帰宅と報告と
それじゃあほんへ、どーぞ。
太陽がすっかり落ちた頃、俺たちは自分たちの家へと帰り着いた。
玄関で全員無事の帰宅に胸をなで下ろす。
「ほら、もういいだろう?早く離してくれ」
口を尖らせて恥ずかしそうにするのは念のため、とナリに無理やり肩を借りさせられたフタ。その傷はもうだいぶ良い。帰りがけの歩行はかなりしっかりとしたもので、むしろ、肩を貸すことの方が邪魔になってた。
つまり、普通の人と同じ健康状態だったわけだ。
「…はいはい。分かりまっした」
そんなフタに、ナリはどこか嬉しそうにため息交じりで解放した。
「全く、心配はいらなかったのに…」
感触を確かめるように首や肩の関節を回し、自分は元気だ、と大袈裟に表すと、ナリは眉をひそめて口を開く。
「肋骨の付け根と背骨が大変なことになってたクセに、何言ってるんでっすか。
こっちとしては一緒にお風呂に入って、すっこけないようにとか、色々してあげたいんでっすよ!」
「そ、それだけは勘弁してくれ!!」
「ふふっ」
大慌てで両手を突き出して拒否の仕草を取るフタを見て、隣にいるセラが笑みをこぼす。
…多分、この中で一番フタの心配をしているのはセラだ。彼女から聞いた情報からしか状態を知ることのできない俺たちに対して、直に触れて治す、という行為を行っている上、本当に治っているのか?と、疑っているはずだ。
「良かった。本当に大丈夫みたいですね」
「ああ。
もしまだダメなら、そろそろボロが出てもおかしくないしな」
「はい」
今ではすっかり朝も引き、呼吸も落ち着いたセラは、[ルフトさんはどうですか?]と視線で語りかけてくる。
「俺ももう平気だなぁ。
ホント、凄いな。セラの術は」
…まだ若干ふらつく感じはあるけど、あれだけの出血だったんだ。むしろ元気すぎる。
傷跡だって殆ど残らず治癒してくれてる。額から瞼にかけての斜めの傷に関しては怪我してたのかを疑うくらいに元どおりになった。
お世辞でもなんでもなく、セラの術の効力には脱帽するしかない。
「…ありがとうございます」
ポツリと、呟いたセラの表情は、どこまでも優しい笑顔だった。
「さてと、いつまでも玄関にいるわけにはいかないでっすね!汗と泥でベタベタでっすし、早くお風呂に入りたいで…」
フタとのじゃれ合いを終えたナリは彼女とは対照的に、元気に駆け出そうとすると、二階の方からドタドタと騒がしい音が響きだした。
互いが互いを見合い、なんだろう、と首を傾げていると…
「遅がっだじゃないがぁ〜〜!!」
涙でくしゃくしゃになった顔の小虎が階段を飛び降りてきた…!?
「ぐふぅッ!?」
「あああ!小虎ちゃん!?ダメですよ!!」
階段のほぼ頂上からの飛び込み。それは、治ったばかりの俺の腹部に強烈な一撃を見舞い…。
「う、うわぁ!!来るなァァ!!」
ほぼ後ろでため息をついていたフタにも襲いかかった。
「…ごめんなさい。もうしません」
茶の間で、今ではかなりどうにいった正座をしている小虎の俯く姿。目尻には、小さな輝きの粒が見て取れる。
いつのまにか運び込まれていた[ソファ]と呼ばれる座椅子に三人並んで座り、少し前までは俺とセラとフタで小虎を叱っていたのだが…
「こ、小虎もそう言ってることだし、もういいんじゃないか、セラ。私もルフト君ももう怒ってないんだし…」
「そ、そうだぞ。嬉しさのあまりに、ってことだし、悪い気はしないよ。なぁ?」
「あ、ああ」
被害を受けていた当の本人たちよりも怒り出してしまったセラを見て、少しずつ小虎が気の毒に思えてきていた。
…まぁ、セラが血相を変えて怒るのも無理はない。俺もフタもとんでもない大怪我をして、それを治したばかりなのだからまだまだ心配なんだろう。
「……二人が、そう言うのでしたら…」
「ふぅ〜。今出まっしたぁ〜!
