俺と小虎と怖いことと
お久しぶりです。毎度毎度、投稿手順で悩むカピバラ番長です。
ではどうぞ(唐突)
「それで、どうしたんだ?」
ベッドに腰掛けて問いかける。
場所は俺が借りている居室。目の前の椅子に座るのはようやく落ち着きを取り戻した小虎。
今この部屋には俺と小虎の二人しか存在しない。小虎が他のみんなには外にいて欲しいと頼んだからだ。
流されるまま、と言えば聞こえは悪いけど、ルフェン女王お抱えの部隊となり腰を落ち着けることができた矢先に起きた事件。大袈裟かもしれないけど、この問題を綺麗に解決できるかどうかで今後に大きな支障が起こるかもしれないと考えると、楽観視はできない。だから出来るだけ早く解決したいのだ。
…のだけど。
「あぁ、うん」
指を弄り顔を伏せたままの小虎はさっきから同じ返事しかしない。
「みんなはいないんだし、そろそろ言ってくれよ。
…別に、本当は占いの結果とは関係ない問題だったとしてもさ」
「…は?」
目を見開いて信じられないものを見るような顔をする小虎。何度も組み直していた指もピタリと止まっている。
「アレ?もしかしてそういうのじゃない?」
「何言ってるんだお前」
余計な気遣いだったらしい。
てっきり『いつ戦うことになるか分からないから町に帰りたい』とかだと思ったんだけど…。
「…あのな、ルフト」
苦しげに覗いてくる小虎。
俺は頷いて次の言葉を待った。
「言わなきゃいけないんだ。でも、言いたくない」
再び俯く小虎。けれど、指が動くことはなく、祈るようにして握られている。
「どういうことだ?」
「…言霊ってあるだろ。お前、知ってるか?」
突然の質問に一瞬、脳の回転が止まる。
少しして質問を飲み込めた俺は「知ってる」と答えた。
「…オレの術はあんなだからさ、どうしてもそういう考え方を信用しちまうんだ。しかも困った事に、信用すればその分現実になりやすい、なんてのもあるから…」
小虎が筋道を整えるたびに少しずつ空気が重くなっていく。
普段は明るく活発なだけに、苦しそうな姿を見るのは辛い。
けど、それでも…
「だけど、言わなきゃ何も始まらないんだぞ?確かに迷信とは言い切れない事だけど、でも、必ずそうなるとは限らない。だから、な」
そう言うと、小虎は頷き、握った拳とそれを包むように重ねていた手を膝の上に下ろして立ち上がり、俺の隣に座りなおした。
「小虎?」
身体はかなり密着している。脚の腿同士は勿論のこと、肩までくっついていてかなり際どい。
それどころか、楽にしていた俺の左腕を掴むと、その手を右手で握ってきたりする。
にも関わらず俺が取り乱さないのは、その行為が俺に対する好意からくるものではないことが分かったからだ。
「…そんなに、怖い事なのか?」
「分からない。オレには凄く怖い事だけど、ルフトとかセラとかフタとかナリとかルフェンとかネフェンとかサルナとか、他のみんなにしてみれば当たり前のことかもしれない。
…多分、それも怖いんだ」
強く握られる左手。その手は乾燥気味で少し硬い。
そんな手が、自分の震えを止めるために必死に助けを求めてる。
「いや、怖いと思う。少なくとも、みんなも小虎が怖いと思う事はちゃんと怖いと思ってくれるはずだ」
「…本当?」
ただ同意を求めるような問い。
信用できないわけじゃない。ただ、安心が欲しくて出た言葉。
「ああ。
感情の共有は殆どの人間が出来ない。でも、それを理解しようとする事は誰にだって出来る。だからきっとみんなも小虎の持つ『怖い事』が何なのかをちゃんと考えてくれる。
だから大丈夫だ」
そう言うと、左手に伝わる震えが消える。握る力は変わらないけど、何か、決意のようなものが感じられた。
「…ここに来る前、ネフェンの家で言っただろ?『城に着くまでに誰か危ない目に遭う』って」
ちらりと動かされた視線に頷く。
「オレはあの時、本気でオレたちの誰かが欠けて城に着くんだと思ってた。
…でも…」
ゆっくりと言葉が紡がれる。
俺は言葉を返さずに、大事なことを聞き逃さないように続きを待った。
「言い訳じゃないんだ。オレはオレの術を使う時、基本的に意図した事を占えるんだ。…まぁ、当たりハズレ自体はあるけど。
でも、時々、本当に偶に、全く別の事を視ることがあるんだ。
何か、とても大事な出来事。要は大きな事件が起きる前触れを視る時があるんだ」
「つまり、あの時の占いはハズレたわけじゃなかったってことか?」
「そう。
…アレはオレたちのことじゃなくて、昨日の夜に王都を出ていったラルたちのことだったんだ」
「…なんだって」
左手に、薄れていた感覚が戻ってくる。いや、さっきまでよりも強い震えが更に俺を動揺させる。
見れば、小虎は僅かに瞳を濡らしていた。
「聞いたんだ。オレたちがお前ら二人と別れた後にサルナから。
『今日はラルはいないんでっすね』って。別に特別疑問を感じて聞いたわけじゃないんだと思う。ただ、外に出る門まで行く間の話題が欲しかっただけで。
そしたらサルナが『…もしかしたらもう会えないかもしれないですね』なんて言うから…」
同時に強く握られる左手。その不安を少しでも和らげることができるなら、と握り返す。
「偵察に行ったらしい。魔物とかが沢山住んでる場所に。理由は…ほら、お前の故郷でフタだかナリだかが見つけた骨があっただろ?アレが原因らしい」
