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依頼と戦地と惨状と 其の二

前回、明らかになっていなかった魔者の名が明らかになります!


では、どうぞ!



一歩。

歩を進めるたびに僅かに揺れる地面。足下で起こる土煙がその魔者のもつ質量を如実に語る。

アレは、見掛け倒しではない。と。


「そうそう、まだ名乗ってなかったな。

俺はスレイス。お前は…ルフトだったか。


「…そうだ」


「よかった、間違ってなかったか。

まぁアレだ。今から死にに行く奴の名前すら知らないんじゃ、やり辛いからな」


「…なんだと」


安堵したように鼻頭をかくスレイスと名乗った魔者。

この男は、ルフトに勝てるつもりでいるのだろう。当然だ。圧倒的な肉体の差はそのまま実力に直結することがままある。

変態する前のスレイスならばまだしも、このように筋骨隆々な山のような大男になって仕舞えば誰の目にも明らかだろう。

そんな挑発に、ルフトは怒りを募らせたわけではない。


「…なら、村の人たちはどうした。全員の名前を覚えてるのか」


「いや、なんで覚える必要があるんだ?」


刹那、ルフトは脱兎の如く駆け出す。


「…背後…!

いや、前か!!」


ルフトの[虚影]と呼ぶ技が繰り出される。

場所はスレイスの真後ろ。が、すぐにそれはかき消え、直進するルフト本体に移る。


「本当に速いな、お前。残像とかそうそう見ないぞ」


響くのは鉄と鉄のせり合う音。だが、火花を散らすのは刃と鍛え抜かれた筋肉。

普通ならば有り得ない感触にルフトは冷や汗を流す。


「なら、もうちょっと走ってやるよ」


限界まで力を込めるも、ビクともしないスレイスにルフトは不敵に笑う。

弾かれるようにその場から離れ、再びルフトは虚影を使用した。

スレイスを囲むようにして四体。柄長ノ太刀の切っ先を地に擦れる限界まで落とし、腰に携えたようにして構えて現れる。


「…驚いた。四人分出しても、一つもブレずに保てるなんてな。

けど、保つのかそれ」


「…勿論」


彼我の距離は三メートル。

数歩踏み込めば太刀の間合いに入る位置。

ルフトは当然のこと、スレイスも理解している。

状況に於ける優位性は視覚による情報を偽れる分ルフトに上がる中、それでもなお魔者はカケラの緊張感すら持っていなかった。


「よく言った」


駆け出したのはスレイスだ。

初動とは思えない程の速度で走り出したスレイスは即座にルフトの目の前へと移動する。


「速い…ッ!」


「お互い様だろ!!」


斜め上から振り下ろされる鉄拳に、ルフトは太刀の柄を用いて防ぐ。

僅かに弓なりに曲がる持ち手。ルフトの眼前まで迫る鉄拳。

摩擦を起こしたような音が二人の耳をつんざくと同時に、スレイスとルフトを囲むようにして稲妻の音が鳴る。


「なっ…!!」


スレイスをかすめるようにして落ちた雷が、その背中を僅かに焼く。


「ルフトさん!!」


「フタは回収しまっした!!存分にやって下さい!」


光り輝く黄色の幕の先に見えるのは、杖の先端をルフト達に向けるセラと本物のフタを抱き抱えたナリ。

少し離れた位置にいる二人は、おそらくそこでフタの治療をするのだろう。


退路断ヤグルシ・結界マイムール…!いいぞ!!」


「そういやいたっけか!忘れてた…!」


電流が視覚化されるほどの電力を帯びる帯雷の幕。それは以前使われたものと同じだ。

つまり…。


「押し倒せばッッ!!!」


「なにッ…!!」


再び鍔迫り合うルフトとスレイス。不意をつかれたスレイスは半歩後ろに動く。

それをルフトは見逃さなかった。


「このッ!」


ルフトは重心の置かれたスレイスの右足を力任せに刈り払う。左足はまだ完全には地に着いていない。

