俺とみんなとお店 其の三
お出かけ編ラストです。
どぞー
屈強な男共が闊歩していたあの場所から歩く事暫く。
歩き回ったり、商品を見たりですっかり時間が経ち、街灯のような身体を持った外時計を見れば、間も無く昼の頃合いだった。
「な〜、店巡りはちょっとやめてさ、ご飯にしないか?お腹減ってきた」
力無い小虎の言葉に、俺の隣を歩くセラは微笑んで頷く。
「そうですね。時間は少し早いですが昼食にしたいです。
今行けば混む時間帯を避けられると思いますし、少しはゆっくり出来るかと」
「ふっふ〜。それなら心配ご無用でっす!」
先頭を歩くナリが振り向き、後ろ歩きをしたまま得意げな表情を浮かべる。
その隣のフタも、後ろ姿から口角を上げた雰囲気が伝わってきた。
「あぁ。
なにせ、今向かっているのは食事の出来る店だからな」
「あ!!なんで言っちゃうんでっすか!?もう少し引き伸ばしたかったのに!」
「え、えぇ?別にいいだろう。隠すほどのことでも無し…」
「ダメでっすよ!
僕も小虎ちゃんみたいに『ここがそのお店だー!』ってしたかったんでっすから!」
「そんなこと言われても…」
「あはは…
ぶつかると危ないですから、程々にして下さいね」
歩きながらケンカをする二人にセラが苦笑いする。
刃ノ国での一件からまだそれほど日にちが経ってないからか、彼女達のケンカを見るのは不安なような微笑ましいようなで少しだけ難しい心持ちなんだろう。
「も〜!いいでっすよーだ!
フタにも言わせてあげようと思ってたのに〜!」
「は、はは…それは残念だ」
「今更落ち込んでも遅いでっすよーだ!
…あっ!」
見てる側はハラハラするケンカも終わりを迎えたらしく、言い合い…と言うより、ナリの一方的な物言いが終わる。
その瞬間に、ナリが何かに気がつき、辺りを見渡し…
「……お店、通り過ぎてまっした」
お約束に近い失敗をして、来た道を少しだけ戻った。
カランカラン、と小気味いい音を立てて開かれた扉をくぐり目に入るのは、何組もの客とテーブルに乗った料理だ。
鼻腔をくすぐる肉の焼けた匂いは、僅かに空腹まで届いていなかった胃を刺激し、虫が声を上げる。
「ここは子連れや逢い引き中の人に人気の店らしてな。
肉料理や、うどんなどの麺類、揚げ物や炒め物など、数多くの食が楽しめる」
「食後の甘味も豊富でっすし、セラっちの好きなコーヒーも何種類かありまっすので休憩したい時にはもってこいの場所でっす」
フタとナリが説明してくれていると、奥の方から可愛らしい洋服を着た女性が現れる。
どうやら席の案内をしてくれるらしく人数を聞くと、端にある大人数用のテーブルに案内してくれた。
『ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい』
そう残し、品目の書かれた大きな薄い本のような物を置いていき、別のテーブルに座る客の元へと去っていった。
「メニュー…品目表は二つありまっすから、分けて使いましょう」
ナリに渡された品目表を俺はセラと小虎と共に眺め始め、ナリはフタと見始める。
…凄いな。随分とまた沢山ある。
「凄いですね…」
「どんだけあるんだ…」
ずらりと写真と共に載せられた料理群に一瞬面食らいつつも一先ず読み進めていく。
肉料理から始まり、麺料理、丼物、海鮮、揚げ物、一品料理に甘味に飲み物。…子供向け用に量を調整した物まである。
それらのうちの殆どは見たことも聞いたこともない料理ばかりだ。
はんばーぐ?ぱすた?さらだ?ぱふぇ?かふぇもか?
