破壊と創造の神・・・「シヴァ」
梵天博士の家に入ったが、彼は、ぶつぶつと自分の発見した「真理」を子供達に話して、子供達は
「何言ってるかわかんない・・・」
「なんか今日もつまんないね・・・帰る?」
「帰ろ、帰ろ・・・・あんな授業なら、お父さん、お母さん聞かなくてよろしいっていうと思うよ・・・」
ということで子供たちはこの日は、一人帰り、二人帰り、誰もいなくなったのだが、梵天博士はぶつくさと何やら言いながら、白板に書き込みをしている.
この人も腕が2本飛び出た背負子を背負っている.後ろの腕、右手には壺、左手には弓を持っている.本来右手には本(これがヴェーダという彼らの宗教のありがたい経典らしい)左手には数珠を握りしめていた.この時も左右と後ろには、顔のお面をかぶっている.頭の上についた顔は途中でちぎれたままだそうな.
ここで初めてヴィシュヌが、梵天に話しかけた.
「よお、梵天、相変わらず、わけわからねえ授業だな、まだ聞きにきてくれる子供さんいるんだな・・・」
梵天は、先ほどの子供たちに対する講義の時のぶつくさいう話し方ではなくてハキハキした喋り方で
「日に日に、私のありがたい講義を聞きに来ようという、奇特な子供は減っておる.なんと嘆かわしい・・・世も末だな.」
「いや、おめえがいう真理っていうのがちょっと漠然としすぎてむづかしいってことじゃねえの?もう少し、噛み砕いて具体的な話でないと子供にはむづかしいと思うぜ・・・」ヴィシュヌがいうと
「まあ、それも一理あるが・・・しかし、私の語る言葉には、宇宙生成の秘密が随所に盛り込まれておるのに、これを聞かないとは、もったいない話ではあるな」
「うーん、まあ、おめえの話を聞くよりは、家に帰って麦の粉引いた方が、時間の有効利用ってことなんだろうな・・・・」
「・・・・・」ブラフマー=梵天博士は、聞こえていたが、返事をしなかった.
「このお方はな、さっき、村が、アシュラ党に襲われた時に、俺に助太刀してくれた.ヘラスの国のお方だそうで、名前は・・・・あれなんだっけ」
「あ、私はゼウス、クレタという島から来ました.今、世界を旅しているところです」ゼウスが自己紹介をした.
「ほお、ゼウスとは、なんとなく、ありがたい響きのお名前だな、なんか偉い神様でそういう人いなかったかな?」梵天博士の指摘は、かなり鋭い.そもそも彼らをアシュラ党の魔の手から村を幾度となく、救ってくれた、ディアウス様と同じ名前なのだから・・
しかし梵天博士もどういうわけか、ゼウスとディアウスを関連づけることはできなかったらしい.それくらい、ゼウスの見た目は普通の若者だったのだろう.
「そんでな、梵天、このヘラスの国の若者、なんと、雷を使えるそうだ.それにお持ちのツノの筒からは、アムリタと似た、なんとも美味なドリンクを出すことができるのだ・・・」
アムリタとは、インド古来から伝わる、いわゆる、「甘露」という飲み物で、アシュラの一族と、神々が揃って海を引っ掻き回す、乳海攪拌という大事業で取り出した、魔法のドリンクらしい.ギリシャのアンブロシアのように、ツノの中で熟成して、飲み切ったら次の日にはまた同じものが出てくるという手軽な入手はできない.ありがたいドリンクらしいのだが.彼はアムリアよりも、アンブロシアをありがたがるわけが理解不能である.
「そんで村の面白人物を案内して回っているんだが、シヴァは例によって、踊り狂って話にならんから、まずはおめえさんのところに来てみたって話さ」
「ほおほお、それでヘラスの若者よ、お主、わしの話、聞きたいじゃろ?なんの話がいい?色々あるぞ、天地創造の話、あれはわしの話の中でも1、2を争うありがたい話じゃが、さっき子供らにしたのを聞いておったろ、ではどうするかね・・・・」
「あ、いや、ありがたいお話なら今度、時間のある時にでもゆっくり・・・」とゼウスが、遠慮がちにいうと
「そうか、せっかくいい機会なのにもったいないことだぞ、私の話は、そうそう、聞けるものではないのだが・・・」梵天博士がいう.
