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俺とみんなと遅過ぎた増援

どぞー


「すまなかったな、みんな。もう大丈夫だ…?」


明け方頃、湖から戻ってきた俺とフタは寝ているみんなを邪魔しないよう、宿の人に頼んで別室を借りた。その際、女将に妙に生暖かい微笑みを向けられたのだが、あれは何だったんだろうか…?

そんなことはさておき。今後のことを少し話した後眠りについて目覚めた俺たちは、昼少し前、ナリとセラの待っている本来の部屋へ戻ってきたわけだが…


「ど、どうしてツキミ様とユキミ様がここに?昨晩おかえりにならなかったのですか?」


襖を開けるなり目に入ったのは畳の上に敷かれた五組の布団。そのうちの窓際に近い二つに宿で支給される浴衣に身を包んだツキミとユキミが、眠たげな視線を向けながら座っていた。


「いや、それも驚きだけど、もっと驚いてるのは…」


そう、俺が衝撃を受けている事、それはユキミとツキミがいる事じゃ無い。

布団が五組、引かれている事だ。

本来いないはずの二人が泊まっていることはわかる。夜も遅かったし、セラが『泊まっていったらどうですか?』とでも言ったんだろう。

だが、それならナリの分を合わせても四組でいいはずだし、俺たちが戻ってくることを想定していたのなら六組になるから一組少ない。

しかし、ここには五組ある。あるいは、五組しかない。

と、言うことはつまり。ここには本来いないはずの一人が存在することになる。

…じゃあそれは誰なのか。見当は簡単についた。


「小虎が、いる、のか…?」


「…あぁ、確かそんな名前だったな。昨夜、君とほぼすれ違いで現れたぞ」


恐る恐る尋ねる俺に、こともなげに答えを返すツキミ。


「ま、マジか…」


「どうした?もしかして、険悪な関係なのか、君たちは」


僅かにはだけた襟元を正しつつ聞いてくる彼女に首を横に振る。


「いや、別に悪くない。けど、今回の任務は割と日にちがかかったからなぁ…」


「つーまーりー。心配をかけてしまったからー、逆に怖いーってーことー、ですか〜?」


「え…?

あ、あぁうん。そう言うこと」


それまで薄目を開けていただけのユキミの戸惑うほどまったりとした話し方に、生返事を返してしまう。

…昨日、こんな感じだったか?


「あー、すまない。ユキは寝起きはこうなんだ。顔を洗えば戻るだろうから、それまで辛抱してほしい」


「わ、わかった」


「ほら、しっかりしろ。洗面所に行くぞ」


「はぁ〜い〜」


ぽわぽわと綿毛の飛んでるような顔をしてツキミに寄りかかるユキミは、返事こそしたものの特に動き出す様子はない。


「えぇい!その寝起きの悪さはどうにか出来ないのか!」


手を引っ張って無理矢理立たせようとするも、やはり動く気配がなく、ため息をついたツキミはその場に座り込んでしまった。

なんて言うか、見てて心の癒される光景だ。


「…ところで、ルフト」


「うん?」


妙に和やんだ心持ちの中、僅かな緊張感がツキミから向けられる。

…いや?視線の先にあるのは俺じゃなくて、俺の後ろ、か?

けど、俺の後ろに誰かいたかな。フタは隣にいるし…


「…あれ、フタは?」


襖を開ける時、隣にいたはずのフタの姿が無い。

となると、ツキミの視線から考えても、俺の後ろにいるんだろう。

そうか、さては昨日あれだけ怒鳴って出てったから、今更恥ずかしくなって俺の背中に書かれたんだな?


