葦原中国(あしはらのなかつくに)
「この人、異国の人?」
「この国の人ではないね・・・どこから来たのだろう・・・」
「疲れているみたいだね・・・・・」
「でも、穏やかな顔をしてるよ・・・・」
「優しそう・・・・・」
「大国主と同じくらい、優しそうな顔・・・」
「ねえ、ねえ、スクナヒコ、この人、どこから来たのだろう・・・」
「遠いところから旅してきた人みたい・・・」
「ねえ、スクナヒコ、この人誰だろう・・・・」
「どうする?スクナヒコ、おこす?」
「どうしようか、スクナヒコ・・」
「怪しい人には見えないけど・・・・」
野原の真ん中で、でんと、大の字で寝ているゼウスの周りの草花が、この男のことを話題にしている.
草花と、同じくらいの背丈の、子供?草木の妖精?
小さな男?
ニコニコしている.
蛾の羽と、蚕の繭、落ち葉で織った、蓑をまとっている.ミノムシ?
しかし、小さいが、人の格好をしている.
草木の精霊は彼のことを、スクナヒコと呼ぶ.
大国主命の盟友、その国つくりの事業を支えた、無二の親友、
少彦名命その人である.
「うーん、気持ちよさそうに眠ってるね・・・もう少し寝かせといてあげようか・・・ところで、大国主は、今日はどこに?」スクナヒコは草花たちに聞いてみる.「この頃、あいつ、忙しいみたいだね・・・」
「なんでもね、国が出来上がりそうなのを、出来上がったら、全部そっくりそのまま引き渡せ、なんて、高天原の奴ら、いってきてるみたい・・・」草花のリーダーが少し不安そうにいう.
「大国主、そこらへんのところ、優しすぎるっていうか、欲がないっていうか、どうするつもりなんだろうね・・・・」スクナヒコもここまで作り上げた国の行く末に関して少し不安を感じていた.
「この国を高天原にそのまま渡すなんて、私は反対!」
「でも、あいつら乱暴者だって話だから、なんとかうまく交渉した方がいいかも・・・」
スクナヒコと、草花たちの国の将来について議論が、次第に込み入ってきた.
皆がああでもない、こうでもないと、自分の考えを披露する
ゼウスがでんと寝転がっているその周りには、芝桜、菜の花、たんぽぽ、すみれ、竜胆、レンゲ草と言った春の花、つくしが生い茂っている.
「うーん」と伸びをしたゼウスがうっすらと目を開いた.
「うるさいな・・・・・」
上体を起こした、ゼウスが周りを見回しても誰もいない.
あたりは一面に、
たんぽぽと、菜の花の黄色
蓮華のピンク、
あざみと、レンゲソウと、薄ピンクと紫
圧倒的な広がりを見せる、芝桜の紫、ピンク、薄桃色
葉の緑
極彩色の、草花の絨毯・・・・
そして、その草花が、一斉に、ワイワイガヤガヤとおしゃべりをしている.
「なんか、賑やかだな、これが、インドの、ブラフマーが言ってて、賑やかな、精霊?」
「あ、起きた、異国の人、起きたみたい・・・」
「あ、起きた起きた、聞いてみようか・・・」
「あなたが聞いて・・・」
「君が聞けよ・・・」
「じゃ、私が聞いてみる・・・ねえ、あなたは、異国の人?」
「あなたはどこからきたの・・・」
「うん?誰だろう、私に話しかけているのは」
周りは一面春の草花である
「私たちよ、ほら、色とりどりの、草花・・・・」
「ほら、あなたの周りの草花、あなたに話しかけているのは・・・」
「あ、ほんとか、ブラフマーの言ってた通り、皆おしゃべりだね・・・」
「おしゃべりって、ちょっと失礼じゃないこと、私たち、あなたにお話ししてあげてるのよ・・・」
「あ、ごめんごめん、私はゼウス、ずっとずっと西の国、ヘラスの国の、クレタ島から、旅をしてきた.昨日、海を渡って、この島に来たばっかりだ.みんなのおうちに邪魔したみたいで申し訳ない」
「いいえ・・・」
「どうぞどうぞ・・・」
「ご遠慮なさらないで・・・・」
昨日の夜にはわからなかったが、見渡す限りの草花の絨毯
知らずにいつの間にか眠ってしまったらしい
眠りにつく前に聞こえたのは彼らの話し声だったのか・・・・
草花のそれぞれに宿る、精霊たちが国譲りに関する議論は一旦そっちのけで、一斉にゼウスに話しかけるから、大変な騒ぎである.
彼らのまさにカオス的なおしゃべりを制して、スクナヒコが初めて、ゼウスに向かって話しかける.
「異国から来た人、私は、スクナヒコの命、ご覧の通り、小さいが、この国の国つくりの神の一人だ!」(本当は、大国主が国作の神で、私はその助手、いいところ、ご意見番みたいな感じかも・・・)
スクナヒコは初対面のゼウスに向かって、ちょっと胸を張って、威厳を示そうとした
「は・・」と起き上がったゼウスは、正座して、丁寧に両手をついて挨拶した
高貴な人の前に出た時の礼は、中国で教えてもらった.
「私は、西の国、ヘラスから来た、ゼウスというものです.お邪魔しています.世界を見るたびに出て、今、最終目的の、この島に辿り着きました!」
一旦、静かになった草花たちのおしゃべりが、再び、始まり、あたりはかなり騒がしいことになっていた.