「ま、そういうことで、じゃゼウスよ、これからシヴァの家に行ってみるかい.」
「あ、そうしましょうか・・・あの梵天さん、ありがたいお話はまたいつか・・・」
ということでヴィシュヌと、ゼウスは梵天博士の家から脱出することに成功した.
色白の綺麗な奥さんと、川で溺れかかったという、マヌという女の子が、ヴィシュヌを見送りに来た.
「おじさん、また来てね・・・」
奥さんは仕切りにヴィシュヌにお辞儀をして、そして両手を合わせて拝んでいる.
ヴィシュヌは、母親に似て可愛らしい顔をした、マヌちゃんに手を振って、梵天博士の研究所を後にした.
シヴァの家は、街のハズレにあった.
構えは何やら怪しげな家であるが、中に入ると、お香のいい香りがした.
呪文を唱えるような、何やら運動中で荒い息遣いのような音が聞こえる.
「おおい、シヴァ、いるんだろ、入るぜ・・・」
ヴィシュヌは、遠慮なしに部屋の中に入っていった.ゼウスもついて中に入っていった.
シヴァは、座禅中?何やら複雑な形に足を組んで、地べたに座り、そして、気合とともに、宙に浮こうとしている.彼のお尻と地面の距離は、なんと1mくらい空いている.しばらく空中で止まっているようにも見える.
そして地面に落ちる時には、何も音がしない.
「すー」と床に吸い込まれるように、音もなく着陸する感じである.
「これはな、俺たちの修行で、ヨガという、運動だ.」
「ええ、あんな形で、足を組んだら、骨が折れたりしません?それに骨が折れないまでも、なんかすごく痛そうなんですけど・・・」
ゼウスは運動や労働についてはあまり苦痛を感じないのだが、無理な形に関節を動かすこと、つまり、関節本来の可動域を超えて、無理やり曲げ伸ばしをできる範囲を超えて、つまり、関節の可動域、(現代の医者たちは関節ごとにROMという数値を用いて、表現するらしい)を超えて、痛みを起こしてまで、動かす意味について、理解し難いものがあるので、ヴィシュヌに聞いてみた
「あんな関節の動かし方、大丈夫なんですか?」
「そう、それがヨガの奥義だ.あえて限界ギリギリ、あるいは限界を突破するような、痛みを起こすような運動、体操をして、神との合一を図る、それがヨガだ!」
「おお、ヴィシュヌ、来ていたのか・・・」初めて、シヴァの声を聞いた.
「お、話ができるようになったか、シヴァ、この方は遠い西の国、ヘラスの国から来られた方で、アシュラ党の奴らに村が襲われた時に俺に助太刀してくれて、雷の力で、俺のことを助けてくれたのだ.お前からも礼を言ってくれ・・・」
「おお、それはありがとう、ヘラスの方、名はなんと・・・・」
「私、名前をゼウスと言います、ヘラスの国のクレタという島で生まれ育ちました.今は世界を見に旅に出ています」
「ほお、ゼウスというのは、我々の守り神、ディアウスと同じ語源だな、なかなかすごい力をお持ちだ、雷を操れると・・・・一度その奥義を教えていただきたいものだな・・・」
ここに来て、初めてゼウスとディアウスの同一性に気がついたのは、シヴァその人だった.
痛そうな体操を見て、ゼウスがちょっと顔を顰めているのに気がついたシヴァは、
「あ、これか、この体操はヨガと言ってな、痛みが限界を越えると、なんかこお、体の中が、スーとするというか、痛みが限界を越えると、快楽に変わる、そんな体操だ.今日はやってないが、下に生花の剣山とか、忍者のマキビシとか画鋲みたいな、針とか先の尖ったものを置いておくと、効果は倍増なのだが・・・どうだい、一緒に?」
「いえ、いえいえ、私はちょっと、そういう痛いのは・・・」ゼウスは、シヴァのやや独りヨガりのヨガ勧誘に迷惑そうな顔をしていたが、シヴァはそれに気がつく様子はないようだった




