテナが警官たちに敬礼し、
くるりと須佐男の方に向き直り、四天王と、大国主の息子2人と須佐男を囲んで、ワイワイガヤガヤ楽しそうに話しながら、行ってしまった.
警官たちは呆気に取られたように彼らを見送った.
彼らの声は、別館の森の結界の中へと消えていった.




