殷から周へ
世界史の教科書や、漢文の授業で、殷の紂王は結構何度も出てきた.
「酒池肉林で有名な王様ですよね」静香も教科書の基本を覚えている.
「あ、山川の詳説世界史、教科書にはこの名前は索引にも載ってませんね・・・」
「でも詳説 世界史研究という参考書は索引に名前がありました・・・」
「紀元前14世紀頃から国力を増した、周は、文王の子の武王の時代、紀元前1027年、牧野の戦いで、紂王を破り、殷を滅ぼした・・」
殷の紂王、夏の桀王と並ぶ、古代の暴君の代名詞である.
毒婦の妲妃の色気に目が眩み、
酒池肉林の生活で、贅沢の限りを尽くし、
諌める臣下や民衆は、「焙烙の刑」で虐殺した.脂をたっぷり塗った、銅製の柱をどんどん熱して、それに抱きついて登らせて焼け死なせるという、残酷な刑罰である.
殷の国は、意思決定は、亀の甲羅を熱して、その割れ目の入り方で、占いをして国家の意思を決定していたらしい.神の声を聞く神官のような職種がいたのだろうか?
殷墟という、河南省の安陽から出土した、殷の時代の遺跡からは大量の処刑された後のような骨が出土したらしい.殉死者か、政治犯か、戦争で負けた国の人々か・・・
そして、殷王朝の末期になると、青銅が普及し始め、それは、周の時代にさらに発展した、と教科書にはある.
周の遺跡からも、亀の肩甲骨が出ないわけではないが、出土は減り、青銅器の出土が多くなった、らしい.
封建体制の国家で、初めは、一族のつながりを重視する政治形態が、礼に基づいた統治なのだが、次第に血縁関係による統治が、希薄となり、やがて、西方からの外圧、犬戎の侵攻によって、西周は滅亡して、都が鎬京から洛邑に移った.紀元前770年のことである.
以後の時代、秦によって、中国が統一されるまでの時代.
前半を春秋時代、後半を戦国時代という・・・・・
諸子百家が、争鳴した時代、
世界規模で、人間の思想史における、
ヤスパースの言うところの「枢軸時代」がここにもやってきた
そんな時代である
そして、戦国の七雄を征服した、秦王が、中国全土を統一し、「始皇帝」となる
秦の時代は20年足らずでおわり、項羽と劉邦の時代を経て、漢の時代に・・・
「へえ、世界史の知識もこうして整理してみると、なんとなく理解しやすいかもしれませんね」海丸くんは、勉強を皆でする意味を改めて知った感じである.
「それで、ルシフェルさん、鎬京の旅、どんな感じだったのですか?あまり記憶がないって言いながら、なんか印象的なことって、あったのでしょ?」
「それがね、この町では、神と名乗るものには一度も会わなかった・・・、そして神の声を聞けるという、いわゆる、霊媒のような存在にもついぞ、お目にかからなかった.若い頃の旅でこんな街は初めてだった、かもしれないな」
「天」は語られるが神は現れない
祖先は祀られるが対話はない
神の制度化
一体誰がその声を聞けるのだ?下々のものには理解できない
・・・・・・・・・・
つまりは、
「神が制度とか、法律とか、概念になっている」
・・・・・・・・・・
「または別の言い方をすると、神が宮殿かどこか、遠いところに隠れてしまった存在、そんな国だったのかもしれないね」
ルシフェルの回想は続く.
「それで・・・」早めに、この街を出て、さらに東に向かうことにした.
海を超えないとダメだから、ラクダの二頭をなんとかしないと・・・
西に向かう信用できそうな商人に、ラダーと、クダーと大きな袋につめた、アンブロシアをいくつか渡して、後から、どっかの街で落ちあう約束で、
「俺は、一人、朝鮮半島から、オケアヌスの入り口に浮かぶ、島国を目指すことになった・・・・・」




