俺と夜明けと衝突と
例の如く
「今の話詰まった…せや!これの次書いて頑張って繋げよ!」
を再び行ったためにこの速さで投稿できました。
では、どうぞ
瞼の裏に映る柔らかな光。
いつもよりも居心地の悪い目覚め。
背中が痛いし首も凝っている。
それでも、耳だけは澄まされていた。
「起きて下さい!誰か、います!」
結局見張りの交代はしなかった…そんな感想は今必要ではなく。
逆光で影しか視認できないはずの姿を、ただ睨みつけることしかできなかった。
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星はもう消えている。
月は沈み、全てを照らし映す太陽が彼方から鎌首をもたげた。
視認を拒むことはもう出来ず、影絵でしか確認出来なかった存在を知る。
嘘だと思いたかった。
そんなはずはないと盲信していた。
けれど、現実はどこまでも正直で、抱く淡い希望は己の甘さを再確認するだけだ。
今まで見たことがないものを見ることがどれだけ心に負荷を与えるのか。それを知れただけで今は良しとしよう。
そうとでも思わなければ、膝から崩れ落ちてしまう。
ルフトは、心からそう感じていた。
「バカだな。お前たちは本当に頭が悪い。
まさか、[仲間]だと少しでも考えているなんてな」
僅かな期待を打ち砕く言葉が届く。
今まで散々聞いてきた自分たちと同じ言語で。
次に影を見る。
僅かに違うだけの、それでも同じ形。
最後に、実物を見る。
ーーーあぁ、やっぱり同じだ。
「そんなに、衝撃的だったか?
なら、これはどうだ」
上半身裸の、乱雑な髪型をした細面の男は呻きにも似た声を上げて力む。
地を揺るがすほどの恐怖。
圧倒的なまでの重圧がその場にいる全員を圧殺せんと襲いかかってくる。
やがて、[似た声]は[本物の]ものに変わる。
耳が尖る。
肘がほんの少し出っ張る。
瞳が猫のように細くなる。
ただそれだけの変化。
だが、それだけでも既に自分たちよりも力量が優っていると感じ取れた。
「…さぁ、どうだ。これが本当のオレだ。
なんだぁ。あんまり変わらないんで拍子抜けしたか」
聞こえるのはやはり人間の声。
姿形がほんの少し違うだけの人間。
あの時のような人間を象ったモノとは違う、本当の人間。
ーーー俺は、同じ人間とこれから…
「そうビクつくなよ。向こうの世界じゃ普通らしいぜ。人間が人間と殺し合いをするのはさ」
どこまでも冷たい、残酷なまでに凍えた言葉。
合図は、ルフトたちが身構えるよりも早く落とされた。
「来ないならこっちから行くぞッ!」
バツリと嫌な音が響く。
ボタボタと不快な音が耳を舐める。
次に届くのは、ガキンという鉄の音。
「なぁオイ、知ってるか!魔物と違って人間の身体には大量の鉄分が含まれてるんだぜ!!」
「二人ともッ!来ますよ!!!!」
戦闘において敵を意識の埒外に置くのは誰にだってわかる単なる自殺行為。
にも関わらず、ルフトとセラは目の前の人間を敵として認識していなかった。
いや、出来なかった。
自分たちと同じ人間の姿をした者を敵だと思いたくなかったのだ。
「フッッッ!」
「このッッ!」
小気味いい音がする。
鋭い何かが空間を裂く、綺麗な音。
だがそれはすぐに違う音へ塗り替わる。
「うわっ!」
耳元でつんざく鉄と鉄同士がぶつかり合い。小さな明かりが灯り、散る。
それが火花と知った時には既に次の衝撃がルフトの身体に走っていた。
「くぅッッ!」
「がぁっ!?」
技も何もない力任せの横薙ぎでルフトとサルナは後方へと吹っ飛ばされた。
結果としてサルナを抱き抱える状態となってはいるものの、ルフトもサルナも痛みは軽く無い。
舞い上がる砂埃の中どうにか開けた瞼の先に見えるのは、二撃目を叩き込まんとして突進してくる敵。
ーーーそう、敵だ。
あれは明確に、これ以上ないくらい分かりやすく俺たちの命を奪りに来ている、完全な敵だ。
「セラッ!」
「は、はい!」
声のする方を確認している余裕はない。敵との距離は3メートルも無く、瞬き一つあればその手にしている真っ赤な刀がルフトか、あるいはサルナの首を弾き切るだろう。
ーーーならッ!
