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刃心の国の死戦

では、どーぞ。


ルフトたちを含む、その場にいる全員はただ呆気にとられていた。

自分たちでは触れることすら叶わないほどに強い彼の者と同等かそれ以上に渡り合う、ただの人間。

戦いに身を投じるには些か不安のある年齢であるはずの男が、手甲を付けた人ならざる者と殴り合いを繰り広げる。そのどれにも当たることなく二度目の衝撃波に辺りが満たされた。

何か言葉を交わす二人。

それまでを、少し離れたところで注意深く観察していたセラは、応急処置の済んだルフトに向く。


「…ルフトさん。今のうちに遠くまで行きましょう。嫌な予感がします」


緊張の張り詰めた面持ちでそう口にしたセラ。

ルフトは頷くと、未だ痛みの残る身体をどうにか起こして立ち上がった。


「肩を貸しますから、私に寄りかかってください」


倒れても平気なようにルフトを支える手を背中に添えたセラに、しかし、頷きはしない。


「…いや、大丈夫。このくらい、なんてことない」


そう言い歩き出すも千鳥足になるルフト。

側にいたセラは倒れそうになる彼を直ぐに受け止めると、有無を言わさず、腕を肩に回した。


「ダメです。そんなに覚束ない足でどうやって離れるんですか。

大丈夫です。ルフトさん一人くらい、私でも運べますから」


「…分かったよ。頼む」


何を言おうと頑として頷かないと悟ったのか、ルフトは俯き身体を預ける。

セラはそれを嬉しそうに受け止めると、「はい」と口にして歩き始める。

その瞬間だった。


「うぉあ!?」


「きゃぁぁ!!」


歪な音を立てて揺れる視界。がくりと身体が傾き、平衡感覚がくるったかのと錯覚してしまう脳。

二人が事態を理解した時、背後にあった大地は全くの別のものと変わっていた。


「じ、地面が…」


「凹んでます…。

こんなの…。ッ!?ルフトさん!次が来ます!!走りましょう!」


「あ、ああ!!」


あまりに現実離れした光景に呆然と立ち尽くした二人。だが、すぐさま感じた違和感にセラはルフトの身体を目一杯抱き寄せて走り出した。

途端、大地が急激に盛り上がる。地下で何かが爆発したのかと考えてしまうくらい唐突に、大きく。


「ま、マズイです!あの二人、途方も無い強さの持ち主です!!!

すぐに戦闘区域から離れないと、生き埋めにされちゃいます!!」


後方で繰り広げられる想像を絶する戦いから逃げるために全力で駆けるセラとルフト。

落ちてくる岩や石、砂利などをかいくぐりながら走り切り、かなりの距離を取ることに成功した二人は安堵の息を吐く。


「こ、ここまでくれば流石に大丈夫だと思いますけど…」


ルフトの肩を離し、乱れた呼吸を整えるセラ。

だが。


「…嘘だろ。こんなところまで余波が来るのかよ…」


足二つ分先の地面が突然凹む。

地鳴りのような轟音。視界を閉じるほどの突風に両手で顔を覆う。


「…滅茶苦茶です。強すぎますよ、カキフミさん…!」


「あぁ、本当に強すぎる。

意味わかんねぇよ…」


拳を固く握り歯をくいしばるルフト。

…口にはしないが、彼は、今の自分を激しく恥じていた。

大口を叩いたにも関わらず、置かれたこの現状。

スレイスの時のように、仲間と力を合わせれば勝てるだろうとタカをくくっていた開戦前の自分。

いざ戦い、理解してしまった己の弱さ。

それらの[無力さ]は、リアンから受けた傷よりもルフトを強く蝕んでいた。


「あっ!ルフ君!セラっち!無事だったんでっすね!!」


「良かった。万一があったらどうしようと思っていたが、杞憂に終わって良かった」


ルフトの右方から現れたのは忍び装束を着た二人の人物、フタとナリ。

どちらも返り血で、黒を基調とした布地に赤が添えられている。


「そちらこそご無事でなによりです…!」


「結構派手にやってきたみたいだな。ケガは?」


「私もナリもかすり傷程度だな」


「でっす。

素早さには二人とも自信がありまっすから!そうそう攻撃は喰らわないでっす!

けど…」


「…なんだよ、あれ」


振り返ったナリとフタの先に見えるのは揺らめく炎のようなナニカ。


「…鬼、でしょうか…?」


見れば見るほど何者かの顔に見えるそれは、瞬間、一際大きくなると、途端に姿を消し去る。


「ああ。

あれはまさしくカキフミの持つ[克己の術]。

発術すれば最後、彼が敵と見なした全てを再起不能にするまで決して戦いを止めることのない恐るべき術だ」


奥歯を噛み締めて、炎の出所であるカキフミを見据えるフタ。


「詳しいでっすね、フタ。いつ知ったんですか?」


フタの中に今すぐ駆け出したい衝動が生まれるが、隣に立つナリの質問によってそれは途端に霧散する。


「い、いや。さっき戻って来るときに偶然な。ナリは少し離れていたから聞き逃したんだろう!」


「なるほど、そうでっしたか〜。僕も聞けばよかったなぁ〜」


セラにとっては違和感のあるやり取りの中、再び突風が彼らを襲う。

吹いた元を見れば、そこはやはりカキフミとリアンの立つ凹みの真ん中だ。


「…始まったか」


「でっすね。

知り合ってまだ浅いでっすけど、ここからの戦闘に僕たちは多分、近寄ることすら出来ないでっす」


ポツリと呟くとフタとナリ。

彼女たちの言葉にセラは頷き、ルフトはただ拳を握ることしかできなかった。










To be next story.


それではまた次回。

さよーならー

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