俺とみんなと疑心
では、どうぞ。
「世界についてどう思うか、だと?」
戸惑いに満ちた声で聞き返すフタに、コドウは「そうだ」と答える。
「この広い世界に住む人間と魔物、魔者。そして、半人半魔のはぐれ者たち。
コイツら全員が共存できていない今の世界を、お前達はどう思う?」
込められているのは怒り、だろうか。
胸のすく普段の明るさからは程遠い重い感情に、初めに答えたのはツキミだ。
「どうもなにも、それが普通じゃないか。
魔物は魔者と共存し、人間は人間との間で手を取り合い、…はぐれ者と呼ばれた人達は、その時に受け入れてもらえる種族と仲を深めて暮らす。
それ以外に答えがあるのか?」
何故そんな当然のことを聞くのか。そんな風にツキミは答える。
彼女の言葉は、恐らく俺たち側全員の総意だろう。
多少の考えの違いはあれど、コドウの言う[垣根を超えた共存]はまず有り得ない。
人間にとって魔物とは平和を脅かす脅威に他ならず、魔物・魔者にとって人間とは仲間を手にかける憎むべき対象でしかない。
半人半魔の者達は……詳しくは知らないが、ある者は人里で、ある者は魔物・魔者達の住む世界で、暮らしていると聞く。
以前会ったハヤトは、魔物・魔者たちと協力して生きている種類の半人半魔だったんだろう。
半人半魔に関しては話が少々変わってくるが、人間と魔物・魔者の間にある溝は大きく深い。ルフェン女王の過去を知っている今、神話として語り継がれている話は恐らく全て事実。で、あるなら、この二種族間での共存はまず不可能だ。
コドウが俺たちのように神話の出来事を信用しているとは思えないが、だとしても日々溝が広がる現状を知らないはずがない。
にも関わらずそんな疑問を俺たちに投げかけてくるということは、つまり。
「……本気で、考えているんですか?」
セラの訝しむ問いにコドウは深く頷く。
「むしろ何故無理だと決めつける。過去は過去、今は今だ。そうだろ?
お互いに手を止めて、一歩引いた物の見方さえ出来れば、こんなくだらない関係は終わるはずだ。
そう思わないか?」
含みのない真っ直ぐな瞳で言い切った。
「それは…そう、でしょうけど」
「そんなの、言うは易くってやつでっすよ。ツキミ様やユキミ様は違いますし、お二人は分かりませんけど、僕たちは冒険者でっす。魔物・魔者たちにとっては完全に敵対する立場にいます。
しかも、悪さをする彼らを退治した報奨金で僕たちは生計を立てていまっす」
「あぁ…そうだ」
ナリの言葉に、ため息混じりに返事を返すコドウ。
同じ時代に生きている以上、この問題点を知らないはずがない。
「けど、だ。向こうだって魔王軍と呼ばれる組織に属し、人間を討伐することで生計を立てている輩は大勢いる。
今回のような侵略行為とは話は違うが、していることは人間とそう変わらないんだ。
なら、お互いに痛み分けすることが出来る。不満もあるだろう、初めは露頭に迷うかも知れない。けど、だからこそ手を取り会えるんじゃないかと、俺は思うんだ」
熱弁するコドウ。それを、隣に座っているキョウが制する。
「落ち着けよ。そのくらいアイツらだって分かってる。
けど、[だとしても]と、そう思っちまうんだよ。なにも、人間たちとの間にある溝は生計の立て方だけじゃない。そうだろ?」
まるで、蛙を見据えた蛇のような瞳でキョウに見られる。
ぞくりと気色の悪い違和感を覚えるが、視線に頷き、答える。
「その通りだ。
悪さをする魔物・魔者を、或いは人間を、退治すること自体は悪いことじゃない。同種族間であれ異種族間であれ、悪さをすれば罰せられる、ただそれだけの話でしかない。
……問題は、退治の方法なんだ。
捕獲か、討伐か。
捕獲はまだいい。扱いがどうのってのはあるが、死ぬわけじゃない。
重要なのは[討伐]の方だ。
[我々の生活を脅かす対象を永久的に葬る行為]ギルドはそれを討伐と定義しているけど、要は殺すんだ。
どんな極悪人にも生みの親がいて、場合によっては兄弟や家族がいる。俺たちにとっては単なる極悪人だったとしても、そういった関係の人たちからしてみれば掛け替えのない人物かも知れない。
そんな誰かを、こっち側の都合で殺すんだ。しかも、仕留めれば金まで貰える。
それを知った遺族はどう思う?
