俺とナリと修行 其の三
続きです。
どぞ。
狂音を立てて迫り来る岩土獣。
巻き上げる砂煙と地響きに息を飲む。
逃げ道はあるが、逃してくれはしないだろう。仮にどこかの村や町へ無事に辿り着いたとしても、ヤツは後を追ってくる。そうなれば最後。逃げ込んだ先が踏み潰されてしまう。
それだけは避けなければならない。絶対にあってはいけない。
…で、あるならば。
「さっきの、もう一回いけるか?」
隣で怯えるナリに問うも、求めた返事は返ってこない。
無理もない。一撃必殺の技を行使したばかりだ、そんな余力あるはずがない。
…それも想定済み。分かった上で、望みをかけて聞いただけだ。
「分かった。
なら、そこで見ててくれ。どうにかしてくる」
「ちょっ、ルフくん!?」
「悪い、話してる暇は、ないッ!」
何か言いたげなナリを置いて駆け出す。
行き先は依然地鳴りを響かせる岩土獣。流石に無傷ではないため、歩く速度がかなり遅くなっている。今駆け寄って攻撃を仕掛ければ、疲弊しているナリの元へは辿り着かないだろう。
標的まで後数メートルも無いところまで迫る。
岩膚に囲まれた瞳に俺はまだ捉えられていないだろう。
仕掛けるなら、今だ。
「オッッラァァァ!!!」
残り一メートル弱から飛び斬りを左前脚に叩き込む。
刃は通る。これならまだやれる。
続けて、二撃、三撃と斬撃を放つも、岩土獣がひるむ様子は無い。…それどころか、俺に気がついた風すら無い。
幸い、空を飛ぶ小鳥に気を取られ歩くのをやめてはいるが…
「この野郎…
俺は雀以下ってか?舐めやがって」
逆恨みと大差のない苛立ちを覚え更に斬り込む。
横に薙ぎ、斬り落とし、斬り上げ、柄で殴ってみたりする。
確かに刃は通っている。岩膚だって砕けて飛び散っている。
だが、一向に痛がる気配がない。
「クソッ!もう一回やってみるか!?」
攻撃の手を休めずに恨み言を吐くが、それは叶わないだろう。カラクリがバレたかは分からないが、恐らくヤツに虚像はもう効かない。
突如現れた巨体が風や岩膚によって掻き消えた後だ。直感で[偽物だ]と気付かれたに違いない。
精心を疲労させるだけ無駄だ。
かと言って、ここでちまちま攻撃を繰り出すのにも限界がある。刃が通るとはいえ、決して柔らかい皮膚じゃない。いずれ刃が欠けて弾かれるだろう。
それに何より、俺の体力が持たない。
今はまだいい。だが、全力をもって打ち込んでいる以上、長くは持たない。
やはり、こいつを倒すにはナリの超火力が必要だ。
ならば、今の俺がすべき事はさっきと同じ時間稼ぎ。
ナリの体力と、磨耗した精心が回復するまで、どうにか持ちこたえる事。
「オオオオオォォッッ!!!!」
突出した岩膚を駆け上がり、高く飛び上がる。
「これでッッ!どうだ!!!!」
『オ"オ"…?』
全体重を乗せた柄長ノ太刀を背中に突き刺し、
「ダァアアァァリヤァァァァ!!!」
頭部目掛けて、切り抜けるッ!
『グゴォ"ォ"ォ"ッ"ッ"!?』
「っはぁ!っはぁ!っはぁ!!
…どうだ、鳶くらいには気になったか?えぇ?」
岩土獣の眼の前に顔を突き出し、嫌でも認識させてやる。
オマエを傷付けたのは、この俺だという事を。
『オ"オ"オ"オ"オ"ッ"!!』
「うおっとと!なんだ、ようやくお怒りか?手間かけさせやがって」
目障りな鳥を振り落とそうと頭を激しく揺らす岩土獣。
落ちないよう、必死になって太刀の柄を握りしめる。
やっとその目に入れて貰えたんだ。もう少しだけ側にいさせてもらうぞ。
「オマエは!俺だけ見てれば良いんだよッッ!!」
叫び、四肢に力を込める。
足を岩膚と岩膚の間にできた窪みに挟み、突き刺した太刀を一気に横流す。
切っ先の行く先は、魔物の瞳。
「オラァァァ!!!」
『ゴオ"オ"ォ"ォ"ォ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!!!』
刃にべったりとへばりつく土気色の液体。
それは紛れもない、岩土獣の左目を構成していた何かだ。
「チッ!もう片方も貰うつもりだったんだけどな!」
暴れ狂う岩土獣から振り落とされる前に飛び降り、最低限の衝撃だけを受けて地面に着地する。
そこそこの高さからのため、両脚が僅かに痺れ…
『グォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"!!」
「あっぶねっ!!」
左足による横払いを無理矢理体を捻って避け、態勢を整える。
少しでも気が逸れたら死ぬな、これ。
『ゴオ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"!!!!!』
「っは!やっとやる気になってくれたかっ!!」
地団駄を踏むようにして暴れ、水を飛ばす犬のように身体を振り回す岩土獣。躱す事自体はそれほど難しく無いが、地響きと捲き上る砂埃のせいで下手に近寄れない。
クソッ、どうにかして動きを止めないと。
解決策を思案するが良い案はない。
この巨体を一瞬でも止められるなら、もう一度身体に引っ付いて右目も戴けるっていうのに。
「…いや、そうか、一瞬か」
そうだ。何も、ずっと拘束する必要があるわけじゃない。
ただの一瞬、一秒だけでもこいつの地団駄が止めばいいのなら、方法はある。
「虚像ッ!」
膝立ちで右手を突き出し、再び大きな俺を投影する。
『グォ"ォ"ォ"!?」
眼前に現れる、巨大な人間。驚いた岩土獣は暴れ狂っていた脚や身体を鎮め、新たな脅威になり得る存在に身構える。
しかし、直ぐに[さっき倒した敵]である事を思い出し、右足による払いで虚像をかき消した。
だが、隙はできた。
「よう、久し…振りッ!!」
『ゴオ"オ"ォ"ォ"ォ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"!?!?!?』
お陰で、右目も俺のモノになった。
「ルフくん!!!」
「ナリ!!」
下から上がる俺を呼ぶ声に返事を返す。
…どうやら、時間稼ぎは成功したらしい。
「いけまっす!!!」
岩土獣が再び暴れるその瞬間、ナリは右脚を伝い俺のもとまで駆け上がってきた。
「よし、かますぞ!!」
「はいっ!!」
最後の決戦に向け、吠えた。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