「骨?」
引っかかる言葉に思わず聞き返してしまう。
「なんか、でかい骨だよ。巨人でも小鬼でもないとかなんとか言ってた」
「…ダメだ、わからない」
小虎の言葉に嘘はないだろう。というか、この状況で嘘をつく訳がないから、そもそも今持った考え自体がおかしい。
…つまり俺は、本当に知らないということか。
けど、どうして?それだけの事なら記憶の隅にあったっておかしくはないはずなのに。
「まぁ、色々あったしな。
…それで、だな」
自問自答を始めかけていた俺の耳に小虎の声が届く。
そうだ、今はそんな事重要じゃない。
「あ、あぁ、悪い。
その偵察とお前の占い、どう関係があるんだ?」
「…あの時オレが視たのは、大きな扉の前に立つ三人の顔の見えない誰か。二人はどこかから帰ってきた後で、もう一人は出迎えの人間。でも、一人欠けてる。
そんな感じのだったんだ」
「その欠けてる一人っていうのがラル、か?」
重々しく頷く。
「けど、どうしてそう思ったんだ?顔が見えなかったって言うなら、そのうちの誰かがラルの可能性だって…」
「違うんだ。
オレのはあくまでも[夢として占いを視る]なんだ。つまり、感覚的には普通に夢を見てるのと同じ…予知夢ってあるだろ?例えば、朝起きて鏡を見て茶の間の椅子に座る、って一連の動きがあるとする。予知夢はその中で『鏡を見る』の部分だけ視るんだ。でも、その前後の記憶っていうか考えっていうか、それまで何をしてこれから何をするか、みたいなことも理解した上で『鏡を見る』場面を視てるんだ。
…わかるか?」
「まぁ、大体は。
今ので言うなら『ラルと三人で偵察に行き、先に帰ってきた二人が、出迎えの人間に何かを話してた』の『先に帰ってきた二人が』の部分を、前後もなんとなく理解した上で視た、ってことだろ?」
正しく理解できていたらしく、小虎はホッと息を吐く。
続けて、思ったことを聞いてみる。
「それで、話してた内容か、もしくは、先に二人を返した理由、のどちらかかその両方かが、ラルの安否についてだった。のように理解していた。でいいのか?」
自分で言っててよく分からなくなるような聞き方だけど、どうやら正しかったらしく、小虎は少し考えた後頷いた。
「元々、少しでも早く情報を届けるために偵察に行った人数毎に一人ずつ帰還する地点を変えてるらしいんだ。
今回の場合三人だから、目的地に着くまでに三箇所帰還地点を決めてたらしい。
だから、視た時の状況だとしてもラルの安否が分かるはずは無いんだ。
…でも」
「サルナの言葉が気になるのか」
その一言で更に俺の手は強く握られる。
「そう、なんだ。
あの時、早合点しないでちゃんと思い返していればラルに、『気をつけろ』の一言も言ってやれたのに…
もしも、もしもあいつらの話してたことが本当になったら…オレ…」
話していたこと。
それは多分、視た三人の人間たちがラルについて憶測で語っていた事だろう。
一人は『あの場所にから生きて帰れるはずがない』と言い、一人は『あの人なら大丈夫だ』と言い、一人は『どちらとも言えない。とにかく帰りを待とう』とかそんなことを。
「これがオレの視た占いの結果だ。
…長々とごめんな。人の生き死になんてお前らにしてみれば普通なのに。こんな引き伸ばしちゃって」
無理に笑った小虎の手が離れていく。負い目を感じているように、ゆっくりと。
それは、小虎が俺たちに対して持っていた心の壁の中に戻るように見えた。
「…そんな事ない」
「え?」
「確かに、まぁ、町とかで普通に暮らしてる人たちと比べれば生きる死ぬの状況はよくあるし、目の前で死んだ人だって結構いた。
けど、だからって慣れた事なんて一回もない。その死に持つ感情の差はあっても、怖くないと思った事なんて一度もない」
「ルフト…?」
「小虎が怖いと感じたのは当たり前だし。むしろ日常的に見てる俺たちの方がおかしいんだ。
…うん。お前がイヤじゃなければ、小虎には俺たちが普通じゃない事をした時に、おかしい、って教えてもらえたりしてくれたら嬉しい」
だから今度は小虎の手を俺から握ってみた。
こんな事で一度出来てしまった壁を壊せるとは思えない。けど、小さな穴でも開けられたなら、そこから少しずつ広げていけるから。
「お、お前…」
そんな想いとは裏腹に、小虎は顔を伏せて少しずつ身体を震わせ始めていた。
「ど、どうした?まだ何か言ってないことでも…」
もしかしてと思い、両手で小虎の手を握る。
さっきの言葉で壁がなくなったのかもしれない。もしそうなら、小さな不安が生まれるはずだ。それならさっきのように手を握れば、不安を消せるかもしれない。
「…なせ」
と、身体が一気に下がる感覚に襲われる。前屈みになり、ベッドと顔が触れそうな位に近くなったと認識した瞬間。
「手を離せーーー!!!!」
ぐわりと身体が持ち上がり、突然の浮遊感に思考を奪われる。
カチリカチリと瞬間瞬間をおさえられたように目の前の景色が脳に送られる。
気が付いた時には、他のみんなが部屋に入ってきていて、俺を囲んでいた。
To be next story.
と言うことで、フラグをしっかり立てました。
果たしてラルは無事生還するのでしょうか。
次回、城○内死す!デュエルスタンバイ!




