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俺とナリと修行 其の四

修行編ラストです。

どぞ。


両目を失い、痛みに悶え苦しみ暴れる岩土獣。

その頭上に立つ俺とナリ。

激しい揺れの中で、けれど決してナリは手にしたクナイを離さない。


「今度こそ仕留めまっす!」


クナイの切っ先が仄かに紅く染まる。

蜃気楼を帯びた高温のクナイを逆手に持ち。


「おおおおおお!!!」


頭頂部に突き刺した。


『ゴァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!』


己の首回りを吹き飛ばした一撃の兆しを再び受けた岩土獣は両目の痛みさえも忘れ激しく首を振る。


「ルフくん!早く離れまっすよ!!」


「わ、わかった!」


天変地異が起きたのかと勘違いするほどの景色の揺れの中でナリに呼ばれ、傷を覚悟で飛び降りた。


「ぐぅっ!?」


荒れる左脚にギリギリ当たらず、乱暴に地面に着地する。

軽く肩を打ったが、脚に異常はない。これならすぐに走れる。


「ルフくん!!爆発しまっすよ!!」


右方でも同様に飛び降りたナリに急かされ走り出す。


「今度はさっきよりも目一杯込めたので、逃げすぎなくらい逃げて下さい!」


「わかった!!」


走っている状態で返事をし、岩土獣が全力で遠ざかる。

揺れる地面を蹴り飛ばせるだけ蹴り飛ばして、駆ける。

駆けて、駆けて、駆けて。

駆け疲れて倒れた場所は、初めにナリと逃げて来た場所だ。


「ナリ!?いるか!!」


「はい!!いまっす!」


仲間の安否を確認した瞬間、破裂音が響いた。

一瞬にして聴覚は役割を停止する。

熱を帯びた烈風が吹き荒び、岩膚が飛び散る。

目を開いておくことのできない中、頼りになる鼻を覆う焦げた臭いは、岩土獣の身体から立ち昇る黒煙の凄まじさを物語っている。

……破壊の全てが終わった頃、地響きを起こす生き物はいなくなっていた。













星が空を瞬く時分に俺とナリは王都に到着した。

すっかり疲弊し、歩くのさえやっとな俺たちは這々の体で自宅に帰り着く。


「た、ただいまでっす…」


「疲れた…」


玄関に倒れ込むナリと、壁に寄りかかって座る俺を出迎えるのは……。


「うむ。よく帰ったぞ。夕食は出来ておるから、さっさと湯浴みでもしてこい」


疲れの元凶を作った悪魔だ。


「こ、この…後で覚えとけよ……」


「……?なんの話じゃ。

それより、さっさと行ってこい」


「うぅ…分かりまっした……」


最早文句を言う気力すら無く、文字通り床を這って茶の間へと到達し、ナリから風呂に入ることになった。







その後。

起きてるのか寝てるのか分からない状態で夕食を摂り、気が付いたらベッドの上でナリと一緒に眠っていた。

翌朝のネフェンが言うには。


「殆ど眠ってたナリをお前が肩を貸して運んだのじゃ」


らしい。

当然、そんな記憶はどこにも無く、寝起きはただただ気不味いばかりだった。


「さて。その様子では昨晩にわしが質問したことを覚えてなさそうじゃが…」


静かな朝食…いや、時間的には昼食を摂り終え、食後のお茶を飲みながら尋ねられる。


「……ま、仕方ないじゃろ。寧ろ、よく起きてこられたのぅ」


隣でテーブルに突っ伏して再び寝息を立てたナリに、ネフェンは笑った。


「昨晩の話では、ナリが二度も全力全霊の術を使ったのじゃろう?

