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刃心ノ国の神戦


リアン対カキフミ戦 ラストです。


では、どーぞ。


「…はっ、ははっ!ふはははははは!!!!」


「くふっ、かはっ!くかははははは!!!!」


耳に届くは人ならざる域に至った男達の笑い声。

戦闘領域である大地は既に形を変え、歪に盛り上がり凹んでいる。

男が音よりも早く駆け寄り拳を振るえば。

男は羽根を持つ鳥のように大きく跳躍しそれを避ける。

拳による叩きつけと、跳躍による蹴り。その両方の衝撃を余すことなく受けたその場は煙と破片を撒き散らしながら砕けていく。


「ぬぅん!!」


「はっ!」


土煙の中真正面に突き刺されるカキフミの拳を受けるリアン。

全身を使って衝撃を流し、リアンの背にあった土煙が一気に晴れる。


「お返しだッ!」


「ふっ!!」


先ほどの一撃を利用し身体を回転させ蹴りを放つリアン。それをカキフミは右腕一つで受け止める。


「ははっ!やっぱり効きゃしねぇか!!嫌んなるねぇ!全く!!」


「むっ!?」


受け止められた蹴りの向きを変え、カキフミの脇腹めがけ斜めに切るように落とす。

不意の一撃に体勢を崩したカキフミはそのまま地面に向かって垂直に落ちていった。


「なるほど。伊達に生きてはいないと言うことか。機転の利く」


カキフミは立ち込める土埃を一息に払いのけて何事もなかったかのように立ち上がる。


「オイオイ。お前本当に人間かよ。あの高さから落ちたら骨くらい折れるだろ、普通」


カキフミに遅れ地上に降りたリアンは、言葉とは裏腹に喜びに満ちた表情を見せる。


「ふん。今更だろうに」


「あぁ、全く…だッ!」


ボシュン、と空間を蹴り飛ばすような強烈な一撃がカキフミに襲いかかる。

当然両腕で防御の態勢を取るが…


「んっ…!?」


「なにっ!?」


僅かに遅れる腕の動き。

それは、中途半端な防御態勢となってしまう。


「ぐぅッ!!!」


そんなもので受け止めきれるほど易い一撃ではない。間に合った左腕を弾き飛ばし、リアンの凶器みぎあしはカキフミの胸部を穿つ。


「…おい、冗談だろ」


「がっ、カハッ…!」


吹き飛び、吐血し、その場でうずくまるカキフミ。

彼の元へゆっくり歩み寄ってきたリアンは、苦しみ悶えるカキフミを見下ろす。


「待てよ。こんなつまんねぇ一蹴りで終わりじゃねぇよな?

俺はまだ殴り足りねぇし、殴られ足んねぇぞ!」


リアンは腹の中にある苛立ちを余すことなくぶちまけて叫ぶ。

それは、もうこれ以上戦うことはできない、という諦めから出た行動だった。

リアンは知っていた。自身の攻撃が、渾身の一撃で無かろうとも相手を容易に殺めてしまえる事を。

それをもし、人間の不意をついて放ったしまえばどうなるのかを。

故に、男は諦めを口にした。

まだ遊び足りないと駄々をこねる子供のように、見るに耐えない態度で示した。

だが、しかし。


「…無論だ。私がこの程度でくたばる訳がないだろう。

むしろ、ここからが本番だ」


僅かにグラついた膝で身体を持ち上げ、蹴りを受ける前のように堂々と立ち上がるカキフミ。

口元からは赤黒い血が流れている。


「…っは。無理すんなよジジィ。

テメェ、もう立ってるので精一杯だ…!!?」


「悪いな。隙だらけだったもので、つい」


リアンのこぼした情けに対し、カキフミは拳をもって応える。

腰を深く落とし、敵を真正面に捉え、拳を真っ直ぐに放つ一撃。ーー正拳突き。

それはリアンの腹部に、不愉快極まりない音を立ててめり込んでいた。


「がっ…ゴフッ…!!」


「慢心無くして長になれぬことは知っているが…だとしても隙がありすぎるぞ。精進しろ」


「…なん、で…!動けるん…だよ!!」


膝をつき、カキフミを見上げるリアンは憎々しげに視線を向ける。

ともすれば怒りとも取れるその眼に、カキフミは誠実さをもって応える。


「背水せずして勝利は無し。

我ら刃心ノ国にて武を学んだ者たちはみな、死に瀕してから本領を発揮するのだ。

ぬくぬくとして、実に心地良い殴り合いだったよ。リアン」


「…テンメェェェェ!!」


「そうだ!かかって来い!私は術にまで身を堕としたのだ!!この程度で死なれては困る!!」


踏み込みが地震のように大地を揺らす。怯え、逃げ惑う野生獣は最早どこにも無く、ただ巻き添えを食らった魔物・魔者や人の亡骸のみが跳ね上がる。

空を裂き打ち上げられるリアンの拳。

それに応じ叩き落されるカキフミの拳。

両者は再び拳同士を交る。


「お、おお…!オオオオオ!!!」


「がぁぁぁぁ!!!!」


肺がねじ切れんばかりに捻りあげられる雄叫び。

拮抗する拳同士のせめぎ合いは辺りに衝撃波を撒き散らす。

何もないところから風が吹き、かと思えば無風。或いは、大地がめくれ上がり、それを押さえ込むようにして地面が凹む。

人知を超えた…いや、恐らくは神域にまで達するであろう一戦は、火薬もなく巻き起された爆発により幕が降りた。









舞い上がる大地の破片と砂煙。

それらがひとしきり振り終え、晴れた頃、そこに立つ者は誰もいない。

カキフミは右腕を。

リアンは左腕を。

互いに失い、地に背を預けている。


「…なるほど。こうなるか。まぁ、悪くない」


「冗談だろ。これで悪くないって?

はっ、最高の間違いだ」


両者の距離は近い。

だが、再び争うことは不可能だ。

腕の欠落、出血多量、爆発の衝撃による各部位の損傷…。

原因は様々あるが、最も占めているのは、己の最大を振いあったという満ち足りた心地、だ。


「…テメェ、途中から自分のために戦ってただろ」


睨む視線を向けて問うリアン。

カキフミは横目でそれを受け取ると「あぁ」と応える。


「元々器では無いんだよ、私は。

ただの孤狼だった私が、[一番強い]という理由だけで長になった。

無論役目も果たし、貴様たちに紛うことなき怒りを覚えたが…。いや、ははっ。己の本能には逆らえん。

長であるなら唾棄すべきと下した術にさえ身をやつして、貴様との死合いを望んだのだからな」


「…そうかい。テメェも俺と似た者だったわけかい。

通りで強えわけだよ」


リアンはそう、最後に溢すと、それきり口を開くことはなかった。


「…ははは。油断したな?

この勝負、私の勝ちだ」


男は残された腕を天高く掲げ、太陽を握る。

その拳が再び振るわれることは、無い。











To be next story.




結果としてはカキフミの勝利となりました。


それではまた次回。

さよーならー

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