俺とみんなと二度目の出会い
どぞ。
『行ってきます』
見送ってくれたサルナとネフェン、それにツギハとヨウにそう言ってからどれだけ時間が経っただろう。
呼吸の苦しくなるくらい視界を占める淡白な岩々が連なった、ロクに雑草も生えてない大地をみんなで歩き続ける。
会話は少ない。だが、決して恐怖に恐れているわけじゃない。
みんな、どこから何が襲ってきてもいいように緊張を保っているんだ。
…ただ一人。
「ホントに何にもねーなー、ここー」
この小虎を除けばだが。
「だから言っただろ、家で待ってた方がいいって。
お前、どっちかっていうと物で溢れてるようなとこが好きだろ?」
左隣を歩く小虎に文句を言うが、全く響いていない。
「まーな。退屈しないし、見るのが飽きたら弄って遊べるし。
けどさ」
「なんだよ」
「いっつも留守番はヤだろ。ネフェンはいつも家にいるとは限らないし、つまんないんだよ。
それに、オレだって一応冒険者だし?ネフェンがルフェン女王に働きかけてくれたおかげで[一人前]の冒険者にもなれたし、いいだろ?」
寂しげな表情を浮かべて言われ、少しだけ頷きそうになる。
だが、小虎の言ってることは、[実力も無いのに頼られる側になった]と言うことだ。とても喜ばしいことでは無い。
「つったってなぁ」
「まぁいいじゃないでっすか。今は少しでも人手が欲しいんでっすし、帰れと言ったところで帰るような人でもないでっすし」
水筒の水を飲みつつ答えるナリにため息がこぼれてしまう。
そうは言っても、生き死にが如実に現れる場所へ向かうのにその考えはどうなのだろうかと、思ってしまう。
「そうだぜ。
それに、何があっても護るって言ったのはお前だろ?」
「……そういやそうだっけか………」
思わぬところで昔の自分に首を絞められ何も言えなくなってしまう。
「そう言うことだ。いい加減腹をくくるんだな、ルフト」
「りょーかい」
半笑いでフタに釘を刺され、とうとう愚痴も言えなくなってしまった。
………しょうがないか。いざとなったら術を使って見えなくなるくらいの事は…
「なにか来ます」
和やかな空気に振り下ろされる緊張。
みんなーー小虎でさえも、ただ静かに警戒心を張り巡らせる。
気配を察知したセラが睨む先は、いくつか突き出ている大きな岩のうちの一つ。その影が、揺れた。
「よぉ。久し振りだな」
現れたのは見覚えのある顔。
「ハヤト…!」
以前、戦ったことのある魔者…圧倒的な力の差を見せつけた後、手負いの虎がどうのと言って帰ったアイツだ。
「まぁそう焦んなよ。今回は他にもいんだからさ」
「なに?」
ハヤトの言葉が合図になり、他の岩から現れる二つの影。
そのどちらにも、俺たちは出会ったことがあった。
「コドウに…」
「キョウ、でっすか」
衝撃を受けるフタとナリに二人は言葉を返す。
「如何にも」
「よ、三週間振りくらいか?」
「そんなに経ってねぇだろ。精々一週間じゃねぇか?」
そうして、三人は眼前に立ちはだかった。
「(やり辛い相手ですね…。どうしますか?)」
「(一人ずつやれれば良いんだが…)」
「敵を前にお喋りか?随分と余裕だな」
苛立った声を上げるのはハヤトだ。
隣に立つセラとの会話さえ許してもらえない。
「まぁそう言うな。ルフト達はここで戦闘になるとは思ってなかったんだろ」
「でしょうね。なにせ、そう思うように私が仕組んだんですから。
足場が悪く戦いに向かない地。頑強に堅牢に閉じられた扉。 普段の魔王軍ならいざ知らず、方々に兵が赴いている今、突破しようのない扉を守る余裕など無い。そう判断したんだろ?」
薄っすらと笑みを浮かべて語るキョウは、手にしていた戦棍を大地に突き刺すと、右手を空にかざした。
「ありがとう、本当に。
お陰で、お鉢が回って来た」