「全く。誰もお前の事を責めたりしないから、隠れる必要なんて…」


案外可愛らしい一面に微笑みつつ後ろを振り返る。

が、そこに居たのはフタではなかった。


「…ルーフートー…!!」


「…いつの間に」


なにかこう、悪神というか悪霊というか、とにかくあまり良く無いものに乗り移られたような形相をした浴衣姿の女性ーー小虎が、立っていた。


「…なぁ」


「あ、はい。何でしょうか」


およそ手を置く時に出るものじゃ無い音を響かせ、友人を制止するのには不向きな力を込められて、がっちりと肩を掴まれる。


「オレが何で怒ってるか、分かるか?」


「…帰還が遅かったから、でしょうか」


「ちっがーーーう!!!」


「ぐえっ!?」


掴まれている肩を前に押され、意識の埒外にあった両足を足首から綺麗に払われる。

前面を一気に覆う柔らかな羽毛の感覚。幸い両手は空いていたから受け身をとることができ、顔面への直撃は免れた。

だが、身体の前半分をふかふかが覆うのとほぼ同時に、背中に何かが倒れ込んでくる。

生物的な柔らかさと、動物的な温かさを併せ持ったそれは、考えるまでもなく小虎だ。

問題は、倒れる勢いが強すぎて、肺の中の空気が一気に出ていってしまったこと。

僅かに咳き込む。


「お前ー!フタに何をしたんだー!!この、へんたーい!!!」


思い切り首を絞めてくる小虎の申し訳程度の女性らしさを感じながら、慌てふためくフタの制止で首締めが解かれるのを待った。












「…ご、ごめん。ルフト。オレ、フタとナリの事、知らなくて…」


「あー…いや、まぁ、いいよ。勘違いされても変じゃ無いし」


意識が闇へと堕ちる寸前、それまで寝ていた伏兵・セラが目覚め俺は事なきを得た。

その後、寝癖が付いたままのセラに小虎がお説教を受ける事十数分。流石に寝起きはキツかったのか普段よりも短く話を終えると、ユキミの手を引くツキミとともに顔を洗いに部屋を後にした。

何でも小虎は俺たちが使った方法でこの国に来たらしいのだが、あの移動手段は使用者にそれなりの負担をかけるらしくて、部屋に着いた早々に疲労で眠ってしまったらしい。だから継承の儀式の話は知らないし、眠りに着く前に俺とフタがいないことだけ確認できた上での今朝だったから、色々空回りしてしまったんだろう。

残されたのは、俺、フタ、小虎と、寝息を漏らすナリ。


「しっかし、あの騒ぎの中、よく寝てられるよな…」


「まぁ、色々あったからな。仕方ないだろう」


割と激しい取っ組み合いが起きていたにも関わらず、ナリは未だに布団に包まっている。

引っ剥がして突いてやろうかとも思ったが、ナリにしてみても昨日の話が衝撃的だったことには違いない。

今まで隠し通していたことが予告もなく公に晒され、挙げ句、自分から打ち明けたかっただろうフタにさえ真実が知られてしまった。

その心中はフタと同等か、下手をすれば全てを知っていても誰かに話すことができなかった分ナリの方が辛かったかもしれない。

それに、昨日は身を削るような戦闘もあった。

極度の精神的・肉体的な疲労が重なれば、起きないことも頷ける。


「…そうだな。

ところで、今更だけど小虎は何でこっちに来たんだ?」


もうそろそろセラからの説教で縮んだ身体も元に戻っただろう小虎に話しかける。

流石は我が隊が誇る母親・セラ。継続するのは難しくても内容はいつも通りしっかりしていて、小虎を反省させるのに不足はなかった。もしかしたら無理に起こされた分の私的な怒りがこもっていて余計に怖かったかもしれない。


「う、うん。そうだった。忘れてた。

ルフェン女王が少しゆっくりしててもいいって言ってたぜ」


それまで正座の状態で固まっていた小虎は、俺の言葉で脚を崩し安座に座りなおすと、そんな事を言い始めた。


「確か、ヨウ…?って奴が報告に来てくれたから、とりあえずは大丈夫だってさ。

今はこの国も大変だろうし、もう少し余裕が出来たら帰ってこい、って」


組んだ足の首を両手で掴んで左右に揺れながら言い終えると、そのまま体勢を崩してナリの寝ている布団に倒れてしまう。


「…ん〜。もう少しウトウトしていたかったんでっすが…」


「なんだよ、起きてたのか」


「半分寝てたって感じでっすね」


芋虫のように布団から這い出て座ると、大きなあくびを一つ溢した。


「さってと。

休みが貰えたと分ったなら行く所は一つでっすね!」


かと思えば、とても寝起きとは思えないほどにハツラツとした声を出して立ち上がり、真っ直ぐ天井に向かって右人差し指を伸ばした。

同時に開かれる部屋の襖。笑顔で会話をしながら洗面から戻ってきたセラとツキミとユキミ。


「いい旅お風呂気分!向かう先は名湯・秘湯のある心ノ街でっす!」


「「「はい?」」」


あまりに唐突な台詞に戻ってきた三人は小首を傾げた。

無理も無い。初めから話を聞いていたはずの俺たちでさえ理解出来ていないのだから。











To be next story.




それではまた次回。さよーならー

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