カタカナで書かれた訳の分からない品名に三人で頭を抱えてしまう。
見れば見るほど混乱していきそうだが、品目表が写真付きで良かった。取り敢えず何が使われているのかくらいは見てわかる。
名前からじゃとても想像できない料理ばかりで、頼めるのが唐揚げか蕎麦くらいしかなかったからかなりありがたい。
「どうだ?そっちは決まったか?」
「えっ!?あ、あぁ。俺は決まったぞ」
丁度料理を決めたところで声をかけられ思わず驚いてしまう。気を取り直して頷き、両脇に座るセラと小虎に確認すると。
「オレははんばーぐ?に決めたぞ。セラは?」
「私はかるぼなーら?に、しました」
無事決められたらしく、若干確認気味に料理名を読み上げた。
「わっかりました。じゃ、店員さんを呼んじゃいまっすね」
ナリがテーブル端に置かれた鈴を鳴らすと、程なくしてさっき案内してくれた女性がやってくる。
『ご注文をどうぞ』
「僕は海鮮丼でっす」
「私はカルパッチョとを」
「お、オレはこのはんばーぐで…」
「私はえっと、かるぼなーらをお願いします」
「俺は唐揚げ定食です」
俺たちの注文した料理をつらつらと慣れた手つきで紙に記した店員は間違いがないかを復唱して確認すると、一礼をして奥へと向かっていった。
「なんだよルフト〜。せっかく来たんだから他じゃ食べられなさそうなの食べようぜ〜」
「絶対合うと思った。
良いんだよ。俺が冒険するのは食事以外なんだから」
「ふーん」
案の定の返しを想定していた通りの小虎に言われ思わず口調が強くなる。
勿論、怒っているとかって訳ではなく、[やっぱりな]と的中したことがちょっと嬉しかったからだ。
「さて、料理が来るまで暫く時間が掛かる。今日のこの後の方針でも決めるか?」
フタの提案に俺たちは頷く。
のんびりお喋り、というのも悪くはないが、それは家でもできること。
今日は道具の調達に来たのだから、そのような会話をするべきだろう。
「…そうだな。他に、何か必要な物があったりするか?」
有り体の台詞にセラ達は少し悩んだ後。
「保存食とかはどうでっしたっけ。買い置きとかしてまっすか?」
何気に忘れていたことをナリが思い出してくれた。
「俺はしてないな」
「私もだ。
棚に置いてあるのを見たりもしていない」
「まだいくつかはあったはずですが、詳しい数はちょっと分からないですね…」
「そうでっすか…」
俺達の言葉にナリは肩を落とす。
旅において必需品とも言える保存食。それを購入するとなると家にどの程度備蓄があるか把握しておく必要がある。何故なら、いくら保存食とは言え不必要に買い置きしてしまえば無駄になる物が出てくるだろう。
俺たちは人数が人数なだけに備蓄しておかなければいけない量も相当だ。安易に買うことはできない。
そのため、もし今日、足りないもの・必要なものを全て買い揃えるなら、一度家に帰って確認する必要がある。
そう思っていたのだが…
「もしかして小分けされてたアレか?それなら、みんなが刃ノ国に行ってる間に全部食べちゃったぞ」
予想外な人の手によって答えが判明した。
「す、少なくとも私たち全員が二日は食べられるだけの量はあったと思いますけど…それ、全部ですか?」
「んー?まぁなー。あんまし美味しくはなかったけど、お腹はいっぱいになったかな」
震えるセラの言葉に激しく頷いていたフタとナリは、顔を見合わせて驚いている。
「ま、まぁいいんじゃないでっすかね。
兎にも角にも数は分かりましたし、帰りに買って帰りましょう」
「だな。いつ遠出するとも分からない身の上だ。早いうちに準備するに越したことはないだろう」
「で、ですね。
いつもと同じところで買っていきましょう」
若干引き気味に納得した三人。
そもそも買い置きをしているのかどうかすら知らなかった俺にしてみれば[そんなにあったのか]って感じだが、それだけの量を二日か三日で小虎が食べ切ったとはとても思えない。
コイツ、確かに食べるは食べるがそれはあくまで女性と比べた場合だ。大食らいってほどじゃない。
小虎のなんとなく違和感を感じる態度から見ても何か裏がありそうだが…
「分かった。荷物持ちは俺がするから少し多めに買っておこう。次に任務が来た場合、どこにどれだけのたいざいになるかわからないしな」
コイツの場合、何か悪いことに使ったとは考えられない。精々、野良犬や野良猫に分けてやったくらいだろう。
「あ、オレも待つぜ。最近槌を振ってないから力が有り余ってて困ってるんだ」
そう言ってさっき買った小さな槌を眺める小虎。
どんなものかはまだ詳しく聞いてなかったから尋ねてみようと思ったが。
『お待たせしました〜』
間の悪いことに注文した料理が届いてしまう。
だが、そんな小さな疑問を消し去ってしまうほど香ばしい香りに、俺たちの意識は完全に料理へと移っていた。
『それではごゆっくりどうぞ』
料理を乗せていた台車とともに去る、今日三度目の同じ店員。
彼女の置いていった箸、フォーク、ナイフをそれぞれに手渡し、合掌する。
「「「「「いただきまーす!」」」」」
食事中の会話は、流石に買出しのことではなくて、俺達がいない間に小虎が何をしていたのかということだ。
それからフタとナリの幼い頃の話と、俺とセラが初めて行ったクエストの話をして、昼食は終わった。
食後のコーヒーと甘味を摂った後、俺たちは、普段食材や身の回りの小物を購入するのに使っているという量販店へと向かい、保存食を両手一杯に買って帰った。
家に着くと、閉めていたはずの鍵が開いている。
警戒しつつ上がると、居間に光が止まっていた。
恐る恐るナリが覗くと……。
「また随分と買って来たのぅ…。
ま、足りないよりは良かろう」
ソファの上に横になるネフェンが居た。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




