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細やかな休息と吐露と


どーぞー


豪華で絢爛な女王の間。

見ているだけで自然と引き締まるその空間は、今はまったく別の理由で緊張が走る。

ルフェン女王を筆頭に、近衛兵を預かる者達とその配下の部隊をまとめる隊長が、長い長いテーブルの席についている。

子供にさえ感じ取れるだろう異様な雰囲気は、俺が現れたことによって更に増していく。


「…来たか。

では皆の者。先ほど伝えた旨、よろしく頼む。

これから暫くは安寧と程遠い日々を送るだろうが、同時に、至るかもしれない屈辱の日を拒むものでもある。

全てを終えた日、再び皆に会えると信じている」


ルフェン女王はが短く締めくくると、テーブルを囲んでいた人たち全員の眼に決意の火が灯っていく。

程なくしてサルナが立ち上がると、続いてラグ、リグ、と続けて席を離れ、やがて女王の間に残ったのは、ルフェン女王とネフェン、そして俺の三人だけだった。


「…ふぅ。

初の任務、お疲れ様でした。あなた方が見つけてくださいました村人の方々は現在、城の中で一時的に保護を受けています」


会議が終わり、張り詰めた緊張を解いたからからルフェン女王はルフェンへと戻り、柔らかな口調で話し始める。


「重度の怪我を負った方はいませんでしたが、軽い火傷や精神的に弱くなってしまった方などが多くいました。なので、こちらで治療を施し、完治し次第村の復興を話し合ってもらおうと思っています」