「ちょっと痛いぞ!」
ルフトは言い終わるより早くサルナを声のした方に無造作に放り投げる。
「なっ、ええええ!!??」
突然の浮遊感に戸惑うサルナはセラに任せ、術による偽視を解除した。
「面白いッ!!」
ルフトが柄長ノ太刀を構えるより早く敵の刀が眼前に迫る。
眼球の真正面に現れる切っ先。
少しでも荒い呼吸をすれば目玉が刀に突き刺さるほどの至近距離。
「奪った!!!!」
だが。
「なっ!」
「お返しだッ!」
確実に目玉を捉えていた刀の切っ先は空を突く。
ルフトが手にした太刀で切りつけるだけの時間はない。
出来るのは、柄による大薙ぎ。
「ブフッ!」
敵の口元から唾が飛沫する。
ーーーこいつと同じ力技で、可能な限り、吹き飛ばすッッッッ!
「…ま、だ、甘ぇ…ッ!」
「何っ!?」
振り切ろうとしたルフトの腕が瞬間にして停止する。
確認せずとも響き上がる破壊音で理解できただろう。
この男は腹部でしなり続ける柄を受け、大地に踵をめり込ませていたのだ。
本来は外へ逃げるはずの衝撃がその場で留まる。
柄が折れんばかりに軋む。
逃げ場を失った衝撃が柄を伝い、刃まで届く。
「ぐうっっ!?」
「バカが!とっとと手を離せ!!」
聞こえたままに身体が動いた。
咄嗟に刃から手を離したルフトは、骨の垣間見える指の腹に目を見開く。
「っはぁっ!はぁっ!はぁっ!!」
「ははっ、いい根性してるじゃねぇか。お前」
落ちた太刀の甲高い乾いた音が地面に染みていく。
同じ刃の部分を掴んだというのにルフトの手は重傷で、男は無傷。
呼吸が荒いのもルフトだけ。
力の差は彼が想定していたよりも歴然としていた。
「治してもらえよ、それ」
セラとサルナがいる方を顎で指される。
ーーー敵のくせに、俺の傷を心配しているみたいだ。
「いや、いい」
「…なんだ、お前も二つ使えるのか」
「あぁ、凄いだろ」
ルフトは術を使って傷を治す。
当然それはただの視覚による誤魔化しでしか無く、痛みはハッキリ残ってる。
ーーーだが、それでもこいつに背中を見せるわけにはいかない。距離は僅か十数歩。
そんな間近で背を向けて走れば、奴の刀…で…?
「なん…だよ…それ…」
「…?
あぁ、これ?」
事もなげに振り上げる刀。
それは、武器と表現するには些かばかり語弊があった。
「良いだろ、これ。
俺の術には[鉄血]と[製鉄]があってな、鉄血の術だけじゃ特に何の役にも立てねぇんだが…よっ、と」
「なっ…!」
うねうねと蠢く真っ赤な刀身。
次の瞬間にそれは、同様に真っ赤で、巨大な鎌になっていた。
「人間の血液には大量の鉄分が含まれてるらしくてな。それをより活性化させ、露骨に[鉄]としての働きを促すのが[鉄血の術]。
それを用いて形を整え、武器として研ぎ澄ますのが[製鉄の術]。
この二つがある限り、オレは手元から武器を失うことは無い。
どうだ、凄いだろ?」
どこか誇らしげに笑い鎌を弄ぶ男。
「違うッ!
俺は、そんなことを聞いてるんじゃない!
