俺とみんなと再戦
どぞ。
刀と拳が打ち合うという、歪な空間。
暁の空に染められた世界で彼らは刃を交える。
決して砕かれる事のない刀身と、幾度太刀合おうとも血の一滴も溢れぬ拳。
ただそれだけでもルフト達には脅威だが、それとは別に彼らはもう一つの恐怖感を覚える。
「ハヤトッ!」
「あいよ!」
キョウの首元に迫る凶刃。それを呼びかけ一つで拳を持って防ぐハヤト。
「マズい!避けろ!ナリ!!」
そうして己の前に現れたハヤトの肩を軸に蹴りを放つ。
「うぅっ!?」
間一髪、ナリは身体を捻り直撃を免れるが無傷ではない。
肩の部分の服が僅かに裂かれ、紅が滲む。
ルフト達の覚えた恐怖感。それは、彼らの息のあった行動だ。
己で防げぬ攻撃は側にいる誰かが防ぎ、己では届かぬ攻撃は誰かが補う。
一朝一夕では習得し得ない完璧な共同戦線に、ルフト達は後手に回ることを余儀無くされる。
「よそ見してて良いのか!?ルフト!!」
「ルフトさん!」
「う、おおお!!」
みぞおち目掛けて放たれる一閃。光の筋と化した拳をギリギリのところで柄で受け止める。
嫌な音を立ててしならせる拳をルフトは辛うじていなし、その勢いのまま回転斬りを放つが。
「甘いんだよ、女たらし」
「ぐッ!?ゴフッッ!!」
「「「「ルフト(さん)!!」」」」
後方より飛来したキョウの戦棍がルフトの右腹部を抉り穿つ。
血を吐き、膝から崩れ落ちるルフト。
だがそれでも、軌道はまだ生きている。
「…いい根性だ」
致命ではない。
彼にとって擦り傷でさえない細やかな一撃は、しかし、それまで流す事のなかった赤黒い血を首元より流させた。
が、そこでルフトの意識は途絶える。
手元より離れる柄長ノ太刀、膝からではなく顔から沈むルフト。
地に伏した男を見て、コドウは背を向け歩き出した。
「ハヤト、一度コドウさんの元へ行くぞ」
「は?なんでだよ」
「傷を治さないといけないだろ」
「……はいはい。わーったよ」
真偽不明の言葉を残し、ハヤトとキョウは対峙するフタ、ナリ、小虎に背を向けコドウの元へと駆け出す。
「…クソッ!
行くぞ、二人とも!ルフトを護らなければ!」
「はい!」
「わ、わかった!」
憎々しげに唇を噛み、倒れ伏すルフトの元へ駆け寄る三人。
そこには、既に治療を始めているセラがいた。
「起きて下さい!ルフトさん!!」
腹部より溢れ出る大量の血液を、セラは術を使い押し留めている。
僅かでも気を抜けば出血多量で死に至るほどの大怪我。
如何に天才的な能力を持つ彼女だったとしても、この傷を癒すのは容易ではない。
「ルフトッ!」
「ルフくん!!」
呼びかけに反応はない。指先一つ、眉ひとつ動かない。
「お、おい!大丈夫なんだよなセラ!?」
「分かりません!
このまま治療を行えば大丈夫でしょうけど、でも…」
セラの覗く先、そこにいるのはとっくに傷を治したコドウと手当てをしたキョウ、身体が冷えぬよう温めているハヤト。
「…まぁ、許してもらえないでっすよね」
「あぁ。その通りだ。
そろそろ再開してもいいかな?」
敵を殴り殺すのに特化した先端に付いた血を払い、構えを取るキョウ。
セラ達は理解している。
どう返答しようと、戦闘が始まることを。
「みなさん!私はルフトさんの治療に専念します!!あの三人のお相手、お願いします!!」
「ああ!そっちは任せたぞ、セラ!」
「僕とフタに任せといて下さい!
小虎ちゃんは飛び道具がセラっち達に当たらないように弾いて下さい!!」
「わかった!!」
ナリは短刀とクナイを構え、フタは鎖鎌の分銅を回し、小虎は小槌を手にする。
「ハヤト、キョウ、行くぞ!!」
「「応ッ!!」」
「「参る(りまっす)!!」
大地が蹴られ、音が共鳴する。
響く鉄と鉄の交錯音。
「くぅっ!?こ、のぉぉ!!」
ナリは、右手にした短刀で戦棍を受け止め、左手に持つクナイでコドウの拳をいなす。
そのすぐ真後ろでハヤトと鍔迫り合うフタは、奴の視線の動きを見逃さない。
「頭を下げろ、ナリ!」
「うえッ!?」
ナリとフタの頭上をハヤトの凶拳が掠める。瞬間、突風が頭上で巻き起こる。
人一人を殺めるには過剰過ぎる殺意。この魔者は、フタを貫き、ナリさえ殺めるつもりで今の一撃を放っていた。
「危なッ!?
おい!ふざけるなよハヤト!!俺も殺す気だっただろ!?!?」
「おっと、バレちまったか」
正しくは、ナリと対峙していたキョウをも殺すつもりだった。
「………クソッタレがぁぁ!!」
「おっと!
おいおい、そう怒るなよ。仲間内の喧嘩は許さない主義の人間か?」
頭の上で無防備に伸ばされる赤い腕に迫るフタの鎌腹。それをハヤトは難なく避け、三歩、遠ざかった。
「…あまり、私たちを舐めるなよ」
「なに?」
フタは鎌の先を親指で拭い、狂人的笑みを浮かべるフ。
途端。
「何笑っ…!?」
鉄と見まごう光沢を放つハヤトの腕が一瞬にして液状になり、暁の大地にこぼれ落ちる。
びたびたと嫌な音を立てて飛沫を立てる己が身の一部を見、ハヤトは両肩を震わせる。
「……おい、二人とも。俺は変態するぞ。巻き添え食らうなよ」
怒りに満ちた呪を吐き出し、僅かずつだが確かに恐怖がフタとナリに襲いかかる。
「ホント単細胞だな、アイツ」
「まぁそう言うな。
ハヤトが変態するんだ、俺たちも準備しておこう」
「…まぁ、アンタがそう言うんでしたら…」
それまで、人と大差のない見た目をしていたハヤトの姿形が少しずつ変わっていく。
耳が尖り、肘が僅かに突出し、瞳が猫のように鋭くなる。
そうして、魔者として完成する。
「さてと、どっちから死にたい?」
言葉は恐怖を纏い、風となってフタとナリの鼓膜を刺激する。
二人から流れる滝の様な汗。
あの男の言っている事は油断でも余裕でもなんでもない。本当に、好きな順番で自分たちを殺せるのだと、直感で理解してしまえた。
「あいつの目が醒めるまで生きてられるといいけどな?」
顎で指す先にいるのは、以前目を醒ます事のないルフトと、懸命に治療を施すセラ。
「…っははは。確かにそうでっすね。
でも、そんな心配するのはそっちでっすよ?」
「だな。
他二人に気を配っていた私に傷をつけられる様な男だ。姿が変わったくらいで雑魚は雑魚だろうよ」
吹き出る汗を拭う事なく口角を持ち上げた二人。
ハヤトは、そんなフタとナリを見て、腕を身の丈程ある剣に変える。
「コドウさん、キョウ。手を出すなよ。
本当に俺が雑魚なのか、今から試すからよぉッッ!」
「構えて下さい、フタ!」
「あぁ!ぶちのめすぞ、ナリ!」
真っ赤な剣を構え駆け出したハヤトに、フタとナリは身構えた。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




