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刃心ノ国の絶戦


では、どうぞ。


「…いってぇ。いってぇなぁ、おい。久々にいてぇよ。あぁ、いてぇ…」


巻き添えを喰らい倒れ臥す魔者・魔物達の中から一つの影が揺らぐ。

吐血によって口端を伝う血を拭うリアン。

男は、確かに笑っている。

カキフミの一撃によって吹き飛ばされ、立ち登った土煙を払い除けリアンは立つ。

そのもとへ、カキフミはゆったりとしていながらも力強い足取りで向かう。


「なぁ、今のお前だよな。効いたぜ」


大地を踏みしめ天を突かんばかりに真っ直ぐ立ち合うのリアンとカキフミ。


「あぁ、そうだ。整体はかじっている程度だからな。力加減を間違えてしまった。

だが、効いたのなら良かった」


一人は期待を込めた目で。一人は怒りに満ち足りた瞳で。互いを睨む。


「しかし…」


一人の視線が相手から外れてゆく。映す先は仲間の倒れ臥す大地。そして、ルフト。


「よくもこれほどまで我が家族を、友を、苦しめてくれたな。あまつさえ、我が愛し子たちを巻きかを催す計略により殺め、二度と武を振るえなくしてくれた…」


後ろに組んだ拳に渡るのは怒り。カキフミの身体は震えていないが、その心は激情を抑えるのに精一杯だ。


「なら、どうしたよ。殺すか?俺を」


見開かれるもう一人の男の目。

本来ならば乗るはずのない易い挑発に、だがカキフミは組んだ手を解き、拳を握った。


「無論」


「そうこなくっちゃあな!」


激突する拳と拳。激突は衝撃波となり辺り一帯に牙を剥く。


「ほぅ?」


「っは!」


繰り出した手を引き、カキフミは続けて左拳で突く。それを手甲をはめた左拳で受け止めるリアン。それを皮切りに、二人の打つ拳は力も、数も、激しく多くなっていく。

カキフミが右拳で頬を殴ろうとすればリアンが左腕で受け止め、リアンが腹部を貫こうとすればカキフミはそれを掌で受け止める。

立ち合った場から一歩も後退せず、一歩も前へ進まず、二人は殴り合いを続ける。

剛、と拳を振るう音が空を裂けば。破、と受け止める衝撃が響き渡る。

一歩も引かない二人の拳は、再び巻き起こった拳と拳の衝撃波をもって、ピタリと止んだ。


「ふむ。なかなかやるな。まさか、斯様な使い手がこの世にまだいるとはな」


「そりゃこっちのセリフだ。ジジィのくせにいいモン持ってやがるぜ畜生」


狂気に歪む両者の口元。二人は、互いに拳以外の場所に埃一つ、血の一滴も付いてはいない。


「はん。ジジィとは言ってくれる。魔者である貴様の方が余程年老いているくせに。

だがしかし、いい加減飽いてきたな。貴様もそうだろう?そろそろ、本気で交じ合えたくないか?このきょうきを」


獣じみた笑みを浮かべて右拳を見せるカキフミ。

それを見たリアンは満足げに瞼を閉じると、同様に右拳を胸元で固く握る。


「…あぁ。そうだな。じゃあ、全力だ…ッ!」


リアンは構えた拳をカキフミの脳天目掛け振り下ろす。それを造作もなく避けると、勢いよく地面に叩き込まれる。

瞬間、その周囲の地面がひび割れた。砕け、浮かび上がり、大きく凹む大地。僅かに遅れて轟く、ベコリという怪音。

およそ人外ですら起こしようのない災害的規模の一撃は、それでもなお、ただの人である男に届きはしない。


「良いのか?敵に空を舞う翼を与えて」


「なに!?」


地下で逃げ場を探し、惑う、リアンの力の余波は凹ませた大地を盛り上がらせる。

衝撃に乗り天高く舞い上がったのはカキフミ。

振り落ちてくる男は右手で作った鉄槌を、背中の裏にある太陽に眼を眩ませている魔者の脳天目掛けて叩き込む。


「ごぉぉォォォォう!!!!」


「ぐ…がぁぁぁ!!」


リアンによって作られた円形の大地を超え、更に大きな円を描き地面をめり込ませる。

先手を取ったのは、カキフミだ。


「…ふん。二撃目としては些か派手すぎたな。

…む!」


服についた埃を払いつつ呟いたカキフミは、しかし、すぐに異変に気がつく。


「いっっっっってぇぇぇ!!!」


大きく描かれた凹みの円の中心部に出来ている小さな穴から飛び出てくるのは流血した魔者の頭。それは、リアンが立っていた場所であるが故に、誰であるかは明白だ。


「ふむ。

拳が丈夫なら、使い手も丈夫か。なるほど、真だな。…いや、そうとも限らないようだな。少なくとも、貴様の場合は」


生首の状態でカキフミを睨むリアンは、無理やり穴を広げて右肩を地上へと出し、そのまま勢いよく穴から這い出る。


「あぁそうさ。俺の身体は特別製…いや、特別なのは俺の持つ術、か。時々わけわかんなくなんのがたまにキズだな」


全身を覆う幾多もの小傷がみるみる癒えていく。

…いや、癒えていた、と表すのがこの場合は正しいだろう。


「なるほど。超回復系の術か。

当然だな。いくら丈夫だとはいえ、あの一撃で深手の一つも負わなければ、私とて勝てはしない」


「おいおい、泣き言にはまだ早いだろ。

安心しろよ。俺の術はたったそれだけだ。回復力を上回る攻撃さえすれば俺は死ぬぜ。簡単にな」


心臓を指差し邪悪に笑うとリアン。

それを静かに聞いていたカキフミは、瞳を閉じてゆっくりと俯くと肩を小さく震わせる。


「…良い。実に良い。そうでなくては面白くない。

私も全力を尽くそう。

久方ぶりの発術だ」


ギロリ、と、獣と遜色ない眼差しをリアンに向けたカキフミの身体からは、何か得体の知れない炎のような揺らぎが立ち込めていた。








To be next story.




それではまた次回。

さよーならー

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