であるなら、心労は相当なものじゃ」


「だなぁ…

つーことで、俺も…」


欠伸を一つこぼし席を立ち上がろうとすると、指を鳴らす音が聞こえた。

その瞬間、石になったように身体が動かない。

なんで俺に幻聴の術を…


「お前はダメじゃ」


[なんでだよ]

と、言おうとするが口が動かない。

当然だ。身体が石のように動かないのだから。

……なのに。


「何故黙っておる。何か言い返してみろ」


なんて、無茶を言ってくれる。


「ま、いいじゃろう。

お前は喋るとうるさいからのぅ。その方が都合が良い」


紅茶を啜りながら心外なことを言われる。

俺、どっちかって言うと口数少ない方だと思うんだけど…


「で、どうじゃった?お主に何が足らぬか分かったかの?」


そう、師匠として問われる。

俺に足らないもの…

そんなの、考えるまでもない。


「力だ。強大な敵でも倒せる力が…

って、あれ?喋れる」


思いがけず動いた口に動揺してしまう。

確かこの術って、使用者じゃないと絶対に解けないんじゃ…


「この馬鹿者!」


「痛ぁい!?

どうしてですか!?」


何故か顔を思いっきり殴られた。


「なんでも何も無いわ!わっかりやすく闇墜ちしそうになりおってからに!!」


「えぇ!?っ!?ちょ、どうして首締め…」


「そんなこともわからんのか!!この馬鹿弟子め!!」


喉元に訪れるとてつもない苦しみ。脳へ伝う酸素を著しく減少させるこの行いは、とても[何も分からなかったから]といってしていいものじゃない。

…あ、マズい。本当に死……。


「ふんっ!手間をかけさせおってからに!」


「ゲホッ、ゴホッ!!

し、死ぬ。本当に死ぬかと思った…」


間一髪、ギリギリのところで気道が解放される。

床に四つん這いになって師匠を見上げる。その表情はさながら鬼のようだ。


「全く!

これで少しは眠気も覚めたじゃろ!!」


寝ているナリに一切気を使わない大声量で怒りを露わにする。

状況の急展開についていけず混乱している俺を無理矢理立たせた師匠は、そのままソファへと押し倒す。


「よいか、よく聞け。お主は弱い。紛れもなく弱い。冒険者としてはそれなりかも知れんが、これから先に待っておる敵との戦いを想定すれば、余りあるほどに弱い」


胸ぐらを掴まれ押し付けられる。

目と鼻の先にある師匠の顔は触れれば切れてしまいそうなほど真剣だ。


「お主もそれにもう気がついているはずじゃ。刃ノ国での一件も手を貸しているはずじゃしな。故に修行を課した。

にも関わらず、お主はそのような世迷言を口走りおる。

力が弱い、じゃと?自分が強ければもっと良い手段を取れたのではないか、じゃと?

お前はいつになったらその世間体を捨てられるんじゃ」


[世間体]

そう言われて、何故かドキリとした。


「…そうか。そこにはまだ気づいておらんのじゃな」


小さくこぼした師匠は馬乗りの態勢をやめ、ソファに座りなおす。

相変わらず訳がわからないまま俺も師匠に倣ってソファに腰掛ける。


「本当なら自分で気がついて欲しかったが…今は時間がない。わしが教えてやる。

お主、どうしてか分からぬが[自分が強くなければいけない]と思い込んでおるじゃろ」


「…えぇ。思ってます」


「じゃが、それは嘘じゃ」


「…え?」


「強くなければいけないと思っているにも関わらずお主は決して只一人で敵を倒そうとはしなかったはずじゃ。

あの、老ドラゴンを倒した時でさえ、[自分が死んでも、他の誰かに託せば良い]そう考えておったじゃろ」


「え、ええ。確かに思ってましたけど…でも、なんでその事を知って…」


「今はそこは重要ではない。肝心なのは、お主の心のあり方じゃ。

お主は[結果的に倒せれば良い]と言う考えを持つが、真に己の力不足を痛感しておるならばそのような考えに至るはずがないのじゃ。

[誰かが]ではなく、[絶対に自分が]と、少しずつ意固地になっていくのが常じゃが、お主は一度も戦いの中で意固地になった事はないはずじゃぞ。

何故か。

答えは簡単じゃ。

お主は戦いに赴いた時、必ず傍に存在する者の力を己の力と合わせて戦う事を想定しておるからじゃ」


「そりゃあ、まぁ、仲間ですし…。

実際、俺の術は師匠も認めるくらい戦闘…こと知的生物とですと役に立たないですし」


「なんじゃお前、まだあんなたわ言を気にしておったのか?

