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依頼と戦地と惨状と

お久し振りです。


どぞ。


木端の転がる大地で寂しげな風に身を晒し、どこからともなく聞こえてきた獣の遠吠えにさえ身構えることの出来ない四人組。

二人は男で二人は女。

男の名をルフトとナリと言い、女の名をセラとフタを言う。

立ち込める黒煙が彼らの鼻を覆い尽くして余りある中、しかし彼らの表情を曇らせるのは咳き込むようなそれらではない。

立つ場は風下。視界に映るは焼け焦げ、崩れ、壊れた家々。

既に人の住処としての機能を奪われた〔村〕だった場所の成れの果てだ。


「酷い…」


口元を押さえたセラがこぼす。

王都からの距離はそれほどなく、二時間もあれば事足りる旅路。故に彼らは楽観していた。

逃げ出した村人がルフェン女王の前に現れ、村が襲われていると伝えたのか今日の昼頃。

願いでを聞き入れたルフェン女王は事務作業に着手し、それを正式な依頼として処理するのに有した時間はおよそ三十分。

やがて事情はサルナの手に渡り、依頼を預かるべく待機している者達…つまりは、ルフトたちに届けられた。

雑破な時間の無駄はあったにせよ、最短の方法で依頼化されたそれ。

当然、ルフェン女王を含むこの事件を知る全員が被害があっても全滅とまではいかないだろうと考えていた。

が、その認識は甘かった。

本来ならば、という考えはこの場合当てはまらない。

本来ならば村を襲う等の事件は事件と呼ばれず、不運な事故だったと語られる。


「…みなさん、ここになにか文字が書かれてまっす」


呼吸すらままならない黒煙の中、一人何食わぬ顔で調査を続けるナリ。彼が手にするのは本の一項程度の大きさの羊皮紙。

そこにはインクで殴り書きされていた。


『少し遅かったな。先手は俺たちのものだ』


書かれていたのは、読み辛くはあっても紛うことなき人の字。

つまりは、魔者達の仕業だ。

事件か事故かを判別するには、そこに明確な意志の介在があるのか否かだ。

獣の理で取られた統率は本能に過ぎず、魔物達は自分の領域である森から出ることはまずない。

彼らが人里に下り、人間を襲い食らうのは生命維持に危険信号が灯った時のみ。

本能による襲撃を、この世界に生きる者達は事故と呼ぶ。

が、今回の襲撃は明確な意志が介在している。

空腹による食事でも、己の領土を荒らされるという危険感からくるものでもない。

ただの、一方的な蹂躙・虐殺。

ならばそれは、本来の事故という定義からは逸脱し、明らかな事件となる。


開幕の音は無作法に野に放たれた。


聴いた者はほぼ死に絶え、湧き上がる闘争心は敬遠すべき怒りとなる。


「…許せん」


わなわなと握った拳を震わせるフタに、ナリが近寄り拳に手を添える。


「この煙の上がり方から見ても犯人達はまだそう遠くにはいってないはずでっす。

…勿論、獣の脚を持っていなければ、でっすが」


「…足跡?」


ルフトの言葉に皆に緊張が走る。屈んだ先にあるのは青年から大人の男性と思われる〔人型〕の足跡。

見て取れる数は一。一人分だ。


「よし、すぐに追おう。私はもう我慢できん」


「待ってください。

これ、足跡一つだけなんですよね…?じゃ、じゃあもしかして…」


怒りの灯る瞳をぎらつかせ足早に後を追おうとするフタにセラが不安を投げる。

少女の感じた違和感。それは。


「…一人で、やったのか。この村を…」


ルフトの口にした恐怖と同じものだった。








「どこまで続くんだ…これ」


村の跡地を抜け、草原と砂道の接続面を歩くルフトたちは一向に行きあたらない終着点に焦りを感じ始めていた。

彼らが女王ルフェンから受けた依頼は敵の殲滅ではあるが、同時に、危機を感じたなら一度撤退し体勢を立て直せ、とも受けていた。

例の足跡を付けてから既に十分近くの時間が経っている。

初めは手がかりとして喜んだこれも、今となってはただの不安材料でしかない。

やがて、ナリが口を開いた。


「…これ、もしかしてでっすけど」


〔ご名答。

ようこそ、戦場へ〕


砂利と草しか見えない筈の地平に知らぬ男の声が響く。

瞬間、構える四人。

柄長ノ太刀、銘のない長身の杖、短刀、鎖鎌。それぞれがそれぞれの最も得意とする武器を手に、背中合わせで四方へと緊張を張り巡らす。


「迂闊でっした。罠だったみたいでっす…!」


〔まぁまぁ、そう焦るな。まずはお話ししようぜ。お話〕


「ならば姿を見せろ!礼儀知らずがッ!」


薄ら笑いを浮かべたような話し声に、フタはとうとう激憤する。手にした短刀は怒りで震え、ギリ、と歯を鳴らす。


「オォ怖い怖い。そんな面してたら王子様も逃げちゃうぜ」


相も変わらず挑発を続ける声。しかしその主人は姿をあらわす。

フタの目の前に。


「なっ…!

