俺とみんなと爪痕
では、どうぞ。
心ノ町へ向かうことおよそ四十分。
さっきまで滞在していた町…刃ノ町を抜け、大きな橋を歩く。
橋の下を流れる川の名前は[思念川]と言い、刃心ノ国を形成する町全てに通っているらしい。
なんでも、二週間続いた日照りのせいで付近の水が全て干上がってしい、その際、忍び装束に身を包んだ一人の人物が現れ、両手で印を結び何かを天に念じた所どこからともなく水が溢れ返り、国の人を数多く助けたそうだ。
その水と言うのが思念川に流れるもので、祈りによって湧き出たことから今の名前がついたらしい。
他にも、道中、背負っているユキミから聞いた話がある。そのうちの一つが刃心ノ国は三つの町で成り立っているということだ。
刃ノ町ーー俺たちが少し前まで滞在していた場所で、俗に言う一般人が主に住んでいる地域だ。
心ノ町ーー今から向かう場所で、主に観光施設が集中しているらしい。ここでの稼ぎが他の町の主な収入源となるため、国の活性化に直結しているんだそうだ。
ノノ町ーー[ノ]と書いて[へつ]と読むため、へつノ町。こちらは鍛冶屋や訓練施設が主体の町ということで、かなり血の気があるらしい。肩肘でもぶつかろうものなら昼夜関係なく血が流れるとかなんとか。
更に、姉であるツキミの苦手な食べ物や、ツキミの嫌いな虫、普段は強気な発言ばかりしているが実は乙女な面があるなどなど。
何一つ聞こうと思っていなかったことばかりを教えてもらい、ツキミの弱点ばかり詳しくなった頃。
「…見えてきたな」
「でっすね!相変わらず賑やかで楽しそうでっす!」
橋の終端部で嬉しそうに声を上げるフタとナリ。
遠くを覗いて見れば、距離はまだあるがそれでも賑わう音が聞こえてくる。
「凄いですね…これで、お祭りとかでは無いんですよね?」
「うん。普段からあんな感じだ。年中お祭り騒ぎ…って言うと聞こえは悪いかもしれないけど、みんな陽気で楽しい者ばかりだ」
「は〜。そういうとこ、オレちょっと苦手かも」
にわかに疲れが見え始め会話の減っていた俺たちだが、目視出来た途端に言葉数が元に戻ってくる。
心なしか、心ノ町に向かう脚も速くなる。
「そっかぁ…。もう少しでルフトさんの背中ともお別れなんだ。乗り心地がいいのに」
「全くだ。ユキミはおぶり心地がいいからもう少しこのままがいいのに」
「うわぁ、気持ち悪い」
「人を乗り物扱いするからだよ」
言いながらお互いに微笑み合う。
ここまでの道のりですっかりユキミと仲良くなれた。おかげで、今では軽口を叩きあえる仲だ。
「ほぅ?随分と仲が良くなったんだな」
「あ、ねぇさん。
そうなの。ルフトったら、わたくしのこと『重い』、なんて言うの。酷いと思わない?」
そんな会話をしていると、それまで小虎と話していたツキミが会話に混ざってきた。
「はは。確かにそうだ。ユキは重くなんて無い」
「もー、ねぇさんったら」
「悪いのはルフト君だよ。鍛え方が足らないんだ。後で私が鍛えてやろう」
どこか乾いた笑顔を見せつつ提案してくるツキミ。
力不足を実感していた所だし、有難い申し出ではあるが…
「気持ちは嬉しいけど、暫くはどうだろう。王都に戻ったら、そんな余裕あるかわからないし」
今はちょっとした休暇みたいなものだから、こうやって温泉にも行けるが、明日くらいには王都へと戻らないといけない。
戻れば、きっとまたすぐに別の依頼が来るだろうし、鍛錬とは言え私事に時間を割けるかはわからない。
第一、俺がツキミの元に通うのか、ツキミが俺なところへ通うのかで話が変わってきてしまう。
今は取り敢えず、気持ちだけ貰っておくことにした方が良さそうだ。
…そう、思っていたのだが。
「あぁ、いや、なに。別にそこまで長期的なものでは無いよ」
バン、と俺の方に鈍い痛みが走る。
今度はハッキリとわかった。
妙に落ち着いた声、光の薄い瞳、のせられた掌。
さっきの申し出が、俺を心配してのことではなく、背中にいるユキミへのものだったということ。
「…まずは、この凝った肩を良くほぐさないとな」
グニグニと揉まれる右肩。あるのは心地よさではなく、圧迫される緩い痛み。
な、なるほど。さっきの忠告は[怪我をさせるな]だけでなく、[手を出すな]という意味もあったのか。
「あ、あはは。そんな気にしないで…」
「ねぇさんだけずるい。わたくしもルフトの肩揉む!」
「な、ユキ!?」
俺の言葉を遮り左肩を揉み始めるユキミ。
……やめてくれツキミ。そんな獲物を見る獣のような目で俺を見ないでくれ。
「…は、ははは。仲が良いようで何よりだ。そ、その調子でもう少しの間頼む」
本当にほぐされていく左肩と、ギチギチと悲鳴を上げる右肩。
天国と地獄を同時に味わい、顔が笑顔のようなしかめ面のようなわけのわからない感じに歪んでいることだろう。
「ふ、二人ともありがとう。お陰で町に着くまでの元気が戻ったからもう…」
「あれ、誰か倒れてるぞ?」
大丈夫だ、そう言いかけると前を歩いていた小虎が手すりから身を乗り出して橋の終端部分より少し外れた位置を覗く。
小虎に倣い、みんなで確認してみると、確かに成人男性らしき人物が横たわっている。
「…大丈夫でしょうか?私、見てきますね」
「なら、私も一緒に行こう。何かあっても良いようにな」
「そう、ですね。はい、お願いします」
駆け出そうしたセラにフタがそう言い、二人で男性の元へと走っていく。
残された俺たちは若干の警戒の中、周囲にそれとなく気を配り橋を進む。
昨日、あれだけのことがあった後だ。逃げ出した敵兵という可能性もある。本当に怪我をして倒れているだけなら手を貸して刃ノ町へ引き返すだけでいいが、もしも何かの罠だった場合、あまり下手なことは出来ない。
「…見たところは普通の人間っぽいでっすけど…」
「変態する前は特徴の薄いだけの魔者という可能性もあるからね…
気は抜けないな」
小声で話しつつセラとフタが男性の元へ着いた事を目視で確認する。
僅かな沈黙の後、フタがしたのは[手招き]だった。
「取り敢えず、怪我人みたいですね。わたくしたちも行きましょう」
背負ったユキミの言葉に俺たちは頷き、男性とセラとフタが待つ位置へと急いだ。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




