刃心ノ国の終戦
どぞー。
突如発生した大爆発から数分後、異変を感じた俺たちは戦いの只中にあるだろう場所へと向かっていった。
吐き気を覚える緊張の中到着し目にしたのは、大地に背中を預ける二人の男の亡骸だった。
敵軍を率いていた魔者・リアンは片腕を失った状態で死亡。仲間のカキフミは五体満足ではあるがやはり息を引き取っている。
道中、二人の戦いに巻き込まれらしい敵兵たちを見ても、相当数の死傷者が出たことは間違いない。
幸いこちら側の人間はあまり被害を被っていないようで、見かけた負傷者の数は少なく、死に至るほどの重傷を負った者は片手で数えられるほどだ。
やはり、カキフミの克己の術を知っているからだろう。
味方陣営への被害は最小限に留まったと言える。
互いが統率者を失った今、戦いの勝敗を決めるのは生き残った兵の数だ。
…つまり、数週間に渡って繰り広げられていた刃心ノ国の争いは、人間側の勝利となった。
だが。
「…クソッ。何が『俺がどうにかしてやる』だよ!
ただ、見てるだけだったじゃないか…!!」
勝てたことは嬉しい。だけど、俺たちを信じ、友と言ってくれた彼を失って得た喜びに何の意味がある。
「…あまり自分を責めるな。
私たちは私たちにできることを精一杯やった。雑魚を散らし、数を減らしたことは間違いなく今の勝利に繋がっている」
「そうでっす。僕たちは何もしなかったわけじゃない。やれるだけのことをやったんですから、寧ろ胸を張るべきでっす」
憤りを露わにして拳を握る俺にフタとナリは慰めの言葉をくれる。
二人の言っていることはわかる。確かに、カキフミに言ったことを自実現出来るとは思っていなかった。
けど、だとしても。俺は俺が許せなかった。
もっと何か出来たんじゃないか?
あの時、俺がリアンを仕留められればこうはならなかったはずだ。
そんな考えばかりが瞼の裏で走り回ってる。
「…今は、とにかく怪我をしている人を助けましょう。
悔やむことがあるのなら、出来ることをもっとしてからです」
それまでカキフミやリアンの状態を確認していたセラが口を開く。
…あぁ、そうだった。俺には、俺たちにはまだやらなきゃいけないことがあるんだ。
「…そうだな。
手分けして負傷者の救護に当たろう。ヨウには俺から連絡して救護隊かなにかを呼んでもらえるよう頼んでおく」
「わっかりまっした!」
「あぁ。
ならば、まずはどこかに運ぼう。そこでセラやほかの回復系の術を使える無事な者に応急手当てをしてもらい、後ほど来る救護隊に国の中へ運び入れてもらおう」
「でしたら、私は門の近くで他の方と待っていますから、皆さんはそこに運び入れてください。
施術の準備をしておきます」
一先ずこの怒りは押し込めておこう。
カキフミや、仲間たちが必死になって守り通したこの国をこれ以上傷つけるわけにはいかない。
それぞれ顔を見合わせ、手分けして救助にあたった。
ヨウと連絡を取ってから約十五分後、応援に来た救護隊の人たち十数人と協力し、負傷者の救護を行った。
最優先事項は人間の応急処置及び運搬だったが、途中見かけた負傷している魔者・魔物たちを見捨てることができず、同様の処置を行い人間たちとは少し離れた位置に運び込むことにした。
初めに感じたように人間側の被害はかなり少なかった。殆どの人の負った怪我はは飛んできた石等による擦り傷や、走って逃げた際に足を捻ったなどばかりで、命に関わるほどのものは数えるほどしかない。
大地が歪に変形してしまったという点を除けば刃心ノ国の被害は最大限抑えられたと言えるだろう。
…問題は魔者・魔物たちの怪我だ。軽傷のものの方が少なく、みんな打撲や骨折、酷い場合は腕などの部位を失ったものもいた。
リアンとカキフミの戦っていた場所が敵陣地に近かったことや、魔者たちのカキフミに対する警戒心の薄さなどが原因だろう。
そうして救護に当たること約二時間。
ひとまずの救護を終え、応急処置を施した人間はそのまま門の内側にある病院等へ運び込み、魔者は捕虜として扱われるため檻の中へ、魔物は意識を失ったり眠っていたりしている間に爪や牙などを落とし安全を確保した後に檻へ入れることになった。
「…これで、良かったのかな」
「敵を助けたこと…ですか?」
「あぁ」
ヨウのはからいによって宿屋へと戻ることのできた俺たちは、畳と呼ばれる床の上におもいおもいに座り、身体を休ませていた。
「…本心としては助けたくないでっすが、でも、僕たちもあいつたちもやったことは結局は同じでっす。
侵略か抵抗かの違いはありまっすが、お互いに武器を術を振るって傷つけあった。勝ったら、はいそれまで、というのは嫌でっす」
「だな。
奴らに思うところがないと言えば嘘になる。だが、奴らを助け恩を売るというのは、敵側の情報を得るためには重要な事だ。
無論、無為に命を散らしたくない、というのもある。
なぁに。もしも何かが起きたとしてもこちら側はそれを前提とした対策ができる。野放しにして奇襲を受けるよりは安心できるというものだ」
「…確かに、そうだな」
畳の上で仰向けになっているナリと、窓の付近の壁に背を預けて座っているフタの言葉を聞き、納得する。
放っておくよりは手の届く範囲に置いておく方が色々都合がいいし、それに、死にかけのアイツらを見捨てでもしたら寝覚めが悪い事も間違いない。
「しっかし、僕たちはこの後どうすればいいんでっすかねぇ〜。
一応、ルフェン女王からの依頼は完遂したことになるんでっすし、明日にでも王都に戻っていいんでっすかね?
…まぁ、この国がこの後どうなるのかをもう少し見届けたい気持ちもありまっすけど…」
勢いよく身体を起こしたナリはそう言うと、フタの方まで小走りで行き、窓の外から国を眺めた。
俺の座る位置からでもある程度の風景が見えるのだが、宿の外では多くの人達が血相を変えて駆け回っている。
あくまでも客人である俺たちに対してヨウが気を使って休みをくれたが、外はまだまだ色んな人が必死になっている。
こんな中、なにもせずに帰る、なんてことはしたくない。できることなら怪我人たちの安否を確認してから帰りたいが、結果を報告する都合上すぐに帰らないといけない。
ゆっくりと室内を満たしていく暗い雰囲気の中で初めに口を開いたのはセラだった。
「…まずは疲れを癒してから、ですね。
心身共に疲れ切っている今は名案が浮かび辛いでしょうし、お風呂に入るというのはどうでしょうか」
「…うん、私もそれがいいと思う。今のままでは、むしろ悪い案が出てくる可能性まである。
一呼吸置くというのは良いだろう」
フタが頷き、続いてナリも「賛成!」と立ち上がった。
俺もかなり疲れているから、ありがたい提案だ。
「じゃあ、それぞれお風呂に入りながら今後をどうするか考えようか」
そう言うとみんな頷き、直ぐに着替えを用意して温泉へと向かっていった。
それからおおよそ一時間後、長風呂に定評のあるナリが部屋に戻ってくると、そこには俺たち以外に二人の見知らぬ女性が現れていた。
「はじめまして。私はツキミ」
「わたくしはユキミ」
そう名乗った二人は、ナリに座るよう促すと、それまで話していた話を要約してから再び話しはじめた。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




