俺とみんなと秘密と
では、どぞ。
お風呂から戻ったナリの登場により、それまでよりもより姿勢を正して正座をする二人の女性。
先ほど聞いた話だと、年齢は俺たちとそれほど変わらないそうだ。
「では改めて、あなた達に御礼を。
私はツキミ。
私たちの国への助力、心より感謝します。お陰様で我が国は最小限の被害に収まり、これからも明日を拓いてゆくことができます。
…失ったものもありますが、それらは必ずこの国の糧となるでしょう」
ツキミと名乗った真っ白な短髪が特徴的な、キリッとした目元の女性が深々と頭を下げる。
「わたくしはユキミ。
わたくし達が不甲斐ないばかりに、皆様には大変な御苦労をお掛けしてしまいました。
せめてその疲労が癒えるまでどうぞごゆるりとお過ごし下さい」
続けて深謝するのは、彼女の隣で座るユキミ。ツキミよりも灰色がかった白の長髪で、優しげな瞳が印象的な女性だ。
「ど、どういたしまして。
…これ、僕が来る前にも同じことしてたんでっすか?」
「あぁ。
ルフトとセラは多分これで三度目だ」
若干の混乱の中、ナリはフタの隣に腰を下ろす。
フタの言う通り、俺とセラは彼女たちの頭を下げる姿を既に二回見ていた。
初めは嬉しくも思ったが、こう短時間の間に三度も見ると流石に申し訳なってくる。
…俺の無力さを思い知ってしまう、というのも理由にはあるが。
「それだけ私たちが感謝してるって事だ。
実際、我ら四英傑がもっと強ければあなた達に御手を煩わせることもなかった。
次を担う者達には、私たちのように悔しい思いをしてもらいたく無いな」
「えぇ、本当にそう。
あの日々ほど、己の無力さを悔いた日はありません。
…もう二度と、戦さ場に立てないのだと思うと、余計に」
瞳を伏せて拳を握る二人。
今の俺にはその気持ちが痛いほど良くわかる。
けど、今重要なのはそこじゃ無い。
「それで、二人はどうしてここに?お礼を言いに来てくれただけなら、そんなに緊張しないと思うけど…」
「あぁ、悪かった。話が逸れたな。
…うん、お察しの通り、ここに来たのは少しばかり事情があるんだ。だが、いざ目の当たりにすると決めていた心が揺らいでしまってな…」
苦笑いにも似た不思議な表情で頬をかくツキミ。
そんな彼女を見かねたのか、ユキミはツキミの太腿に指先を忍ばせると。
「いだだっ!
な、なにするんだよユキ!」
「ねぇさんが相変わらず女々しいから喝を入れてあげたの」
そっぽを向きながら、思いっきりつねった。
「女々しいって、あのなぁ…
…でもまぁ、そうか。ありがとな、ユキ」
「そういうの要らないから、早く話してあげて。
…二人も、もう限界だろうから」
その会話で、俺には何故この二人がここに現れたのかが全て理解できた。
いや、俺だけじゃない。セラ以外の全員が同時に理解したはずだ。
この国での戦いは、まだ終わっていないということに。
「わかった。
ただ、一ついいか?」
「なに?ねぇさん」
「いい加減、つねるのやめてくれないか?痛いんだけど…」
「あらら。ごめんなさい。ねぇさんの太腿ってつねり心地が良くてつい、ね?」
こっちの張り詰めた緊張を他所に、口元に手を当てて微笑むユキミ。
ああやってつねられるのは慣れてるのか、ツキミは呆れつつも微笑んだ。
「…さて、それじゃあ本題に入ろうか。
長くなるが、決して寝るんじゃないぞ」
キリリと、ただでさえ鋭い瞳をさらに尖らせたツキミはそう口にし、話し始めた。
俺が、フタから聞いた使命の、より詳細な事実を。
「…以上が、そこに座る二人の…フタとナリの冒険者になった経緯だ」
鉛のように重い空間。
あらかじめ話を聞いていた俺でさえ、受けた衝撃を上手く御しきれていない。それほどの重い事情。
ちらりと覗いたセラの表情は、とても直視できるものではなく、当事者の二人は、更に衝撃を受けていた。
俺がフタから聞いていたのは、この刃心ノ国に連綿と受け継がれているしきたりだ。
曰く、この国では十数年から数十年に一度、神の祝福を受けた子が産まれるらしい。
その子は、産まれた時より厳しく育てられ、十五歳を機に親友と旅に出される。
数えで二十歳になるまでに外界を回り、様々な知識を得た後、その子は親友と共に再び刃心ノ国へと戻り、それまで記した手記をまとめ、一つの本として仕上げた後、ある儀式に参加することとなる。
その儀式というのは、次に産まれるであろう祝福の子のために自らの命を捧げるもの。
右左継承。
そう呼称されるのは、右手で知を、左手で武を、それぞれ巧みに操れる神にも等しい英傑を、いつ来るかもわからない終わりの日のために創り上げる儀式。
この国では、世界を回りあらゆる穢れ、知識を得られ、生き残るため向上させた武が確立され始めるとされる二十歳。最も充実された時期にその身を天へ捧げることで、次の子へと継承する。
そう言えば聞こえはいいが、要は、ただの生贄だ。
遥か昔には王都でも生贄と呼べる儀式はあったそうだが、時折現れる治世者ーー今考えれば、ネフェン女王が、その度に根絶していった。
そうすることによって時代に生贄は減っていき、今ではむしろ忌避するべき行為として認識されている。
だから、俺やセラは知識として知っていても、事実として確認したことはなかった。
「…そちらのお二人には衝撃的でしょう。
どう言い繕おうとも、所詮、生贄は生贄。酷く後進的な考えのはずです。
しかし、この国ではそれがまかり通っている。当然の事実として認知されている。
狂気を感じることでしょう」
「それに、これにはもう一つ隠された真実がある。
選ばれた数人にしか明かされていない、より酷な事実が」
重い空気の中、再び口を開くユキミとツキミ。
あの日、フタが俺に明かしてくれた時にも何か意図的に伏せていた風があった。もしかしたら、そのことだろうか。
「…気を、悪くしないでほしい、フタ」
「…なにか、あるんですか?私は全てを知っているはずですが」
下唇を噛むツキミに対し、フタは訝しげに眉を細める。
「あぁ。
お前は、自分を神の祝福を受けた子だ、と言われ育てられてきたと思うが、実は違うんだ」
「……………は?」
僅かに流血するツキミの唇。
痛みを伴わなければ言えないほどの真実を、フタはすぐに知った。
「その隣に座るナリが、本当はそうなんだ。
……あぁ、本当に悪かった。これは私たち大人の責任だ。しきたりだろうがなんだろうが、こんな外道、許していいはずがなかった。
どうか、最後まで話を聞いてほしい」
握りしめられるツキミの拳、その上に重ねられるユキミの手。
彼女たちがなぜそれほどの覚悟を必要としたのか、その答えは、聞きたくなくても、耳を刺した。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




