俺とみんなと宣告
お久しぶりですぅ。
それでは、どぞ。
「そうなのか、ルフト?」
隣に立つ小虎の問いに小さく頷く。
『リュー』
俺はその名を聞いたことがある。
以前、ルフェン女王に村の救援を依頼された時、俺たちの前に立ちはだかった魔者・スレイスが最後に口にした名だ。
「それじゃあ、伝言を聞こう」
問い質すような視線に生唾を飲み込む。
怖い。
彼女に、スレイスの死を告げる事が堪らなく怖い。二人の関係性は知らない。けれど、死際に言付けを残す程に仲が良いことだけは間違い無い。
そんな相手に、友人の死を、告げる。
俺が殺した、と。
この手で殺したのだと。
……そうだ。
告げなければいけない。俺は、彼女に彼を殺したと告げる義務がある。責務がある。
生ある者の生涯を奪ったのだから、最後まで全うしなければならない。
「『この甘ちゃんのスレイスでも人間を殺す理由が見つかった』
そう言って死んでいったよ」
拳を握り、震えそうになる膝を必死に抑えて、その目を見据える。黒い渦を彷彿とさせる、睨みつけるような双眸を。
「……そうか」
ふつ、と瞳を伏せたリューは、椅子を半回転させ俺たちに背を向ける。
同時、強張っていた筋肉の力が一気に抜けるのを感じた。
それは、安堵による脱力。
仇だと言われて刺されずに済んだという安心。
だが、そんな安心も束の間。
今度は全く別の理由で身体を緊張が襲うことになる。
「……ふっ、ふふ。ふは、ふはは!あははははははは!!」
室内に木霊する高らかな笑い声。
邪気も悪意もない、心底からおかしいといった類の笑声。
この瞬間、この室内にいる俺たちはみんな同じことを考えただろう。
【真実を知っておかしくなった】
と。
錯乱による戦闘も懸念される中、しかしその考えは間違っているのだと、次の彼女の発言で気付かされる。
「は、ははは。はは……。はぁ。
いや、悪い。はしたない姿を見せた。…ふふ。
大丈夫。安心しろ。おかしくなったわけじゃ無い。いや、おかしいんだがな?はは」
一頻り笑い終え、再びこちらに向き直った彼女は、目尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら更に続ける。
「いやな、実はスレイスの奴から『お前はまるで石だな』と言われるくらいの生来の無感情でな。お陰で普段はあんななのだが……ふふふ。
唯一、アイツの口にする冗談だけは相性が良いらしく、今のように爆発してしまう事があるんだ。
故に、アイツの…スレイスの文字通り命を賭したシャレは、見事私の琴線に触れたというわけだ。
……ふふ、いかんいかん。思い出すとまた笑ってしまいそうだ」
淑やかなお嬢様を真似、口元に掌を添える幼女を想起させる彼女の仕草に呆気に取られてしまう。
「怒らない……のか?」
思わず出た疑問に口を閉じる。
何を言ってるんだ俺は。殺した奴に問われて[はい]と答えるわけがないだ……
「ああ。怒らない」
俺の予想とは裏腹に、微笑みを残したままリューはそう答えた。
「戦いであるならば生死は必然。人間と魔者であるなら尚更だ。
…むしろ、感謝さえしている」
「感謝、ですか?」
「ああ。
なにせ、アイツの遺言を届けてくれたんだからな。お陰で一生で一番笑えた」
訝しみ、質問したセラには『感謝している』とさえ答える。
しかも、その理由が【笑えたから】だって?
「……何を、企んでいるんだ?」
「企む?」
フタの困惑にやはり疑問をもって返答するリュー。
彼女は少し考えた後、思いついたように言葉を漏らす。
「…あぁ、そう言うことか。
つまり、敵討ちをしろ、と」
怒りによる身震いも、悲しみによる上擦りもなく、リューはただ単語を発する。
「敵討ち……敵討ち、か。それも悪く無い」
二度、机を突きながら繰り返す。
そこにはやはり怒りや悲しみの念は無い。
……あるのは、微笑みにも似たナニカ。
「どうして、そんなに平然としていられるんでっすか……!?」
苛立ちを混えたナリの問い。
だが、リューはそれに言い返すでもなく、再びこちらに身体を向き直して言い放つ。
「覚悟していたからな」
先程の混沌とした双眸に俺たちを捉えて。
「人間は直ぐに思い付くよな。仕返し、仇討ち、敵討ちってさ。
けど、それになんの意味がある。殺された人間が殺した奴を恨むのはわかる。やり返したくだってなるだろう。だが、周りの人間はなんだ?
無念を晴らす?仇を取る?ふざけるなよ。そんなものは所詮残された側の怒りだ。去って行った者の心じゃ無い。殺された奴が抱いて行った怒りの方が遥かに大きいに決まっているだろ。だが、それでもそいつは死んで《逝った》。恨み辛みで呪いを掛けずにあの世へ逝ったんだ。仇も敵もない。
あるのは、相手への敬意だろ。『よくも俺を倒したな。大したもんだ』って言葉だけだ」
一度も。たった一度も、瞳を逸らさず、まばたきもせずに、彼女はそう言った。
「……話過ぎた」
呆然としている俺たちをよそに、リューは襟で鼻先まで覆うと、可愛らしく映るあくびを漏らす。
「って事で、ほら。さっさと行け。そこだ」
目元の涙を拭いながら指差した先。そこは、道が続いていそうな暗闇がある。
「真っ直ぐ行って突き当たりを右。そうしたらまた真っ直ぐで城の中に着く」
再び漏らしたあくびに負けないよう言い切ると、机へと突っ伏す。
「あぁ、それと。そこの山になってるガラクタの一番上のやつ、あるだろ」
額を持ち上げず、指差す先を変えるリュー。
二度目に指された方には彼女の言う通り、いまいち用途の分からない道具が山積みになっている。
その頂点に置かれているのは、片手分の手甲。
「それ、欲しかったら、やる。使い勝手は知らん。じゃ」
口早に説明し終えると以降、安らかな寝息しか聞こえなくなった。
「……なんなんだったんだ、こいつ…」
手甲を取りに行った小虎の呟きに誰も答えることが出来ない。
スレイスの友人らしき少女、リュー。
彼女が俺たちを先に進ませ、更には防具を譲ってくれる理由は何も分からない。
だが、それでも。彼女の抱えた気持ちは痛いほど分かった。
「……行こう。俺たちは、俺たちの認められる世界のために」
セラ、小虎、フタ、ナリ。全員の頷きを確認し、リューの指差した通路へと進んでいった。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー。