言葉と同時に世界が一転する。
それまで晴れ渡っていた青空は不気味な朱色に染まり、岩肌の露出していた大地は踏みやすく平坦な土壌に変わる。
「何をした!?」
叫ぶフタに、キョウは相変わらず微笑みを浮かべたままだ。
「あんな場所での戦闘がやりやすいのなんて、魔物でも魔者でもそういないからね。やりやすい場所に変えさせてもらっただけだよ」
「安心すると良い。ここは見た目こそ気色悪いかもしれないが、逆に言えばそれだけしか普通のところとは違わないからな。
呼吸できるし、暑くも寒くも無い。化け物が出るわけでも無いからな」
「はぁ!?なんでそこまで教えてやるんだよコドウ!!!」
「別に良いだろ。いつまでも隠せることでも無い。さっさと理解してもらって、戦闘に専念してもらえた方が良いだろ」
仲間内で揉める三人を意識下に置きつつ、周囲を警戒する。
セラ、ナリ、フタとそれぞれ視線を合わせ分かったのは、コドウの言う通り、気色の悪い空間だけ、ということ。
……信じられないことに、コドウは本当に俺たちにこの空間を教えたのだ。
戦闘中、相手以外の事柄に意識を割くのがどれだけ自身の命を危機に晒すのか知らないはずがない。
なら何故、俺たちの不利を無くす行いをしたのか。
心当たりは、一つだけある。
「な、なぁコドウ!もしかして、俺たちがお前の仲間になるかもって、まだ思っててくれてるのか!?」
そう、以前あいつが話していた『全ての種族が手を取り合って暮らす』という夢を、今も抱いてくれているのなら…
「実はな、もしも俺たちがこの戦争に勝ったら、俺達の誰かが次の王か、その王の側近になれるかも知れないんだ。
それが叶ったら、叶ったら!お前の言っていた全員が手を取り合うって世界を創れ…!?」
コドウの拳が、俺の太刀の刃に触れている。
反射で構えたのが間に合ったみたいだ。身体に怪我はない。
ーーいや、触れるすんでのところで、ピタリと止められている、のか。
「それ以上、俺の夢を侮辱するのは許さない」
爆風のように全身を駆け巡る恐怖。
これ以上受ければ、身体を切られてしまうのでは無いかと錯覚するほどに研ぎ澄まされた視線。
身動きが、取れない。
「お前の言うそれは何があっても絶対に決して天地がひっくり返っても受け入れられない。
今いるみんなを生贄にして次代に繋ぐ?そんなの、俺達の子供に誇れるわけ無いだろ」
瞬き一つをした瞬間に、それまで僅かに手を伸ばせば触れられたコドウがいなくなっていた。
「いつまでおんなじとこ見てんだよバカ。コドウさんはもうこっちにいるっての」
「本当、愚鈍な男だ。
こんなのがどうしてあんなに優秀そうな美形と一緒にいるんだか」
悪態を吐く二人に怒りが募る。
何か一言、言い返してやろうかと思っている中で。
「だからやめろって!ハヤトもキョウも口が悪すぎるんだよ!!」
鼓膜を破壊せんばかりの大声が上がった。
耳鳴りのなる状況で微かに聞こえるのは。
「「お前も声がデカすぎるんだよ!!喋んな!!」」
「やかましい!!」
という、会話だ。
少しして聴覚が正常に戻る。
それまでの間、律儀に待ってくれていたのか。それとも何か言い合いをしていたのかは分からないが、今のアイツらの顔から一つだけわかるものがある。
「さぁてと」
「それでは」
「いっちょ」
「「「やるとするか」」」
これから傷つき、倒れ、死することにさえ、覚悟を決めている事だ。
これから始まるのは、いつかの日にハヤトと行った死合いさえも超える一戦。
ともすれば、カキフミがリアンとしたように、地形が変わる恐れがある激しき一戦。
それぞれが、武器を構えた。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




