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俺とみんなと瀬戸際

どぞ。


暁に染まる世界。

空は不気味な朱色をたたえ、大地は血液をぶちまけたように赤黒い。

中でも、一際濃い赤がこぼれた地がある。

剣戟が響く。

刃と刃の迫り合う音か?否。

刃と鉄拳の交わる音だ。

本来ならば有り得ない、生物的な金属音を響かせながら打ち合う者たち。

鉄拳を持つは既に異形と化した者、いずれ異形へと至る者、両者は同じ存在であり。

刃を持つ者は俗に人間と呼ばれる生き物だ。

彼らの間にあるものは深く、広い。

故に。この剣戟が止む時は、どちら一方が地に倒れ伏すまでだ。


「クソがッ!!なんで切れないんだよ!」


「人間じゃ無いからさっ!」


鎌と棍の鍔迫り合いを、フタは弾く形で距離を取った。

額と左腕から微かに血を流し、歯ぎしりをしつつクナイを三本投げ飛ばす。

弧を描くように横に並んで射出されたクナイが対峙するキョウの元へ空を裂きながら向かっていくが、男はそれを腕の横払い一つで叩き落とす。


「飽きないねぇ、ホント。いつまで同じこと繰り返したら気が済むんだか」


何食わぬ顔でキョウは再び戦棍を構える。

対して、フタは既に肩で呼吸をしていた。

当然だ。曲がりなりにも魔物と同構造の臓器を持つキョウと、人の身の限界までしか鍛えられないフタでは、そもそもの差がありすぎる。

端的に説明するなら、キョウたち魔者は全力疾走を一時間したとしても呼吸を荒げる事はないが、フタやナリのように鍛え抜かれた人間であっても十分で血反吐を吐いてしまう。

そのような基本性能の差がある中で、フタはかなりの善戦をしている。

キョウが彼女を侮っているというのもあるにはあるだろうが、それでも、ナリに意識を向け、いつでもコドウとハヤトに一太刀浴びせる気概を持って戦っている彼女は既に超人の域と言えるだろう。

