俺とみんなと新手と
では、どうぞ。
宿の自室に戻ると、そこには見知らぬ顔が一つあった。
男性とも女性ともつかない中性的な顔立ちをし、空色の綺麗な長髪を携え、幾何学模様の描かれているセラのような服ーー王都ではローブと呼ばれている服を着た細身のその人物は、武器としては長く、杖としてはあまりに凶悪な先端を模した道具を足元に横たえて安座していた。
彼(彼女?)の隣には明るい顔をしたコドウが安座し、向かい側にはセラ、フタ、ナリ、小虎、ツキミが正座で対面している。
「…どうしたんだ?」
異様というか、妙というか、どっちとも取れる雰囲気の中、俺たちは俺たちで場違いな格好…おんぶ姿で扉を開け、中を見ていた。
「あなたが、ルフト?」
「え?あ、ああ。そうだけど」
理解が追いつかない中、新顔に話しかけられ生返事を返す。
すると、新顔はゆっくり立ち上がり俺のもとまで来ると。
「なるほど?どこにも女たらしっぽさが無いのに、旅の仲間は美形揃い、か。不思議なもんだ」
なおのこと混乱する一言を告げられた。
ちょっと待て。女たらしが、なんだって?
「それってつまり、俺のツラがどうのこうのって話か?」
「まぁ、端的に言えばそうだな。
他にも雰囲気や佇まいがあるんだが…まぁ、言ってもわからないだろうから気にしなくていい」
涼やかな顔で言い切ると、コイツは長髪をなびかせてコドウの隣へと戻って行った。
「……なんダァ?テメェ…」
見た目の低評価だけじゃ飽き足らず、言うに事欠いて理解力が無いだと?
確かに、俺の顔は大した事ないかもしれない。頭だって、セラやフタに比べたら悪いかもしれない。
だが、それを初めて会ったばかりの奴に言われる程酷い筈はない。
これだけ言われて黙ってられるほど俺も聖人君子じゃない。必要とあれば再び手刀を使うことも視野に入れ、抗議しようとすると。
「初対面の人に向かってなんて口聞いたんだ!!謝れ!キョウ!」
「んなっ!?いいでしょう!?本当のことなんだから!!」
「いいわけあるか!!本当の事だとしても、言ってもいい仲になるまで我慢しろ!」
隣に座っていたコドウが声を荒げて新顔ーーキョウの頭を無理やり下げる。
キョウは抵抗するが、やはり体格差がある分力は劣るらしく、次第に抗する力が失われていって額を畳に擦り付けるくらいまで下げさせられた。
「くそっ。わかったよ。言い方を変えるよ」
何故なのか、ギロリと睨まれる。
しかし、コドウにはその視線は見えていないらしく、ため息を小さく吐くと頭から手を離した。
「…言ってみろ」
睨み返しながら答える。
前もって貶されている以上、何を言われても悪口にしか聞こえないとは思うが、それでもどう言うかは気になる。
…ま、ロクでもない事を言うに決まってる。そうしたら今はまだ隠している手刀であのスカした顔に一撃…
「素朴で他者と共存しやすい面立ちなのに、これだけの美形と旅してるなんて、君には僕の知らない良いところがあるんだろうな」
「なんだ、君はいい奴だったのか」
「いや、分かってくれればいいんだ」
握手を求めると、キョウは嫌な顔一つせずに手を握ってくれた。
その手は温かく、人としての優しさを感じる。
「…ルフト?あなたは今、印象が薄くて良い所が見えない、そう言われたんだけど、分かってるかしら?」
「分かってないなら、自分はバカだと証明したようなもんだな」
「お前を殺す」
どこまでも冷え、冷徹なまでに人の情が無いなコイツの手は。そうだ、俺の手で温めてやろう。
「…力はまぁまぁ、か」
あいも変わらずスカした顔のままキョウは言い放つ。
…マジか。小さな傷に指を引っかけられれば壁も登れる俺の握力をものともしてない。
コイツ、見た目ほどひ弱じゃ無いってことか。
「はっはっ、やればできるじゃないなか。
全く、次からは気をつけるんだぞ」
「いやいや、さっきユキミが言ってたこと聞いてたのか?」
「分かった。次からは気をつけるよ」
小虎の発言を完全に無視して話を続けるキョウ。
視界の端には、セラにグチる小虎が映ってる。
「さて。仲直りの握手はもういいだろ」
そう言って、握り続けている俺たちの手を引き離すコドウ。
「俺たちは、お前たち二人を待ってたんだ。少しだけ話がしたくてな」
キョウを連れて坐り直すコドウは、今日までの間に一度も見たことのない真剣な…ともすれば、凶器的な眼差しで俺を見据える。
「……分かった」
杭で突き刺されたかと勘違いするほど一瞬身動きが取れなくなった俺は、どうにか頷いてユキミを下ろしセラ達と同様に座った。
「悪いな、脅すような目で見てさ。けどまぁ、それだけ真面目な話だってことだ。
変な返しを期待してるわけじゃないから、発言には気をつけてくれよ?」
途端に普段の快活な様子に戻るコドウは腕組みをして舐め上げるような視線を向けてくる。
背筋を走る悪寒。
違う。目の前にいるのは、俺たちの知るコドウじゃない。
そう感じてしまえるだけの違和感を、今のコドウは放っている。
「…よし、みんないい目になったな」
薄く笑い、コドウが頷く。
そうして、再び瞳に灯るのは凶器として扱えるほどの強烈な念。
「話ってのは他でもない。今の世界についてどう思うか、だ」
言い放たれた言葉はあまりに抽象的で、同時に、何か核心を突いたような疑問だった。
Tobe next story.
それではまた次回。
さよーならーに




