とと様と、かか様と・・・・
遠くで風に揺れる、鈴の音のよう.だんだんと近づいてくる.
眠りが浅くなってゆくにしたがって、話し声のように聞こえる.
それは、子供の声のようだ.
「かか様は、この子を友達に見せるのだと・・・」
「とと様、おまえ、それはやめとかないかい、なんせあそこは戦ばだ、今回だけは、私一人で・・・」
「どうしても私も連れていってくださいな、かか様は、言い出したら聞かぬ人・・・」
「おじじ様、なんとか、嫁を説き伏せてくれますまいか・・・」
「荒ぶるかみのじじ様も、なかなか娘にゃ、敵わない・・・」
「この子は、言い出したら、聞かぬゆえ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
雪割草たちの囁きだ.
この頃、よく聞こえる.
父様、母様、おじじ様・・・・
「一体誰のこと?それにこの子を見せる?友達?戦ば?」
起床後、はるなは雪割草たちに聞いてみた.
「この頃の囁き、いったい誰のこと?」
「・・・・・・」雪割草の精霊たちは、夜明けの後はあまりおしゃべりをしなくなる.
はるなは時計を見る.午前5時.
「あ、もうご飯の支度しないと、ダメな時間だ!」
裏庭では、すでにデメテルが、物置の掃除とか、畑や田圃の草むしりをしている.
台所では、ヘスティアおばさんと、今日はアテナが支度の手伝いをしてくれる当番だ.
子供達は、キューピーと、海丸くんの指図の元で、広大や屋敷の掃除をすでに始めている.
「おはようございます・・・」はるなはヘスティアと、アテナに挨拶をする.
「おや、珍しいね、寝坊かい?」ヘスティアおばさん.
毎朝、大体、台所に一番最初に来るのは、はるなだから.
「おばさん、この頃、雪たちが、いろいろ話しかけてくるんですよ、とと様とか、かか様とか、おじじ様とか、なんでも子供を戦ばに連れて行くって・・・・」
「おや、雪たちがそんなことを・・・・」
ヘスティアおばさんの遠くを見つめる目をした.
「おう、おめえらいつも早いな・・・」ルシフェルが、珍しく早起きをしたらしくて、台所を覗きにきた.大体、彼は、夜遅くまで書斎で本を読んだり、勉強したりして、朝はそれほど早くないことが多いのだが.でも彼も彼なりに、いろいろ考え事をして徹夜したりすることもあるらしい.
「あら、ルシフェル、早起きね.それとも夜中、徘徊?あ、誰かのとこに夜這い?」
はるながいうと、
「違う違う、昨夜は、ドクトルに借りた本、ずっと読んでいろいろ考えていたら眠れなくなったんだ.だから昨夜は徹夜の勉強だ!」
「へえ、親父、まだ、勉強する気力、残ってんだ・・・」アテナがからかうと
「何をいうか、昨夜は、ハリソン内科学で、血液の凝固と線溶とか、深部静脈血栓症の勉強だ、いつもドクトルに教わるのは、全知全能の神としては癪に触るからな・・・」
「ほお・・・」はるなと、ヘスティア、とアテナは、それ以上何も言わないで、台所仕事を続けた.
「あ、そうだ、ルシフェル、勉強の話と全然関係ないけど、父様と母様、おじじ様、いくさばに子供を連れて行くって、昔なんかそんな話って、あった?神話とかで・・・なんでも母様が子供を友達に見せるんだって聞かないから、父様もおじじ様も困ったって・・・」
「雪割たちが言ったのか?」ルシフェルが聞くと、はるなは黙って頷いた.
「ほお・・・・」ルシフェルも遠い目をした.ヘスティアおばさんと同じような顔をする.
「ルシフェル、何か知ってるの?そんな神話あるの?」
ルシフェルと、ヘスティアが顔を見合わせた.
2人はちょっと困ったような顔になった.
「ねえ、ねえ、ルシフェル、昨夜勉強してたって血液の勉強、なんか関係ある?」
しばらく、天井を見上げて、何か考え事をするようなルシフェルがおもむろに、はるなの方に向き合った.
彼女の目をじっとみてから、優しくいう.
「全く関係ない!」
はるなと、アテナとヘスティアが、どてっとよろけて、ズッコケそうになった.




