おっかない、舅に鍛えられ・・・
ゼウスは、大穴牟遅神の屋敷に招かれて、談笑している.
大穴牟遅神は、優しそうな、美男子である.話し方は穏やかで、話題は多岐におよび、深い教養を感じさせる.
ゼウスの印象は、(それはこの男はモテる、は・・・・)
実際、大穴牟遅神は、女の子にえらくもてた.そして、男にも好かれた.
兄たちを除いて・・・
八上姫に結婚相手に指名されてからの話の続きである.
「いやー、兄たちの嫉妬というか、いじめはどんどんひどくなりまして、荷物持ちの下僕扱い、なんて生ぬるいものでなくなり困りました.」
八十神による大国主の迫害という、古典的に有名な、話である.古事記にももちろん詳細に記載されている.
ある時、
「あの山に赤い猪がいる.俺らが、上から、追って、山の上から落とすから、お前は下で受け止めろ・・・」
兄たちに指示されて、下で待っていると、赤く熱した大きな岩が転がり落ちてくる.それに巻き込まれて、大穴牟遅神は死んでしまう.悲しんだ母の頼みで、キサガイヒメとウムギヒメが治療してくれて、蘇生した.
さらに兄たちの追及は続く.たくさんの木材を、楔で止めた小屋の中に閉じ込められた.兄たちは木材を止めた楔を外して、木材をがらがら崩して、大穴牟遅神の上に落とした.また彼は死んでしまったが、母の善処で生き返った.
「しかし、こんなことの繰り返しじゃ、キリがないね・・・」と母親の勧めで、須佐之男命が治める、根の国(死者の国)にしばらく身を隠すことになった.
須佐之男命は、高天原を追放されて、出雲に辿り着き、いろんなすたもんだの末に、根の国の、最高神・大神となっていた.
「そこでですね、私は、根の国の大神様の娘、須勢理毘売命(すせりびめ の みこと)に、ひどく好かれてしまって・・・・」
ゼウスも結構モテるから、この話は単なるモテ自慢には聞こえない.
この男なら、さもありなん、である.
「お父様、私、あの方に一目惚れしたの、結婚したいわ・・・」
「なーにー!」と須佐之男命は娘をにらみつけて、
「どこのどいつだ・・・・」と、とりあえず遠くから、大穴牟遅神を見極めようと観察をした.
「いかんいかん、おめえ、ダメだ、あんなナヨナヨして、ひ弱そうなやつ、頭はそこそこ良さそうにも見えるが.もっとお父さんみたいに強くて逞しい男にしなさい」
須佐之男命は、鍛え上げた、腕で力瘤を作って見せた.衣の胸ははだけて、モジャモジャの胸毛がはみ出した.
須勢理毘売命は、「ベー」と舌を出して、顔を顰めた.もちろん須佐之男には見えないように.
「いやよ、お父様たら、乱暴で、教養がないんですもの.私はああいう、物静かで頭が良さそうで、ちょっとなよっとして、ハンサムな方が断然好み!」
地下組織のボスである父上は納得がいかない.
出雲に来てからは、高天原で大暴れした時のような、野獣性は多少緩和されたものの、生まれ持った、須佐之男の獣の血が騒ぐと手がつけられない.
「うおー、グオー!ガルルル・・・」
しばらく、須佐之男命の獣の雄叫びは根の国中に響き渡った
それからが、大穴牟遅神に、須佐之男命が与えた、数々の試練が始まる.
しかし、これは、兄たちのような、ガチの敵意ではないから、今から考えてみれば、試練とはいえ、優しいもんである.
蛇の部屋
ムカデの部屋
ネズミの部屋
・・・・・・
詳細は省略するが、皆、須勢理毘売命のスカーフやら機転やらで、なんなく、クリアできたのだから.
二人は,申し合わせて、待ち合わせをして根の国から、地上に脱出した.そこで、正式に結婚した.
現代でいうところのいわゆる、「駆け落ち」である.
根の国の宮殿から脱出する際、大穴牟遅は、ちょっとした、いたずらを思いついた.
「うししし・・・・」
なんと、大いびきをかいて寝ている、須佐之男命、モジャモジャの髭やら髪の毛を柱に括り付けておいた.
須勢理毘売、「?」意味がわからん.でも、あまりあれこれ言ってるうちに親父が起きたら大変、とそのことは何も言わないで、先を急いだ.
そして、2人は、宮殿を脱出する時に、弓と、剣と、琴を失敬してきた.
ロックな、荒くれの須佐之男命の持ち物だから、お琴ではなくて、あるいはエレキギターだったかもしれない.
流石の、須勢理毘売もこれは黙っていられなかったようである.
「ちょっと、あんた、弓矢と剣はわかるけど、そんな琴なんか落ち出して、どうすんの!それはおいていきなさいって」須勢理毘売は、思い立ったら一直線だが、色々物事の理解が早い、女性である.武器ならともかく、親父の琴を盗んで持っていく意味がわからん.
案の定、大穴牟遅は、琴を壁の出っ張りにぶつけてしまり、「ボロン」と音がなってしまい、それで、須佐之男は、目を覚ましてしまった.
髪の毛や、髭をくくりつけたくらいで、この荒ぶる神を「抑制」したとは思っていない.直ぐに須佐之男命は2人を追いかけた.しかし、すでに娘とその男は、根の国の出口に差し掛かり、これから、黄泉比良坂をかけあがろうという時である.
そこまでされたら、父親は娘の結婚を認めざるを得ない.
しばらく、2人を見上げながら、須佐之男命は言った.
「まあ、そこまで好きならしょうがない.でもな、大穴牟遅神よ、おめえ、いつまでもナヨナヨしてだらしなくて、娘を不幸にしたりしたら、承知しねえ!」
須佐之男命は、続ける.大事な娘を嫁にやる、一人の父親の婿たる男に対する要望(?)である.
「弱い男じゃ、俺の娘は守れねえ、いくら気が強い娘と言っても、嫁に守られるようじゃ、婿失格だ.おめえは、とにかく強くなれ!」
そして・・・・
「おめえには、地上の支配者となるように、名前を与える・・・・」
「大国主命!」
つまり、地上の世界、芦原中国のボスだ!
「いいな、しっかりやれ.」
黄泉の比良坂、つまり、根の国と、地上の境界で、2人を見送り、そう言い残すと、須佐之男命はまた、根の国の奥深くに戻っていった.