暴力的なまでの質量は支えを失い、後ろへ倒れた。

あるのは、雷の壁。


「うぉ…っ!?がぁぁあ!!!」


スレイスの背が地面につくことはない。

鼓膜を裂かんばかりに絞り上げられる叫び。

魔者の身体中を雷の縄が駆け回る。

普通なら…いや、たとえ異常であっても致命的な一撃足りうるはずの攻撃。


「あ"あ"あ"…がぁぁぁあ!!」


「…まだ、立つのかよ…!」


だがそれでも、スレイスは再び立った。

黒く焦げた皮膚。口内から立つ細い黒煙。それだけの致命を受けてなお、男は口角を持ち上げていた。


「(…っと出来た。俺にも…!)」


スレイスの言葉にルフトは気づかない。

だが、まだ諦めていないことだけは感じ取れていた。


「来るッ!?」


「…久々に使わせてもらうか!」


空間を断絶するかのような凶音と共にルフトをかすめるのは右脚による蹴り。

それをルフトは三歩後退して避ける。

いや、避けたはずだった。


「…ッ!」


「…やっぱ定期的に使わないと、感覚が狂うな」


ルフトの右腹部から吹き出すのは赤黒い液体。それは留まることを知らず、ひび割れた大地を血色よく染めていく。


「そら!慣らしにもう一発!!」


雷の結界の外で叫ぶセラの声をかき消すようにして再び振るわれる右脚。

ルフトは、今度はそれを後ろに飛びのくでは無く、太刀を地面に突き刺すことによって柄で受け止めた。


「流石に、二発目はマズイからな…!」


いくら乾燥していて砕けやすい地面とは言え、刃の殆どを突き刺した状態だ。容易に差し込んだ位置から動かせるはずがない。

しかし、左肩と右手で柄を抑えてもなお威力を殺しきることが出来ていない

刃は、はじめに突き刺した位置から十センチ近く動いていた。


「賢いな。

じゃ、こういうのはどうだ!!」


「……!!!!」


柄に伝わる蹴りの威力がわずかに弱まる。

それは、二撃目へ移行するための下準備。

ルフトの眼前で大きく振りかぶられるスレイスの大木のような腕。その先端、握られた拳のーー甲の付け根からは、太陽に照らされ銀色に輝く何かが生えていた。


「マズい!」


「当たると血ィ出るぞ!」


空を裂く高音と共に振り下ろされるそれはルフトのこめかみ目掛けて突き進む。

今の体勢から完璧に避けることは不可能ーーー

ならば、と、ルフトは奥歯を噛みしめる。


「ぐぅぁぁ…!!!」


溢れ飛ぶのはルフトの脳髄…では無い。

すんでのところこめかみへの直撃を避けるも傷を受けずに済んだわけでは無い。

ルフトの額から右瞼を経由して出来た斜めの切り傷からは、多量の血液が流れ出ていた。


「よく避けた!これでは俺も手詰まりだ、少し離れさせてもらおうかな!」


楽しげに語り飛びずさるスレイス。右の手首から伸びた短刀程度の長さの刃から滴る赤い液体。

それを一振りで払う。


「さて、決めの一撃が避けられたとなると俺も困ったな」


「…ぬかせ。そっちの有利だろうが」


「はは、バレたか」


余裕の笑みを持って答えるスレイス。ルフトは、腹部を抑え、同様に笑みを返す。


「…驚いたな。お前、二個持ちかよ。

…ま、流石にその腹の傷は直ぐには治せないみたいだけどな」


ルフトの顔に傷はない。

それは、術によって偽視させたがためであり、実際は血が止まってない。


「違うな。治さないんじゃない。治さなくても勝てるんだよ」


「…いいね。面白い」


ここまで来たら、ハッタリで通すしかない。ルフトはそう、自分に言い聞かせていた。










To be next story.




次回、スレイス戦完結。


ではまた。

さよーならー。

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