俺と二人と事実と
では、どぞー。
「それは…本当、なのですか」
「ああ、本当だ。とても信じられないだろうけど」
ツキミから明かされた右左継承のもう一つの秘密。
それは、部外者である俺たちですら怒りを覚えるほどの悪辣な事実だった。
「ならば…ならば、私は本当に祝福を受けた子ではないと。ただの、人の子だったと、そう言うのですか!?」
目尻に涙を溜め、怒りに身を任せてフタが立ち上がる。
「あの厳しい修練も、寝る間も惜しんで蓄えた知識も、ナリとの旅も!…この、覚悟も…!全て無駄だったと言いたいのですか!?ツキミ様!!」
今にも胸ぐらを掴みかかりそうな勢いでまくし立てるが、けれどツキミもユキミも正座をしたまま微動だにせずフタを見ている。
そこには同情の視線も、憐れみの念も、何もない。
彼女に慰めの言葉は意味をなさず、言い返すには二人は咎が身を縛りすぎている。
だがそれでも目をそらすわけにはいかない。
それを知っているからこそ、二人は口を開かずにいる。
ただ、固く拳を握りしめるだけだ。
「ッ…!!もういい!!」
「フタさん…!」
「来ないでくれ!!!」
部屋を出て行こうとするフタを止めようと立ち上がるセラだが、怒りのこもったフタの一言で動きが止まってしまう。
いや、正確には、ここにいる全員の呼吸さえ一瞬、止めてしまった。
「…少し、一人にさせてくれ。お願いだ」
僅かに理性が戻ったのか。
フタは小さく残すと、部屋から出て行った。
「…なぁ、さっきの話、本当に全部本当なのか?いくらなんでも酷すぎるだろ。
関係のない俺だっていますぐここから出て行きたいくらい胸糞悪い考え方だぞ」
陰鬱が空間を満たす中、俺の吐き出した苛立ちにユキミが頷く。
「えぇ、本当よ。
本物の祝福の子とは別に、もう一人、ただの子供に『あなたが祝福を受けました』と伝えて、そのように育てる。
その間、本物の方も同じように育てるけど、決して外部に漏らさない。表向きはあくまでも[ただの子供]を装い暮らさせる。…そう、絶対に偽物の子よりも優秀ではないように思わせて育てていくの。
やがて迎える儀式の日に、偽物の子は初めて自分の本当の役割を知る。
それが…」
「それが、[お前は偽物だが、本物を殺せ]ということ。でっす。
そうすることによって、国一番の英才教育を受けた子が残った上で来たるべき日の蓄えを行えて、最もみんなが避ける[生贄を殺す]役も決まる。
本来なら何が何でも拒否したい[殺害行為]でも、それまでの人生が殺人を後押しする。何故なら、その人物が死ぬことで得られる意味を、他ならない自分がよく知っているから。
本当、尋常じゃないでっすよ。こんなのが、今までずっと連綿と続かられてたんですよ?
こんなの、儀式でもなんでもない。ただの呪いです」
俯いて語るナリの瞳から落ちるのは、小さな雫。
それは、フタの境遇を思っているからだけではない。
「…ナリくんが、まさかその本物の祝福の子だったなんて…
色んなことが急に起き過ぎて、私にはもう何が何だか…」
先ほどの話で明かされた[フタは偽物として育てられた]と言う事実、それと同時に知らされた[ナリこそが本物]だ、という事。
当然、本物として育てられたナリは事の全てを知っていた。
それが何を意味するのかは考えるまでもなかった。
「…けど、だ。
ツキミとユキミはどうして右左継承の真実を教えてくれたんだ?
さっきも言ってたように、特定の人物にしか知ってちゃいけないんじゃないのか?」
「勿論、この儀式を破棄し、以降繰り返されることがないようにするためです」
俺の問いに即答したユキミ。
…うん?
「つ、つまり、フタが僕を殺す必要がなくなった、と?」
ユキミの言葉の意味を半分も理解できていないらしいナリが混乱気味に尋ねると、ツキミが頷いて答えた。
「それどころか、今後この国でお前達のような辛い思いをする者がいなくなるんだ。
今回、魔王軍の連中に攻められたことが幸いしてな。この混乱に乗じて計画を前倒しすることにしたんだ。
先頭に立って進めていたカキフミ様が亡くなってしまったことはそういった意味でも痛いが、時期長も既に我々の同志になることがほぼ確定している。
…ようは、右左継承の儀式は前代をもって終了し、二度と起きないよう歴史の闇に葬るんだ」
「ですから、ナリとフタはこれから普通の冒険者として生活を始めて良いの。
二十歳になったからといって、刃心ノ国に帰ってくる必要もないわ」
二人が、事実を教えてくれた理由を語る。
それを聞いたセラは一瞬明るい表情をするが、すぐに、何故フタが居た時に話さなかったのかを理解し、再び影を落とす。
「…なんにしても、フタに何も言わずにいるのはダメでっす」
涙を拭うフタの言葉にツキミが俯く。
「すまない。どうしても私たちでは告げる事が出来ないんだ。
…彼女のこれまでを否定した挙句、全てが無為になる。なんて、どのツラ下げて言えばいいのか分からないんだ」
「あれだけ大見得切って言ったのに、結局ダメなの。
情けなくて、ごめんなさい」
深く頭を下げるツキミとユキミ。
二人とも決してナリに伝えてきて欲しいとは口にしない。
分かっているからだ。ナリも、フタと同様に怒りを覚えている事を。
なら誰が言いに行くのか。
ついさっきまで俯いていたはずのツキミの視線がそれを答えていた。
「…わかった。俺が行ってくる」
「本当か!」
「ああ。一応、俺は隊長だしな。
セラも心配だろうけど、今は俺に任せてくれ」
一緒に行きたそうにしてるセラが何か言う前に先に制しておく。
普段は一緒に行動しないとダメだと言うセラだけど、今回ばかりは付いてきてこられては困る。
「わかりました。
フタちゃんのことよろしくお願いします」
少しむすっとした風に託される。
「…ごめんなさいルフくん。ホントは僕が行かなきゃいけないんでっすけど、ちょっと、そんな余裕ないでっすから…」
「大丈夫。気にすんな。
それより、フタのいそうな場所わかるか?」
ナリに場所を尋ね、心当たりのある場所を教えてもらい、宿屋を後にした。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