このっ!」


「おっと。

はっはは、当たりはしな〜い、っと」


咄嗟に短刀を振るい斬撃を浴びせようとするも男は後ろへ飛び上がると二転して距離を取る。


「どこから…!」


「ずっとお前らの近くにいたぜ」


関節をほぐしているのか足首や肩、首をぐるりぐるりと回している男の体型はかなりの細身だ。しかし、それでも感じる威圧感はその背丈によるものだろう。

目測にしておよそ190センチメートル。ルフトたちは普段、それだけの背を持つ人間を見たことがなかったためか異常なまでに身構えていた。

が、逆に言えばそれ以外は普通の人間と姿は変わらなかった。

目、耳、口、鼻全てが揃いどれ一つとして異形ではない。魔者であるのかを疑うほどに人間然としている。


「…一つ、聞く」


「ん?なんでも聞くといい。ちゃんと答えてやるぜ」


「村をやったのはお前か?」


構えた太刀に力を込め、ルフトは男に尋ねる。逸る気持ちを抑えて。

けれどそれは無駄なことに終わる。


「何当然のこと聞いたんだお前。バカか。術も武器も使うまでも無かったな。火を焚いて終わ…っと!おいおい、まだ開戦の狼煙は上がってないぜ?」


男が言い合えるよりも早くフタが駆け出し、喉元へと刃を突き立てる。だが後一ミリというところで切っ先は届かない。

殺意に満ちた視線は、それでも魔者の楽しげな瞳の輝きを奪うことは出来ない。

フタの手首をきつく締め上げ、幾度腕を引こうともビクともせず、フタは怒りと苛立ちを募らせるばかりだ。


「このっ…クソが…ッ!」


「オォ〜オォ〜怖い怖い。よっと」


「なっ…!

うぐっ!?」


悲鳴とともに土煙が捲き上る。鈍い音はその光景を見ていたルフトたちに恐怖を与た。

驚くほどゆっくりに映った映像は、ただの叩きつけだった。フタの手首を握った手を大きく振り上げ、あっけにとられて放心状態となっていたフタをそのまま力任せに叩きつける。芸も何もないただそれだけの攻撃は、この上なく強力で充分以上の痛手となり、彼女を襲う。

嫌な音を立てて地面に仰向けになったフタはその場でなす術なくうずくまる。


「フタさん!」


「フタを…なんて馬鹿力…!」


「…フタさ…!

ルフトさん!?」


背中を丸めて激痛に耐えるフタにセラはすぐさま駆けつけようとするもルフトがそれを止める。

困惑の支配する顔を向けるセラにルフトは忿怒の宿された瞳をもって答えた。


「あれは罠だ。その気になれば一発でバラバラに出来たはずなのに、あいつはしなかった…」


「だとしても!」


「…なんだ、突っ込んでくるだけの連中と思ったがそうでもないみたいだな」


「あがっ!」


ゴツリと硬いものを踏みつける音。

砂利同士が擦れて不快な音が耳にまとわりつく。


「あっ…あああっ…!」


「ほれほれ、早く助けに来ないとこいつの頭が粉微塵になっちゃうよ?」


砂利と頭蓋骨とフタの悲鳴が奏でる交響曲がセラとナリの怒りを限界まで引き上げる。

二人に睨まれるルフト、だがそれでも、ルフトは出した腕を引きはしなかった。


「…ああ、そうかい。

役立たないならもういいか。そんじゃさよーな…」


大きく脚を振り上げる男。


「ん…?」


だが、地面へ叩きつける寸でのところでピタリと動きは止まる。

そう、地面に叩きつける寸でのところで、だ。


「…あの男はどこに失せたんだ?」


振り上げた脚を、後退する一歩として踏み出し周囲を警戒する。

周りには誰も見えず、また足跡らしきものもない。


「こっちだノロマ」


挑発するのはルフト。彼のもとには抱えられたフタがいた。


「超速度系の術か、お前。

いいね、そう来なくちゃな。一方的だとつまらなくて眠くなるんだよ」


男はニタリと笑って構えた。

以前、ハヤトと対峙した時のように両の拳を固く握り締め、全身を力を込めて震わせる。


「…もうちょっと遠くで本気になってもらいたかったんだけどな」


抱えるフタの肩にルフトの手が食い込む。

これは彼が作り出した幻覚。つまりは、偽物。

対峙する魔者の足元には未だフタが苦悶の表情を浮かべたまま横たわっている。


(今ので距離を取ってもらえたら良かったんだけどな…。そううまくはいかないか)


踏み込む足に力を込め、最大走力を貯めるルフト。

狙い通りに魔者はルフトの術を誤った認識したおかげで、もう少しの間は最もルフトを警戒することだろう。

ただし、相応の努力が必要ではあるが。


「すまんね、どうも。俺の変態はちょっと大変でね。

いやまぁ、角だの尻尾だの出す奴らに比べれば全然楽なんだけど、微妙に面倒というか、辛いのよ。

普段、無理やり押し込めてるからさ」


血走る目はそれでも心踊る色を灯している。


ブチ。ギチリ。メキ、メキ。


およそ生物が出してはいけない音が荒野に轟く。


「…嘘だろ。どういう構造してんだよ、お前」


それまで、細い線のようでありながらも針金にも似たしなやかさと強固さをしていた姿が、みるみる間に変していく。

肩の筋肉は盛り上がり、腕は目を覆いたくなるほどに膨らむ。脚は馬と変わらぬ堅牢さを得て、とうとう人とはかけ離れた化け物として男は成った


「さてと。お前の足と俺の一振り。どっちが速いかな?」


ルフトたちの身の丈をゆうに超えた化け物は、楽しげに微笑んだ。









To be next story.



またじかーい!

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