お、いい具合に終わってまっすねぇ〜。お次どうぞ〜」
こんこんと続いたお説教がようやく終わる。
それは、普段から長湯だと話題になってるナリがお風呂から出てきてしまうくらいの長時間だった。
湯気が出てきそうなくらいにほかほかしているフタは、卓士…王都の辺りではテーブルと呼んでいるのだが、長方形のテーブルの辺の短い部分、つまり、お誕生日席に座って両手で頬杖をついた。
「そんなに時間が経っていましたか…。
次は、誰が入りますか?」
「オレは先に済ませてるから、他の奴が入っていいぞ」
「あー、俺は報告書を書かなきゃいけないから、後で入る」
五秒もせずに元通りになった小虎は、近くにあった座布団の上に胡座で座り直して告げる。
それに反応して立ち上がり、俺もまだいいと断った。
「ふむ、どうするセラ?私は後でも構わないが…」
「でしたら、フタちゃんが先に入ってください。湯治というものもありますし」
「…わかった。では、先に入らせてもらおう」
微笑んで頷いたフタは、ありがとう、と言い残し、浴室へと向かっていく。
「じゃー、僕と小虎ちゃんは夕飯の準備をしましょうか!」
「そうだな。
ルフトとセラは、もしかしたらお風呂前にご飯になるかもしんないけど、それでいいか?」
「構いませんよ。
…凄く、お腹空いてますし」
「だなー。あるなら今すぐ何かつまみたいくらいだし」
「だったら適当になんか作ってやるよ。報告書…?を書くってことは、部屋に持っていけばいいか?」
「それは助かるな。頼んでもいいか?」
「任せとけ。
ただ、何出されても文句言うなよ」
得意げに腕を組み、ふふん、と鼻を鳴らした小虎は俺の返答を待たずに台所へと向かっていく。
…変なの出されなきゃいいな…。
「あっはは!張り切ってまっすねぇー。
あ、セラっちも何か食べまっすか?」
明るく笑い、ナリが尋ねると、セラは俺を一瞥した後にコクリ、と小さく頷いた。
「了解でっす。
小虎ちゃんがまともなの作ったらそれと同じのを持ってきますけど、変なのだったら、サンドウィッチとかでもいいでっすか?」
「はい。大丈夫です」
「はーい。
じゃあ、しばしお待ちを〜」
人懐っこい笑顔で手を振り、ナリは台所へと向かっていった。
残された俺とセラは、小さな沈黙を作った後、それとなく別れた。
「…報告書ってどうやって書けばいいんだろ」
大きくあくびをしつつ、階段を登りながら口をついたのはこれから待っている事務仕事の事。
サルナが言うには『あった出来事をしっかり書けばいい』らしいが…
何時にこの家を出た、とか、戦闘中に何を考えて行動していたのか、とか、そういうあまり覚えていないことまで書かなければいけないのだろうか。
「んー。考えれば考えるほど面倒くさいなぁ…」
愚痴をこぼしつつ扉を開け、机の上に置かれている白紙の束を見る。
これ、全部使って書かなきゃいけないのか…?
「はぁ。もう眠いや」
一気に身体に疲れが周り、滝のような眠気が襲ってくる。
いっそ書かずに明日口頭で伝えれば良いか…?なんて考える。
…ダメか。帰ってきてすぐに報告しに行かなくてもいい代わりに、些細に書類を作る事になったんだ。
「…頑張るか」
最後につぶやいて、それ以降は黙々と手を動かし続けた。
途中に来た軽食でひと段落つけ、その後すぐにやってきた風呂上がりのセラに促されるまま入浴へと移る。
夕食を済ませ、再び書類を書き出し、書き終わったのは翌朝の太陽が昇る頃だった。
その時になってようやく一人足らない事に気がついたが、ふと振り返ると、ベッドに座り壁に寄りかかって眠っているネフェンがいた。
俺の視線に気がつき、目を覚ますと。
「…それを持ってすぐにこい。大切な話がある」
そう、有無を言わせない雰囲気で俺を連れ出した。
To be nexst story.
戦士に休息が無いように、冒険者にも休息はありませんでした。
ではまた次回。
さよーならー




