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状況整理


どぞー


屋敷を出て、ヨウの後をついて行くこと数分。屋敷に負けず劣らずの大きな家が見えた。

そこが今日からお世話になる宿なのだろう。

陽はまだ高く、宿を利用する旅人や冒険者の数は少ない。


「…案内はここまでとなります。

後ほど、我が国の戦況等々をまとめた物をお持ちするので、それまではごゆっくりと」


用件だけを手短に口にするとヨウは宿屋に入らず、踵を返そうとするが、それよりも早く、ナリは右手を振った。


「ありがとうございまっした!ヨウさん!」


「また後ほど、宜しく頼む」


「…どう、致しまして。お役に立てて光栄です」


まるで初対面の人同士のような他人行儀の会話を終えると、今度こそヨウは振り返ると、瞬く間にその場から消え去った。


「さって、早速中に入りまっすか!」


見送りを終えたナリを先頭に俺たちは宿屋の扉をくぐる。


「わぁ…。凄いですね。

なんていうか、落ち着いているのに豪華な…」


扉を開けて一番最初に感じたのは心を落ち着かせる木の匂い。たった一呼吸ですっかりこの空間の虜になり、次に得られるのは視覚からの力強く穏やかな内装だった。

仄暗い印象を受ける明かりと見事に調和する木造の壁。

王都で見られる均等な大きさの煉瓦レンガを敷き詰めた物ではなく、まばらで無骨な石を並べ隙間を埋めてならしたような床。艶やかに磨かれているため微かに明かりを反射している。

等間隔に設置された明かりは長廊下が近くにあることも作用して、どこまでも続く一本道の迷路のような印象を受ける。


「いらっしゃいませ。皆様がカキフミ様のお知り合いの方々ですね?

当宿の女将を務めさせたいいただいてます、ヨカ、と申します。どうぞ、良しなに。

では、お部屋まで御案内致しますね」


どこからともなく現れた長い黒髪の美しい着物姿の女性ーーヨカは、後から姿を現した数人の従業員に俺たちの手荷物を預かってくるよう指示を出すと、長廊下の方へ手を差し出した。





数分後、二階の端にある大部屋に案内されると、ヨカは「何かつまめる物をお持ちしますので」と言うと、部屋の端に置かれていたヤカンと茶葉の入った筒、人数分の湯呑みをテーブルの上に置き、水道の場所を説明してから部屋を後にした。


