俺とナリと修行 其の二
修行編の続きです。
どぞ。
「一時てったーい!!」
岩土獣が歩くたびひび割れ、めくり上がる地面を必死に蹴り上げ更に距離を取る。
なんだあいつ!冗談じゃない!!でかいなんてもんじゃ無いぞ!!!
「ルフくんルフくん!ちょっと良いですか!!」
「なんだ!?」
逃げる最中に声をかけられ走りながら答える。
正直今はそんな余裕ないが、ナリの声から察するにかなり重要なことだろう。
「あいつ!追いかけてきてまっすよね!?」
言われて初めて振り向く。
…確かに!!
「うぉぉぉ!!とにかく逃げろー!」
「りょうかーーーい!!」
普通ならまともに歩くこともままならない揺れの中、気合いと根性と死にたくなさだけで全力で駆けた。
激しい息切れを整えつつ辺りを見渡す。
大岩…岩土獣の背中から生えた岩しかなかった場所から一転し、相変わらず殺風景ではあるがちらほらと草木の見えるところに着く。
「っはぁ、っはぁ、っはぁ!
と、とりあえずここまで来れば…」
「でっすね、あいつ、足は遅いみたい、でっすから。まだ遠くにいまっす…!」
へたりこむようにしてその場に座り込み、遠くから聞こえる地鳴りに安堵する。
今のうちに、何か対策を考えないと。
「どうやって倒しまっすか?」
尋ねられるも答えることができない。
確かに、以前、セラと一緒にネフェンの作り出した人型の大岩と戦ったことはあるが、あれはあくまでもネフェンの術によって作られた偽物の生物。
本来なら生物足り得ない存在を術によって無理矢理生き物として成立するように象ったもの。接合部さえ砕いて仕舞えば勝手に自壊を始める、不出来な人形だ。
それを知っていたからこそ、あの時は冷静に対処出来たのだが、今回のは産まれるべくして産まれた真性の岩の魔物。
関節を砕いたところで他の部位に矛盾が生じるわけじゃないだろうし、何かしらの特殊な能力…周囲の岩を傷口に当てて再生する、などがあってもおかしくない。
詰まる所。
「力技でゴリ押しするしか無いんじゃないかな…」
「でっすよね…」
単純にして明快な答え。
相手が生き物なら、死ぬまで殴れば死ぬ。だ。
倒し方の考察なんてのは、結局のところいかに効率良く傷を与えるかでしか無い。その効率さえ度外視すれば、どうすれば倒せるかなんてわかっているようなものだ。
だが、そんなのは自殺行為でしかない。
強敵を前にして考え無しに突っ込むなんて愚の骨頂だ。
「使える術って、炎系だけだっけ?」
「でっすね。ルフくんは、幻覚系だけでっすよね?」
「だな」
それだけはなんとしても避けたい。
打開策になり得るもの…お互いに隠していた術が無いかを確認するもそんなに都合のいいことが起きるはずもなく、把握していたものを口にしただけだ。
…なら、あるものでどうにかするしかない。
「よし、一つだけ思いついた。
上手くいかなかったらどっちもやられるけど、それでも良いなら倒し方があるぞ」
「…分かりまっした。ルフくんにまかせまっす」
視線を交わし合い、作戦を伝える。
聞いたナリは不安そうな顔をするが、直ぐに腹を決めた。
「了解でっす。絶対成功させてみまっすから、ルフくんもよろしくお願いしまっすよ」
「分かってる。
なぁに、失敗したらどっちも死ぬんだ。寂しくはないだろ」
「でっすね。
あっちに行ったら、絶対仕返ししまっすから。その時は覚悟しておいて下さいよ?」
お互いに冗談を言い合い、近くなった地鳴りに獲物を握った。
目を覆いたくなるような剛風が砂埃を払う。
けれど、俺たちは決して目を閉ざさない。
風の源が、目の前より進み来る巨大な魔物が起こすものならば、視線を逸らせば死が待つばかりだからだ。
駆け抜ける風に乗る砂利に全身を擦られながらも武器を構える。