ーー超人、と言うのならば。


「やるな、お前。人間風情が一人で俺たちを相手取るなんてよ」


「ああ。まさか、こんな所で強き者に会えるとは思わなかったよ」


変態した魔者と、変態を心構えている魔者と対峙しているこの人物こそが超人だろう。


「本当に凄い。驚嘆だ。

フタもそうだが、人間が、術も使わずに俺たちと戦い続けるなんて異常にもほどがある」


コドウの言葉に返答はない。

あるのは、無呼吸と見まごうほどの静かな吐息と、全身に漲る異様なまでの集中。

ナリが見据えるのは、二人のみ。

構えた短刀とクナイを固く握り、再び駆け出す。


「…とは言っても、なぁ」


瞬き一つで詰まる距離を直線に駆けるナリに、ハヤトは拳を握り、突き出した。


「おんなじこと繰り返されてちゃあなぁ!!」


だが。


「ッ!?何!!」


風音を鳴らして真っ直ぐに突かれた拳をすり抜ける。

短刀がハヤトの腹部に刻み込まれる瞬間。


「馬鹿野郎!!」


コドウが轟き、ナリを殴り飛ばす。


「あ、危ねぇ…」


僅かに裂かれる薄皮。

血が滲み出る。

あとほんの少し振るわれるナリの短刀が早ければ、ハヤトの腹部からは臓器が溢れでていただろう。


「悪い、コドウさ…!!?」


「ははっ。おっかねぇな、あいつ」


飛ばされたナリを見据えていたハヤトが振り向くと、そこには左腕からクナイを引き抜くコドウがいた。


「あ、あの野郎…!」


「まぁ待て、そう怒るな。

…ってぇ」


根元までずっぷりと差し込まれていたクナイを放り投げ、出血部を抑える。


「あいつ、多分もう、今のお前でも手に余るくらい強いぞ」


「…なに?」


「見てみろ、あの目。岩に叩きつけられたってのに、痛がる様子すら無い。

お前でさえ俺に殴られたら咳き込むくらいするのによ」


「……はっ!アレじゃどっちがバケモノか分からねぇな」


ハヤトの額に汗が流れる。

疲労や代謝によるものではない。

ナリの、身震いするほど鋭い視線に捕らえられたからだ。

全身を縛る鉄縄のような恐れ。それをハヤトは全身で感じていた。

…だとしても。


「俺がアイツより弱ええかも、だって?ふざけんな。人間ごときに負けたら、俺はなんだっていうんだよッ!」


「ハヤトッ!!」


身体に食い込む鉄縄の棘も、コドウの静止も聞かずハヤトは駆け出す。

彼我の距離は僅か数歩。

短いその距離で、ハヤトは右手を歪な剣に変える。

先端十数センチを鉤爪状に形成し、肘までを頑強な刃物としたそれを、ナリの首目掛け左上から振り下ろす。


[絶対に当たる]


という、確信を胸に。


「……はぁ?」


だが、鉤爪の腹がナリの首を捉えることはない。


「なんでオメーが邪魔するんだよッ!!えぇ!?キョウ!!!」


剣となったハヤトの腕を弾き飛ばしたのは、キョウが手にしていた戦棍だ。

飛来したそれは、ナリの首を搔き切る直前に肘付近に激突し、衝撃で軌道を大幅にずらした。

怒りを露わにして声を荒げたハヤトは戦棍の飛んできた方向を睨みつける。


「……お、おいおい。冗談だろ」


その先に居るのは、右腕を切り落とされたキョウと、首から鎖骨にかけてを抉られたフタだった。


「ぐぅ…クソッ…確かに、油断ならないな、コイツら」


力無く倒れ伏したフタを憎々しげに見下ろしながらキョウは痛みに耐える。肘から先を綺麗に切り落とされた腕を必死に抑えながら。


「なんでそんなになってんだよ」


「…お前がやりあってた奴が危ないと思った途端、迷わず私の腕を切り落として首元を貫いていた棍をぶん投げたんだ。

末恐ろしい奴だよ。そんなことしなけりゃ、あそこの女に治してもらう余裕くらいあっただろうによ」


ハヤトの元へと歩くキョウは彼の質問に答えながら岩石に張り付いているナリを睨む。

だが、動く様子はない。

気を失っているだろう事は容易に想像できる。

実際、ナリの意識は既に途切れていた。

全身のいたる所の骨が砕け、ヒビ割れ、肺は限界まで酷使されている。常人ならとっくに意識を失い、最悪の場合は死に至っていただろう。その上でナリはハヤトと戦い、腹部を強打し背面から強い衝撃を受けた。生きていることが奇跡のような状況だ。

そんなあり得ない状態の中で、ナリは妄執にも似た信念を湧き上がらせている。

意識がない状態で、灯るはずのない光を、ナリは瞳に宿している。

貴様を射殺さんばかりの視線を宿し続ける。


「…コドウさん、コイツら、相当ヤバイです。二人掛かりで一人なら分かりますが、二人相手取って死んでないとなると、アレ使わないとマズイんじゃないですか」


出血が治らない腕を抑えキョウはコドウに打診する。今はいっときの脅威が去ったフタとナリを見て。


「……そうだな。あぁ、アレをやろう」


僅かに眉をひそめたコドウは頷き、ハヤトを見やる。


「あんまりやりたかねぇんだよなぁ、アレ。

……ま、しょうがねぇか」


岩から落ち、地面に倒れ込んでしまったナリから離れた彼らは、ルフト達全員から距離を取り、一箇所に集まった。


「いいか、合図は俺が手を上げたらだ。間違えるなよ」


「分かってるよ」


何か、段取りを取る三人。

話し合いが終わり、ハヤトが右手を空に向け突き上げた時だ。


「………随分、やってくれたみたいだな。お前ら」


「…へぇ、これまた早いお目覚めだな」


暁に染まった世界の中に存在する全員の視線が一箇所に集まる。


「えぇ?ルフトよぉ」


服が避け、治癒痕が露わになった男が、鬼神が如き怒りを帯び、その先に立っていた。














To be next story.

それではまた次回。

さよーならー

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