お前の術はわしと同系列なのじゃぞ。最強に決まっておろう」


「……はい?」


「お主が反抗してきたら困るからああ言ったに決まってるじゃろ。

対象に任意の偽物を見せることが出来る?なんじゃそのぶっ壊れた性能は。

真に迫った炎を見せてやれば相手は勝手に焼死し、同様に水中を与えてやれば窒息死するような術、最強の一角と言って差し支えぬわ。

あ、じゃからと言って調子に乗るなよ?カラクリさえバレて仕舞えば赤子のおもちゃとそう大差ないのじゃから」


明かされる衝撃の事実に昏倒しそうになる。

最弱だと思っていたはずの自分の術が実は師匠と同じくらい強いもので、脅威にさえなり得るから嘘をついていた、だなんて、理由を説明されたってとても信用できない。

……まさか、そうやって嘘をついているんじゃないだろうな。


「言っておくが嘘でも冗談でもないぞ。

お主のは[目を騙し]、わしのは[耳を騙す]ただそれだけの違いじゃ。

どちらの方が強いか、などと言う問いは、[射程距離の違い]くらいしかないじゃろうて。

わしの術が如何に強力かを知っているお主なら、こう言えば理解できよう?」


発動条件を説明され、ようやく理解できる程度に頷ける。

……納得は出来ないが。


「で、世間体とは何かを説明するとじゃな。

お主、隊の長は隊の誰よりも強くなければならない、とそう思ってはおらぬか?」


「…多分」


「明瞭化はしておらなかったか。だがまぁ、一般的な認知からすればそう勘違いしてしまうのも当然じゃ。

だがのぅ。真に長たり得るのは[誰よりも強いもの]ではなく[誰からも信用される者]じゃぞ。

世の者はそこを履き違えておるから、お主の勘違いしたような間抜けな世論が蔓延るのじゃ。

そんな世論をお主は刷り込まれてしまった。こればかりは仕方がない。生きている以上、周りの空気を吸収してしまうのは自然なことじゃからな。

お主の弱さはそこじゃ。刷り込まれた嘘を真実と勘違いしていることじゃ。

お前の強みは紛れもなく[仲間を信用し、されている事]なのに、世間体で物を見ておる。そんなチグハグな状態で真の力を発揮出来るわけがない」


ハッキリと、師匠は言い切った。


「…わしの元で修行したのにそうなったのは、わしの不心得が招いた結果とも言える。その点はすまぬかったと思っている。

わしが至らぬせいでお前には嫌な思いをさせてしまったじゃろうしな…」


そうして、目を伏せて、謝った。

今まで一度も見たことのない、しおらしくなった師匠は、その後…


「故に、わしはお主のその刷り込みを消すために確実の修行を課した!なのに、お前ときたら少しもわしの意図を汲まずに果たしてきおってからに!!バカ者!」


「痛ぁ!?

なんで今の話の流れで叩くんだよ!!」


思いっきり頭頂部を叩きやがった。


「えぇい、このバカ者が!あの話の流れなら叩かれて当然じゃろうが!!

文章問題を論点があっていないにも関わらず解いたんじゃぞ!教師側は困るに決まっておるじゃろ!

だから叩いた!」


「はぁ!?」


一ミリも理解出来ない理論を展開されて思わず手が出そうになった瞬間、扉の開く音が聞こえる。


「「た、ただいま……」」


同時に部屋にか細く通るセラとフタの疲れ果てた声と、ドサリと重く響く音。

間違いない。玄関で二人が倒れた。


「む、二人も帰ってきたか。

どれ、運んでやるか。手を貸せ、ルフト」


「……まぁ、いいや。話をする暇はまだあるだろ」


「あるにはあるが受け付けぬぞ。

それよりあの者達が風邪を引くぞ。行かなくて良いのか?」


さらりと再対話を拒まれるも今は言及する暇はない。ひと睨みだけして、直ぐに二人を救出しに行った。




その日の夜。

あの後直ぐに帰ってきた小虎と、普段の寝起きくらいには復活したナリ、そして首の座ってなさそうなセラとフタを含む、俺たち全員とネフェンの六人で夕食を囲んだ。

…アレが昨日の自分たちだと思うと、中々に衝撃的だ。







To be next story.

それではまた次回。

さよーならー

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