「…どうやら、我々は皆同じ部屋にあてがわれたようだな」


「みたいでっすねぇ。

まー、この宿は名所なだけあって宿泊客が多いですから仕方ないでっすね」


部屋の奥の方まで行き、布団のしまわれている襖や、浴衣の置かれている場所などを確認しつつため息混じりに言うフタと、外の景色を眺めながら楽しげに語るナリ。

その後に続いて、荷解きをしながらセラが口を開いた。


「ですが、こういうのも新鮮で良いですね。

なんて言うか、仲間!って、感じがします」


「…あぁ、そうだな。セラの言う通りかもしれない」


「でっすねぇ。

っと、僕たちも荷解きしちゃいましょうか」


ナリの提案にフタが頷き、本格的に荷解きを開始する。

…フタから話を聞いている俺は、セラの言葉に素直に頷くことができなった。










そろそろ橙色に夕焼けが染まるだろうといった頃、数枚の用紙を手にしたヨウが障子で閉じられていた窓の外に現れる。


「御免」


と、一言だけ口にすると、そのまま窓から上がってきた。


「こちらが現在の戦況をまとめた報告書となります。枚数こそ少ないですが、要点だけは押さえてありますので問題はないと思います。

何か疑問点があれば私に聞いてください。全て、とまではいきませんが可能な限りお答えさせていただきます」


脱いだ靴を窓際に揃え、テーブルへと歩いてくるヨウ。

それに合わせ、俺たちも定位置となりつつある場所からテーブルへと席を移す。

並べられる七、八枚の紙。

それぞれが思い思いに手にし、目を通していく。

書かれているのは被害の度合い、いつ頃から今日までどの程度の頻度で襲われていたのか、敵に於ける要注意の魔者・魔物…などなど、丁寧かつ分かりやすくまとめられている。

そうして全員が全ての紙を読み終えた。

まず始めに口を開いたのはセラだ。


「…四英傑と呼ばれる方々は本当に素晴らしく強いお人達だったのですね。

…現在は、どうなさっているんでしょうか」


酷く落ち込み、手にしていた紙をテーブルに戻す。


「ええ。我が国きっての英雄豪傑でしたから。

…私も、何度も手ほどきを受けました。皆、とても気の良い方々で、少々癖はありましたがそこが憎めない、不思議な魅力を持っていました」


俯き口にするヨウの肩は震えている。

…確か、男の二人が亡くなって、残る女二人は、一人が利き腕を失い、もう一人が右足を失ったんだよな。

戦士として、侮辱に等しい事を言われての帰還だったそうだ。


「失礼。つい私情が漏れてしまいました。

報告書には書いてありませんでしたが、生き残ったお二人には現在心理療法を施しています。

女性でありながらも、屈強な男たちを圧倒していた二人ですからね…。身体の怪我よりも心に負った傷の方が深刻なんだそうです。

ある程度落ち着けば、義手や義足を付けての生活に戻れるそうですが、二度と戦うことは出来ないと聞きました」


「…そうですか。教えて下さい、ありがとうございます」


「この、侵攻の傾向によると最近はあまり攻められていないようだけど、理由はなんでかわかるか?

四英傑を倒したのなら、その日のうちに一気に攻めてくると思うんだが…」


セラに続けて、俺の持つ疑問を投げかける。

一番最後に見た紙に書かれているのは攻め込んできた日から今日までの頻度で、ある時期…別の用紙に書かれていた[最後の四英傑が再起不能になった日]を境に、ぱったりと言っていいほど、魔物達に襲われなくなっていた。

俺が敵だったなら、この絶好の機会を逃さない手はない。


「それは恐らく、敵軍を率いている魔者・リアンのためでしょう」


「軍の親玉が?余計に分からないな」


「私もルフトさんと同じ疑問を抱き、以前一度だけカキフミ様にも内密にして敵軍の偵察に行ったのです。

首尾よく侵入し、内情を探っていたところ、一際大きな部屋がありまして、天井裏から覗いてみたのです。

…不甲斐ないことに何を話しているのかを全て聞くことはできなかったのですがどうやら怒っていたようで、参謀と思しき魔者を殺めていました」


「…ますます分からないな。

殺された魔者の独断だったにせよ、結果的に好機が訪れたのなら軽い叱責はするにしろ命まで取るとは思えない」


「よっぽど自分本位の魔者なんでっすかねぇ。

なんであれ、自分に断りを入れない者はみんな死刑ー!みたいな」


「…間違いと言い切れないのが怖いな」


「考えたくはありませんが…もしそうだとしたら、恐ろしい相手ですね」


俺の疑問にそれぞれが推察を口にし、セラとヨウを除く俺たちは手に持ったままだった報告書をテーブルに戻す。


「…他に、何かありますか?」


静かになり始めた空間で、ヨウが確認を取るが、首を縦に振る者はいない。


「そうですか。

出したら、今日は一先ずここまでにしましょうか。明日また、伺いますので、それまでに新しい疑問が出来たら聞いてください」


言い終え、立ち上がったヨウは、入ってきた窓へ行くと、縁に座って素早く靴を履いて夕暮れの街へと消えていった。


「…さてと。取り敢えず、風呂にでも入るか」


「そうですね。時間も時間ですし、一息つきましょうか」


「でっすね!

歩き旅ではありませんでっしたが、瞬間移動というのも妙に肩が凝りますし、温泉に入って全身くまなくほぐしたいでっす」


「報告書の件は夕飯の後にでもまた取り掛かろう。

一度、整理する必要もあるかもしれんからな」


簡単に話し合い、一先ずは風呂に入ることとなった。

その後夕食を取り、再び報告書に目を通した。









To be next story.




ではではまた次回。

さよーならー

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