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旅立ちと再会


どぞー


朝が来た。

身体の調子は驚くほど良い。二日前にあんな大怪我をしたとは思えないほどだ。それはフタも同じだったようで、まだ陽の出ていない時間から身体を動かしていたようだ。

今回もまた留守番ということで小虎は頬を膨らませていたが、[怪我せず帰ってくること]を条件に、ネフェンと一緒に見送ってくれた。



身支度を整え、向かう先は王都の門から出て少ししたところ。

整備された道の横に立っているのはサルナと、初めてみる女性だった。

フタやナリのような服装…二人が言うには、忍の装束に身を包み、口元を布で隠している。年齢は俺やセラと大差がなく、短く切りそろえられた黒髪と鋭い視線から落ち着いた人物という印象を受ける。


「予定より少し早く着いたみたいですね。良いことです。

こちらにいらっしゃるのは刃心の国よりやってきた使者のツギハさん。

数少ない、瞬間移動系の術を扱える人物で、これよりあなた方をその力を持って送り届けてくださります」


紹介されると同時に頭を下げて挨拶をしてくれた女性ーーツギハに、同じく礼を返す。

そうして、これから送り届ける俺たち全員の顔を確認し始める。

…当然、刃心ノ国出身である彼女はフタとナリを見ると、一瞬息を呑み、顔を逸らした。


「どうかしました?」


「…いえ、余分な思考です。

では今からあなた様方を我が国へお送りしたいと思います。

すぐそこに描かれた円陣の中で円になるように手を繋いでください」


彼女の案内に従い、示された場所へと移動して手を繋ぐ。

ツギハはそこからそれほど遠くない位置に安座で座り込むと、硬く瞼を結び、両手で何か印のようなものを結んだ。


「臨む兵、闘う者、皆、陣列べて、前を行く。

脚は神風が如く百里を駆け、行くべき大地へ誘わん」


まじないの込められた言葉を紡ぐたび、ツギハの周りに念のようなものが立ち込めていく。

同時に、セラの手を握っている右手から形容し難い不思議な力が流れ込み、左に立つフタへと伝っていくのがわかる。

循環していく力はどんどん増していき、極限まで高まったのだろうと理解した時。


「跳躍ッ!」


世界は、刹那をもって様変わりする。








先ず映ったのは、王都で見られるような派手さのない家々だった。

慎ましくも荘厳な雰囲気を醸す木造の住まいは、この国全体における礼儀を語っているようだ。


「ようこそ、刃心ノ国へ」


突然の世界の入れ替わりに呆然と風景を眺めるしか出来なかった俺たちの意識を戻したのは、羽織りと袴に身を包んだ初老とは思えないほどに漲る力を湛えた男性だった。







「何もない所ですが、ご自身の家だと思っておくつろぎください。

…少々、長いお話になると思いますから」


初老の男性ーーカキフミに促されるまま案内されたのは、彼の自宅だという、一際大きな家だった。

俺たちの生活圏では珍しい[畳]を用いた部屋へと腰を落ち着け、カキフミと向き合う。

向けられる柔らかな視線。顎をさすりながら眺めるように俺たちを見ると、頬を緩ませる。


「新進気鋭の武士もののふと伺っておりましたが、ふむ、なるほど。お若いのにいくつか修羅の門をくぐってきたご様子だ。しかも、ごく最近にも」


ビクリと、鳥肌が立つ。

出会ってまだ数分しか経っていないにも関わらず、スレイスとの戦いがあったことを見抜かれる。


「実に良い。期待以上です。

これは、後々来ていただくことになっている方たちも期待出来そうですな」


腕を組んで高らかに笑うその姿は、年齢的な外見も相まって大らかな印象を受ける。

だが、わかってしまう。

安座し笑っているだけだというのに、まるで隙がない。それどころか、彼の間合いに敵意を持って踏み込めば容赦なく命を奪われる恐怖が、直感で理解できる。

…恐ろしい。


「おっと、そんなことはどうでも良いですな」


それまでの朗らかな空気が一変する。

柔らかな眼差しは、瞬時に生き物を殺せる視線に変わり、緊張を張り詰める。


「…各々もご存知の通り、我が国は今、邪なけだものどもに攻められております。

侵攻が始まったのは約二週間ほど前。これまでは、我が国きっての猛者たちにより侵攻を難なくいなしておりましたが、彼奴らも必死なようでしてな。昼夜問わず大軍をもって攻め込んできたのです。

その結果、我らの誇る四人英傑が皆疲労で敵に遅れを取ってしまい、殺されるか、或いは再起不能まで追いやられてしまったのです」


今にも爆発しかねない闘気に耐え、悔しさに満ちた声で語るカキフミは、座り方を正し、両手を畳につける。


「…どうか、我が国を救っていただきたい。

いいや、ただの時間稼ぎたいも構いませぬ。せめて、せめて、王都より更なる増援が到着するまで我らと共に戦っていただきたい。

不躾な願いだとは重々承知です。

ですが…どうか…!」


額を擦り付けんばかりに頭を下げ、請い願うカキフミ。

恐らくは…いや、間違いなくこの国の主人であるだろう人物がここまで礼を尽くしている。どう考えても自分よりも弱いであろう若輩者の俺たちにだ。

…みんなで相談するまでもなく、俺たち全員の意思は固まった。


「頭をあげて下さいカキフミさん。

勿論です。

そのためにここに来た、というのも当然ありますが、それ以上に、俺は貴方のために力を尽くしたいと思いました。

安心して下さい。きっとこの国を救うだけじゃなく、向こうの拠点も攻め取ってみせますから」


俺の言葉にセラたちと頷き合う。


「何という心強いお言葉…!有難うございます…。

いや、こうしておられませぬな。

ヨウ!ヨウはおるか!」


「…お呼びでしょうか」


目尻に涙を溜めたカキフミの顔が持ち上がり、すぐさま辺りに呼びかける。

すると、どこからか音もなく、忍び装束を着た一人の女性が現れた。


「ヨウ、彼らが今日より我らに手を貸してくださる方々だ。

宿へと案内し、現在の状況を詳しく説明してやってくれ」


「承知」


カキフミの側で膝立ちをし、命令を聞き終えると、ヨウは無駄のない動きで立ち上がって俺たちへと向き直る。


「では、行きましょうか。我らが友よ」


そうして、俺たちは屋敷を後にした。









To be next story.



それではまた次回。

さよーならー

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