何を間違っても許してはくれないだろ。
そういったことを俺たちは、アイツたちは続けてきた。それを今更白紙に戻して仲良く、は無理だろ?」
意図せず問うような口調で話すと、キョウは俺に向けたよりも更に鋭い視線をコドウへ突き刺す。
「だから言っただろ。話し合いなんて無意味だって。
アンタの恩人程物分かりがいいわけじゃないんだよ。人間なんざ」
……ほんの少し、頭にくる言い方に眉が反応する。
だが、彼の言うことも事実だ。なにも、コドウの言う『共存』を拒みたいわけじゃない。魔物…とはわからないが、魔者や半人半魔の者たちとは出来れば諍いなく暮らしたいと思う。
それが出来れば、一体幾つの命が消えずに済むか。数多くなのは、考えるまでもない。
しかし。
「…そうだな。
コイツらの言い分が最もなだけに、これ以上は平行線だろう」
やはり問題なのが、これまでの関係性、だ。これを解消するには、何か巨大な…両種族間が手を組まなければ勝てないほど巨大な敵と退治することがなければ不可能だ。
けれど、それこそあり得ない話だ。
ルフェン女王の話だと人間と魔王軍以外の敵は一切出てこない。仮に鳴りを潜めてるにしても、神話の時代から現代までだなんて、強大すぎて隠し通せるものじゃなくなってるはずだ。
だが未だにそんな報告はないし、噂話も聞かない。
それはつまり、存在しないことと同意義だ。
「だが、一つだけどうしても聞きたいことがある」
その上で協力して欲しいのだろう。
コドウは、身震いを起こしてしまえるくらいに真剣な眼差しで俺たちを捉えた。
「お前たちは、魔物・魔者が住む場所が人間に比べて狭すぎる事実をどう考える」
予想していたこととは違う質問に一瞬戸惑う。
魔物・魔者の住む場所…そこは、以前ラルがが戦死したとされる辺境の地だ。
「どうって…それが普通なんじゃ…」
「断じて違う!」
今度は明確な怒りだった。
拳を畳に叩きつけて言い切るコドウの目に灯るのは明らかな怒りの色。
「あんななにもない土地で暮らすことが普通?冗談はよせ。お前たちは知らないかもしれないが、あそこには本当になにもないんだ。
岩と土と少量の水。たったそれだけの資源しかない土地だ。確かに昔からそこを拠点としていたかも知れない。だからこそ、人間とは根本的に体の作りが違い、飲食をせずともしばらくは生きられるなかもしれない。
だが!
何故安楽を求めてはいけない。何故美しい景色を得ては行けないんだ!」
「コドウ!」
立ち上がり、まくし立てるコドウを再び制止したキョウは、彼の手を掴むと。
「もういいだろ。コイツらは現状に不満があるわけじゃないから、こんな風に疑問を抱かないんだ。そんなやつらに何を話したって意味はない。
もう、帰ろう」
「………ああ、そうだな」
「お待ちください」
キョウに頷き、部屋から立ち去ろうとする二人。
それを呼び止めるたのはユキミだ。
「先程から話を聞いていればどこか引っかかる風でしたが、今のでやっと確信が持てました。
…あなた達、人間側に立って考えていませんね?何故でしょうか」
刃物のように鋭い疑問を投げつける。
二人は…特に、キョウは強く明確に鼻で笑うと。
「当たり前だ。
俺たちははぐれ者の半人半魔で、魔王軍に属するお前たちの敵なんだからな」
そう、告げた。
「よせ、キョウ。それは言わない約束だったはずだろ」
開いた口が塞がらない。
ずっと疑いは持っていた。だが、少しも片鱗を見せなかったコドウ。
その理由は、今彼に問うまでもなく、理解できた。
「……みんなと過ごした今日はなかなか楽しかったぜ。出来れば、戦いたくないもんだ」
最後にそう言葉を残すと、何も言えずにただ聞くだけの俺たちを残し、二人は部屋を出ていった。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