標的の岩土獣の歩幅なら、あと四歩も歩けば俺たちの元へ至るだろう。
呼吸を整えろ。
心拍を鎮め、心を落ち着かせるんだ。
思考は静かに、筋肉は熱を帯びさせて。
これより待つは死すらも弄ぶ蹂躙劇。
舞台の主役は岩土獣で、俺とナリは使い捨ての脇役。
誰が見ても力の差は明らかだ。
ーーだが。
この世界には[下克上]がある。
「行くぞ!!」
「はいッ!!」
檄を受け、ナリは左方へ飛び退ける。大きく弧を描くように駆け、側面から岩土獣を攻めるためだ。
俺の持つ術はあくまでも相手を騙すもの。どうあがいてもあの魔物に致命傷を与えることは出来ない。
だが、ナリの鬼火の術ならばどうか。
詳しい規模を間近で確認したわけじゃないが、刃ノ国で行使した際はかなりの範囲があった。
あれだけの炎を一点に集中して注ぎ込んだなら…。威力は絶大なものになるはずだ。
故に、俺がすべき事は一つ。
「虚像!」
ナリに隙を作ってやる事だ。
『オオオオ!!??』
右手をかざし、岩土獣に幻を見せる。
作り出すのは奴と同じ大きさに投影した俺の姿。
突如現れた己に匹敵する大きさの人間に驚き、魔物は歩みを止める。
「こんのやろぉぉぉ!!!」
全霊を込め柄長ノ太刀を横薙ぎし、幻が岩と変わらないその顔に一撃を叩き込む。
勿論、本物の痛みが相手に与えられるわけじゃない。あくまでも、攻撃を受けた[ように思わせる]攻撃だ。
だが。
『オォォ!?!?』
岩土獣は実際に殴られたように顔を外へ向ける。
岩と遜色ない皮膚が飛び散る様子ない。ただただ、殴られたと錯覚しただけだ。
直ぐに違和感に気がついた岩土獣は頬の感覚を確かめるようにゆっくりと振り向く。
当然、痛みは無いだろう。衝撃すら気の迷いなのだから。
けれど、隙を作るだけならそれで充分。
「行けッ!ナリ!!」
「わっかりました!!!」
視界に映る、全速力で走るナリ。
手にしたクナイの切っ先が陽の光に照らされて反射している。
「くらえええーー!!」
それを岩土獣の喉元に突き刺した。
「叢原火・抉!!」
魔物の首元から僅かに上がる紅き光。
揺らぐ漏れ火は次の瞬間炸裂した。
「吹き上がれ!!でっす!」
『ゴォオ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"!!!!!」
噴音と共に爆散する岩膚。
辺りの気温を一気に引き上げ、酸素を燃料として燃え上がっているため呼吸が少し苦しい。
「っぶなかったでっす…!ギリギリ逃げるられまっした」
前方から回転しながら帰還を果たしたナリは身体中についた砂とススを払う。
「提案しといてなんだけど、恐ろしい威力だな、今の」
焦げ臭い匂いと黒煙をまき散らしたままの岩土獣。
付近に村も町もなくてよかったらもしもあったなら、今の爆発音に驚いて死んでしまう人だっていただろう。
「僕も予想以上でびっくりでっす」
熱風に飛ばされた岩膚が作り上げた幻を消し去る中で依然黒煙が吹き上がっている。
あまりの煙量に岩土獣の姿は見えない。
だが、まぁ。
「勝ったな」
「でっすね」
自然が巻き起こす風によって少しずつ晴れていく黒煙。その中にいるのは、間違いなく倒れている岩土獣で…
「……嘘だろ」
「冗談、でっすよね?」
半分以上の煙が彼方へと消え去った今、露わになる、首元の岩皮膚が剥がれ、黒焦げになった岩土獣の成れの果て。
ではない。
『ゴォォアァ"ァ"ァ"……』
怒り狂い、猛る、鋭い眼光だった。
「割と元気そうだなぁ……」
「でっすねぇ……」
『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!』
空間をヒビ割り、大地を轟かせて魔物が駆けた。
To be next story.
次回も修行編です。
それではまた。さよーならー