心の底から安堵し、吐息を漏らすルフェン。

その姿を見て、俺の中にあった不安を尋ねた。


「本当に、殺された人はいなかった?」


その問いに彼女は頷く。


「えぇ、一人も。飛び火で火傷した方がいた程度で、実際に手を出された人はいませんでした」


「スレイスの言ってたことは本当だったんだな…」


ルフェンと同様に胸を撫で下ろし、手にしたままだった報告書の束を差し出す。


「…完璧に、ってほどには無理だったけど、可能な限り細かく書いたから多分大丈夫だと思う」


それを受け取り、ザッと流し読みをするとルフェンは「ええ、これなら問題ないと思います」と言うと、どこからが現れたサルナにそれを渡した。


「それて、俺を呼んだ理由は?まさか、報告書を渡すためだけにネフェンに頼んだわけじゃないだろうし」


今もまだ真剣な表情で後ろに立っているネフェンを一瞥してからルフェンに確認をする。


「…はい。

あなた方には翌々日にもここを発ってもらおうと思っています」


影を覚える返答に、俺は少しだけ眉を潜める。

報告書を詳しく読んでいない以上仕方がないが、昨日あれだけの怪我をしたんだから一週間くらいは休ませてほしい、と言うのが本音だ。


「新しい任務か。

けど、随分急だな。そんなに重要なのか?」


そんな想いが僅かに出てしまい、口調が少しだけ強くなってしまう。

けれど、ルフェンに気にしている様子はなかった。

頷いて話す彼女は[それどころではない]と言いたそうな雰囲気だ。


「ええ。

これよりあなた達には[刃心ノ国]と呼ばれる場所での救援依をしてきてもらいたいのです。

内容は戦闘。今回、解決していただいた[村を襲った者たちの殲滅]ですが、どうやら同じ時期に様々な国で似た事件が起きていたようです。

刀心ノ国は武具類の製作技術が群を抜いていて、昔からお世話になっている国ですので、ここを攻め落とされるわけにはいきません。

なので、早急に送ることのできる兵士の一人としてあなた方には向かってもらいたいのです」


難しい表情を浮かべるルフェン。

事は一刻を争うのだろう。にも関わらず、一日の猶予をくれたのは、最大級の譲歩なのだと、理解できた。


「分かった。帰宅次第すぐにみんなと話して、準備を整える」


そうと分かれば後は仲間と話すだけだ。

事情が事情だ、わがままを言う奴は一人くらいしかいないだろう。


「翌々日の昼前までには足の準備が出来ますから、それまでしっかりと休息を取ってください」


言い切ると、報告書を読み終えたらしいサルナがルフェンに耳打ちをする。

それを聞いたルフェンは頷くと、「では」と会釈し、隣の会議室へと歩いて行った。


「…ネフェンはどうする?」


二人残された俺は、ひとまずネフェンに確認する。

着いてきてくれるのであれば、これ以上ない助力になるのだが…


「わしは残る。

小虎を一人にはしておけんからの」


「じゃあ、また、よろしく頼むよ」


予想通りの答えが返ってきたので、用意していた言葉を告げる。

ネフェンは頷くと、行くぞ、と顎で出口の扉へ促した。









家に着いたのは丁度、みんながお昼の用意を終えた時だった。

テーブルの上に並ぶ料理はどれも俺の空腹を刺激してきたが、ぐっと堪え、ルフェンから新しい任務を受けたことを伝えた。

返ってきた答えは、やはり[了解]の意。

ただし、セラと小虎は何か言いたそうな顔をしていたが、フタとナリの妙な熱量の前では何も言えず、半ば流されるようにしてではあったが。

そうして再開された昼食。

雰囲気は決して明るいものではなかったが、けれど、険悪というわけでもなく、ただ静かに、時折二言三言言葉を交わしながら食事は終わった。

その後、それぞれが旅の支度をし始めるため、自室へと戻っていく。

前回までの任務とは違い、場合によっては長期滞在も視野に入れなければならないため、各々が旅支度をするためだ。


やがて夕暮れ時が訪れる。

旅支度をすっかり済ませた俺が柄長ノ太刀の手入れをしていると、コンコン、と扉を叩く小さな音が聞こえてきた。


「いいぞー」


一通りの手入れを終え、仕上げに丁子油を塗りつつ、返事を返す。


「少し、良いだろうか」


扉をあけて入ってくるのはフタだ。

少し火照っている頬を見るに、お風呂上がりだろう。順番を伝えにきてくれたのだろうか。

彼女の言葉に頷いて、近くにある座布団に座って貰うよう促す。

フタは「すまない」と言うと、そこに正座した。


「…明後日向かう、刃心ノ国のことについてなのだがな、ルフト」


神妙な雰囲気に油を塗る手が止まる。

顔を覗くと、フタは唇を固く結び、何故か申し訳なさそうに瞳をそらしていた。


「どうしたんだよ、そんな顔して。せっかくの男前が台無しだぞ」


異様な緊張感に耐えられず、口をついた軽口。

普段なら『私は男だ!』とでも言いそうなのに。


「…はは。ああ、確かにそうかもな。これでは失格だろう」


なんて、寂しそうな声で言った。


「…何かあったのか?」


手にしていた太刀と油を置き、フタに向き直る。

浮かべられている表情は、苦悩。

それほど悩んでいる仲間に対してとってしまった自分の軽薄な行動を後悔した。

なら、せめて、次は無いようにしなければいけない。

フタの悩みに応えられるよう、心を傾ける。


「あぁ。何かあったのだ。

けれどそれは今ではなく過去。私たちが出会うよりも昔だ。

…本当は、誰にも話してはいけないのだがな」


ポツリ、ポツリと、独り言のように続けるフタ。

俺はただ頷き、フタの言葉を待つ。


「まず、伝えなければならないのは、私とナリが刃心ノ国の人間であると言うこと。

次に話すのは、私たちが冒険者となった理由だ。

だが、これは私の国の人間以外には決して語ってはいけない事。故に、他言は無用で頼む。

…来るべき時までは、絶対に誰にも話さないでほしい。

セラや小虎、ネフェン殿にもだ」


「…わかった」


俺は確かに頷き、フタを見据える。

フタは、俺の視線を受け止めると、安堵して微笑を浮かべ、語り始めた。



それは、想像を越えてあまりある物語で。

話を聞き終えた俺は、拳を握り俯きなにかを堪えるフタの側にいてやる事しかできなかった。










To be next story.


次話より、刃心ノ国編開幕。


それではまた次回。

さよーならー

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