…お前、そっちの手はどこにやったんだよ…!」
その姿に苛立ちを覚えたのか、ルフトは怒鳴る。
「…あぁ、これか」
冷たい視線が生命力を放つ鎌へ向けられる。
すると、さっきと同じように蠢き、今度は人間の拳となり、指となって、掌となった。
「…一度こうすると、次に武器出す時に血が減るんだよなぁ…
まぁいいか。面白そうな奴に出逢えたお祝いだ。ちょっとくらい我慢するか」
にへら、と不気味に口元を歪めて再び右手の形を変える。
今度は、鎌でも刀でも無く、細身の刀身。
ルフトが城の中を歩いた時に耳にした、レイピア、と呼ばれる物と非常に似ている。
「そら、治ったんなら立ってお前のエモノを取り返しに来いよ。
全く、大変だよなぁ。自分愛用の武器が手元から離れちまう奴らはよ」
器用に足を使って柄長ノ太刀を左手で掴んだ男は地面へと突き刺す。
まずは、どうにかして柄長ノ太刀を手元に持って来なければいけない。
だが、仮にルフトがアレを手にしたところで今までのように考えなしに振るったりは出来ないだろう。
「…名前は?」
「ん?」
「名前は、なんて言うんだ。お前」
考えがまとまるまでの時間稼ぎ。
傷が治ったように見えている男にはこのありきたりな問いをどう受け取っているか全くわからなかったが、けれどこの男は、心底嬉しそうな顔をして。
「ハヤトだ。
半人半魔のハヤト。父親が魔者で、母親が異世界人の、忌み子・ハヤトだッ!」
「なら、もう一度勝負と行こう!ハヤトッッ!!」
ルフトは自分の言葉を起爆剤に駆け出す。
今の俺が出来る戦い方は多分、これしかない。と自分に言い聞かせ。
彼が狙うは柄長ノ太刀のみ。
「甘いンだよ!」
当然それを予想していただろうハヤトはすぐさまレイピアで刺突の態勢をとる。
だが。
「なに!?」
「悪いけど、俺はそんなに真っ正直じゃ無いんでな!」
「しまっ…」
真正面からの突進をしているはずのルフトの姿が靄のように搔き消える。
そうしてルフトが今どこに立っているのかを正しく理解したハヤトは咄嗟に柄長ノ太刀の柄を左手で握ろうとして…。
「違うッ!」
「んなっ!?」
鈍くて重い音が鳴る。
それは、柄を握るものとは程遠く。
「ぐッッ!ぐぅぅッ!」
骨と骨同士が激突する音だった。
「が、はぁ…!はぁ…」
後方へと飛び退り、ルフトから距離を取るハヤトは、後頭部を抑えながら獣と遜色ない目で睨みつける。
「お前、ちょっと思い切りが良すぎないか?
取り返しに来るだろ、普通」
「お前が手を武器にしてるのに、こっちがエモノ使ってたら恥ずかしいだろ」
喉元まで来てる吐き気を抑えて、ルフトはどうにか挑発をする。
両の掌からの出血は乾燥しきった大地に鮮やかな潤いを与えている。
驚くべきは、その血液すらもルフトの術によって偽視できることだ。
少なくともルフトは出血多量で死ぬ事は無いだろう。
それでも、このまま放っておけば頭がふらついてそのまま倒れこむことは明白だった。
ーーー早く、セラのところに行って治してもらわないと。
どうすればいい…?
血が減っていく中、必死になって考える。
相も変わらず両者の距離はきっかけさえあれば血の海ができるほど近い。そんな中で回復を求めに行けば背後を一突きされてしまう。
白む視界の中、ルフトの求める答えは思わぬところから降りてきた。
「…もういいや。
お前ら、今日はもう帰れよ」
「…は?」
相対し、今にも襲いかからんと眼光を鋭くしていたハヤト。
しかし、何に興味を失ったのか、臨戦態勢を解き、あまつさえ変容した姿を元に戻していた。
「手負いの虎を狩るのも面白そうだがよ、俺にはそんな趣味はねぇんだわ。
どうせ殺り合うなら、冷静で万全で隙のない獣とが良い。
じゃなきゃ、ハンパなバケモノに産まれた意味がねぇ」
「ま、待て!」
振り向き、現れた場所へと歩みを進めるハヤトの背中にルフトは堪らず声を飛ばす。
瞬間、ピタリと動きを止めてその場で立つハヤト。
「…お前、なんで魔物たちの仲間をやってるんだ…?」
「…るせぇ」
何かを呟き再び歩み始めたハヤト。
その呟きの全てがルフトたちに届くはずもなかった。
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「…いやぁ、やっぱり気色悪いなこれ…」
半人半魔の敵・ハヤトの撃退…
正確には、見逃してもらった、と言うのが正しい。
数分前の戦闘の余韻が抜け切らないまま、セラは俺の下に駆け寄るや否やすぐさま治療を開始した。
「イヤなら、次からは無傷でお願いします」
怒りと衝撃と困惑。それらを内包した言葉を吐いたセラは、更に集中して治療を続けた。
それ以降は術による施術中の音だけしか聞こえなかった。
切開、と言うにはあまりにも乱暴な開き方。両手の第二関節の肉が元に戻ろうと肉同士が癒着し合う。まるで生きているかのように、うねうねと。
「…あの、ルフトさんのが終わったら、私の腰も治して貰っても良いですか?
投げられた時に打ち付けたみたいで…」
居心地の悪い沈黙に我慢出来なくなったんだろう。
サルナがおずおずと手を挙げながら腰をさすって見せた。
To be next story.
戦闘書くの楽しいよね。
でも、執筆カロリー凄いと思う(小並感)
それではまた次回。
さよーならー。




