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刃心ノ国の臨戦


どぞー


そこは、一つの決闘場と化していた。

中心に立つはリアン。そこから川のように分かたれる敵軍と自軍の生物たち。

岸辺にも見える彼らの群れは、睨み合いのこう着状態、と言えるものではなく何か、怯えているようだ。


「どうした!大将首はここだ!!我こそはと言う猛者はいないのか!!!」


空間が歪まんばかりの怒声を上げ、リアンは猛る意思を撒き散らす。


「リ、リアンさん!もういいでしょう!?アイツらにそんな度胸ないんですから早く殺しましょうよ!!」


岸辺から上がる仲間からの言葉に、しかし、リアンは首を縦に振ることはない。


「…おい、本当にお前らは腰抜けなのか!?敵に、憎むべき相手にこれだけ言われてもなんとも思わないのか!!」


彼の足元に転がるいくつもの人間の遺体。そのうちの一つの頭に足を乗せなおも猛るが、やはり前へ出てくる人間はいなかった。

彼らは決して弱いわけではない。刃心ノ国は古来より武芸に優れた不屈の戦士を育て上げるのに力を注いだ国だ。現在においては昔ほど厳しくはなくなったが、それでも、他の国々の兵士たちとは一線を画す強さを持っている者ばかりだ。

だが、そんな彼らでさえ名乗りをあげることはできなかった。

それはひとえにリアンのバケモノをも超越した力に原因があった。


初めは誰も…それこそ、敵側である魔者・魔物達でさえ何が起きたのか理解できていなかった。

人間側から一人の男が名乗りを上げ、背負っていた斧を手にして駆け出しながら大きく振りかぶる。その鈍重な切っ先は狙い違わずリアンの首元めがけ突き進んでいき、誰もが彼の死を確信した瞬間の事だ。

地面そこに転がっていたのはリアンの首ではなく、斧の使い手だった。ただ一撃、心臓のある位置を的確にくり抜かれた斧の男は声を上げる間もなく、恐らくは死んだことにさえ気がつかず、絶命していた。

刃心ノ国の人間たちは、権力は様々あれ、やはり一番重要視されるのはその者が如何に強いのかということ。

自身よりも力のある相手には敬意を持って接する彼らの礼節が災いし、余計にリアンとの対峙を拒まさせているのだ。


「………くだらねぇな。せっかく久し振りに暴れられると思ったのによ」


憎々しげに吐き捨て、頭の上に置いていた足をどかすとリアンは後ろに向き直り敵の岸辺へと歩み始める。

まるっきり興味が失せたのだろう。唯の一度も振り返る事なく敵陣のもとまで行くと、仲間達に命令を出した。


「アイツらにもう用はねぇからぶっ殺していいぞ」


嘲笑もない。嘲りもない。憤怒も軽蔑もない。ただの、[飽き]のみを込めたそれは、他のどの感情よりも恐怖を帯びた刀身となる。

ただ一つの感情のみを込め口にした言葉は脊髄を突き刺すほど鋭く、冷徹に、敵味方関係なくその場にいた生物全てを襲う。


「何やってんだ。早くやれよ。死にたくはねぇだろ」


二度目の刀身は、明確な苛立ちによって作られる。向けられた先は敵である人間どもにでは無く、同じ立ち位置であるはずの味方。

彼らは知っている。この男は、口にしたことを絶対に違えないことを。

ーー故に。

せきを切ったように、彼らは無我夢中で駆け出した。

いや、駆け出そうとしたのだ。

耳をつんざく炸裂音は、使用者の意思を代弁するかのように荒ぶる。

刹那に現れる金色の壁。電流を帯びたそれは一目で分かるだけの殺傷力を有している。

構えかけた武器を持ったまま、その場で固まる魔者・魔物。


「やめて下さい!それ以上先に行けば、命の保証はありません!」


彼らに向けて発せられるのは、まだ若さを残した少女の声。

人間側の岸辺を割って現れるセラと、その後方少しからついてくるルフト。

彼は隣の戦場から悲鳴を耳にして駆けつけた。

状況を理解しているわけでは無い。だが、二人は確かに耳にした。

ーーアイツらを殺せ、と。


「誰もいないのでしたら私たちが貴方のお相手を務めましょう。構いませんよね?」


柔らかな文調からは考えられないほどの怒りを露わにするセラ。その隣に立ったルフトの表情も決して穏やかではない。

…いいや、もしも彼の、彼らの目に人を殺す力があったのなら。リアンは、既に亡き者となっていただろう。

その強烈な視線に気付かない男ではない。

リアンは二人に背を向けたまま見開いた視線を向け微笑む。


「へぇ、面白いな。

けど、二対一はダメだ。負ける気はしねぇが公正じゃねぇよな。

殺り合うならどっちか一人からだ」


瞬間、全身にのしかかる重圧。

岸辺を形成する生物たちは地面に押し付けられんばかりの圧力に激しく動揺する。

何故これほどまでに圧を感じるのか。どうしてこんなにも吐き気を催すのか。どんな生き物と対峙すればこうも意識が飛びそうになるのか。

同様は様々あったが、一つだけ共通する事実が存在した。


逃げたい。


この場から今すぐにでも逃げ出したい。

転ぼうが、押し倒そうが、踏みつけようが押し退けようが関係ない。自分だけでもいいから助かりたい。

ただそれだけの、生物が持つ本能的欲求を今この時、リアン以外の岸辺を作る全ての生物たちが感じていた。

だが、そんな中でも。


「…は。随分かわいいお目目をしてるんだな。セラは教えてもらってきたらどうだ?ちょっと鋭いから、目付き」


「よ、余計なお世話です。

どうします。どっちから行きますか?」


「まずは俺からだな。セラはほら、少し前のとさっきので疲労してるだろうし、少し休んだほうがいい。

まぁ、出番はないと思うけどな」


ルフトとセラは蔓延る殺意の中で不敵に笑っていた。

決して重圧の影響を受けていないわけではない。証拠に、彼らの表情は厳しいものだ。

けれど、それでも二人は笑っている。

死を恐れぬからではない。力の差を測れないからでもない。

ただ、カキフミとの約束のために全霊を尽くすと決めていたからだ。


「…いいねぇ。これなら楽しめそうだ。強い意思ほどそいつを逞しくするものはねぇからな。ちょっとやそっとじゃ折れなさそうでいい。

問題は、どこまで続くか。だけどな」


リアンは楽しげに呟くと、とうとうその背を彼らに見せることをやめ、拳を握った。

彼の、戦闘態勢だ。









To be next story.




それではまた次回。

さよーならー

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