俺とみんなと隣町
では、どうぞ。
「さってと!早速出発しましょー!」
「「「「「おーー!!」」」」」
中天からの日差しを浴びる中、宿屋の入り口脇でナリの合図に握った拳を掲げる五人の集団。
…なんの恨みがあるのか。うち一人は左腕を水平に伸ばし、俺の頬付近まで拳を近寄らせている。
出掛けるにあたり、浴衣から着替えたツキミとユキミはお互いに、よく似た白色の服に身を包んでいた。
ヨウやフタたちの着ているような忍び装束を基調とした見た目に、刃心ノ国でよく見られる服の特徴を加えた装いは、見ようによっては巫女服っぽくもある。
非常に動き易そうなその服装に、自身の武器を背負っている二人を加え、セラ、小虎、フタの五人。
その輪からはみ出している男が一人いる。
「お、おー」
「も〜、どうしたんでっすか?ノリが悪いでっす!」
「お、おー!」
それは、元気なく拳をあげる俺だ。
腰に手を当てて肘を張るナリに注意されて声こそ大きくするものの、なんとなく乗り気にはならない。
別に、断固として拒否をしたいわけじゃない。ただ、[この状況で行くの?]という、もやもや感が拭えてないだけだ。
何故って、ほら、つい昨日まで色々あって大変だったわけだし、観光しに行く気分じゃないというか…。
「まぁそう悩むなルフト君。我が国には古来より[湯治]という言葉があってだな。
心身ともに疲れて、擦り傷切り傷を負ったのなら取り敢えず温泉に浸かろう。そういった考えだ。
面白いことに心ノ町にある温泉は、浸かるだけで細かな傷が癒えていく。心の疲れだって、よくほぐれるに違いない。
[何故今なのか?]ではなく、[今だからこそ]行くんだと理解して欲しい」
「距離もそれほど遠くないし、行ってから考える、というのも手ですよ。
それに腐っても温泉。やっぱり気が乗らないとなれば、さくっと湯浴みして出ればいいんです」
気がつくと右肩にはツキミの、左肩にはユキミの手が乗せられ、その場に固定されたように身動きが取れなくなる。
なるほど?つまり、強制的に連れて行かれるわけか。
まぁ、絶対に行きたくないってほどじゃないから、連れて行かれても問題ないんだが。
疑問なのは二人のこの…
「しかし久し振りだな、ユキ」
「そうね、ねぇさん。最近忙しかったものね」
会話の内容こそ普通なものの、妙に熱が込められている。
…そう、俺が疑問に思うのは二人の温泉に対する強過ぎる想いだ。
宿でも温泉と呼ばれる大浴場を使用したが、広く開放的だと言うだけで今の二人が入れ込むほどの[何か]を感じたわけじゃない。
単に二人が異様なまでの温泉好きだったとしても、この[行けば絶対好きになる]みたいな雰囲気を醸しながら説得するのは少しばかり違和感を感じる。
それに、なんて言うか、その…
「…ルフトさん?」
「んぁ!?」
考え事をしている最中、唐突に声を掛けられて間抜けな声が飛び出る。
依然、俺の両肩から二人の手は離れていないが、ツキミとユキミは心ノ町の話を俺を挟んでずっと交わしている。
そんな中で顔を覗いてきたのはセラだ。
「急にどうした」
それまで巡らせていた思考を一旦中止して、不思議そうに首を傾げてるセラに話しかける。
「いえ、何か考え事をしていたみたいでしたから…」
「え?あ、あぁ、まぁうん」
よっぽど顔をしかめていたんだろうか。セラに心配されてしまった。
最近はあまり見ないとはいえ、心配になる程考え込むのはセラの方だと思うんだが…。
「ルフトさんがなんとなく不安になるのはわかります。
立て続けに色々なことが起きましたから、気持ちの整理がつかないんですよ、きっと。
だから、そんな時こそ息抜きが必要だと思います」
そう言い終えると、セラはにこりと微笑んで俺の額に指先を軽く触れさせた。
「…それもそうだな」
謎の行動に戸惑いつつも頷くと、セラはクルリと俺に背を向け小虎のいる方へと歩いて行く。
……確かにセラの言う通りだ。
俺のさっきまでしていた思考のそれは、戦闘時に持ち出した緊張感が今も残っていてやっている余剰な分析でしかない。
おまけに、睡眠は取ったといえ、睡眠時間自体はあまり長くない。自分でも気がついていなかったが、集中力は散漫だと言えるだろう。
そんな状態で抱いた疑問がマトモだと言い切れるはずもない。
なら、再び眠る気にならない俺が取ることは一つ。
わがまま言わずに温泉に行き、疲れを取ることだ。
「ツキミ、ユキミ。変な態度をとって悪かった。
もう温泉に入りたい気分になったから、わざわざ肩を掴む必要ないよ」
割り切ってしまえばどうと言うことはない。
さっきまでの煩わしいささくれが嘘のように霧散していき、俺の気持ちはもう、温泉へと切り替わっていた。
「うん?
ああ、いや、コレはだな…」
相変わらずこれから行く町のことを話していた二人が俺の言葉に振り向く。
けど、何故か肩から手を離す気配はない。
もしかして、疑ってる…とか?
「言い忘れてたけど、わたくし、あまり長い距離を歩けないんです。
ですから…ね?」
「……はい?」
申し訳なさそうに苦笑いするツキミと、肩に置いた手に更に体重をのせるユキミ。
その二つが何を意味するのか理解し切る前に、俺の背中へなにかが覆い被さった。
ぐわりと、世界が縦に揺れ、屈しそうになる膝をどうにか保つ。
「…私の妹に何かあってみろ。いくら君とはいえ許しはしないからな」
自分の状態すら分からないまま言い放たれた楔にも等しい一言は、流石は四英傑が一人、放たれる殺気が俺の頬を撫ぜていったように感じた。
「ここからだったら一時間もかかりませんし、到着まで頑張って下さいね」
身体がくの字に曲がり、首を上げなければ正面が見えない中、背中からから聞こえたのは、上品さの中に幼さを感じるユキミの声。
「お!ルフくんもやっとその気になってくれたんでっすね!
それじゃ、行きましょー!」
「「「「「おー!!」」」」」
二度目のナリの合図でみんなが歩き出す。
向かう先はここから一時間もかからないという心ノ町、その温泉。
「ほらほらルフトさん。役得ですよ役得。今のうちに目一杯楽しむといいですよ」
俺が歩き出すということで、よりしっかりと背中に抱きつくユキミ。
それはつまり、女性の象徴ともいえる一部を押し当てて来ていることに他ならないのだが…
「…サラシ巻いてても、あるものはあるんだなぁ」
「はい?」
発言の意図がわからず困惑するユキミを他所に、以前小虎をおぶった時の事を思い出す。
あの時は師匠の気まぐれ訓練のせいでそんな余裕なかったけど…
「いや、なんでもない。
それじゃあ、落ちないようしっかりつかまっててくれ」
「…?」
今は余計な事を思い出す暇はない。
背負っているユキミに何かあれば、俺は多分死んでしまう。だから、心ノ町に着くまでの間、決して気は抜けない。
今じゃ、し慣れたように感じるおんぶに苦笑いしつつ、先を行くみんなの後をついていった。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




