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人と魔者と静かな幕開け

ええ、そうです。

前の話を書きながら並行してこの話も書いてました。

こう、モチベを上げるために、ね?まぁ、多少はねって感じで。

なお、これは前回の話の続きではなく、前回の話と同時刻に起きた物語となっております。


ではどうぞ。


時刻はルフェン女王とルフト、そしてコーリが言の葉を交えている頃。昨日の夜。ルフェン女王より命を受けた者が一人いた。

一陣の風が草原を渡る。生温かく、僅かに不気味さを内包したそれを受けるのはその男。

鈍く輝く銀の鎧に身を包み、腰に携えた剣が草を踏みしめる音をかき消していく。


男の名はラル。


ルフェン女王の命に従い、とある区域までの偵察任務を行なっていた。

同行者二名は既に王都へと帰還し始めている。ラルの命令だ。


「…やっぱり、ここは嫌な雰囲気だ」


剣の鞘と鎧とのぶつかる音が消える。

ラルが今立つのは荒野と草原の境目。まるで何かで切り離したのかと考えてしまうほど綺麗な境界線と化した大地。

あと一歩。

たった一歩足を踏み出せば、先にあるのは今まで歩いてきた場所とは全く違う世界。


異界。


そう、まさしく異界だ。その世界とは人の住まわない土地。悪逆非道の魔者たちが拠り所とする国。

有り体に言って仕舞えば魔界だ。

人ならざる、動物ならざる異形の住まう別世界を眼前にしてラルは言葉を漏らした。


「やはり、ルフェン女王様の仰っていた通りだ」


布袋から取り出した折り畳み式の望遠鏡を手に取り魔界を覗く。

眼に映るのは魔物、魔獣、悪魔。そして悪趣味な城。

布袋にしまっている例の骨が疼いたような感覚が腰の辺りに薄く感じる。


「これは、いよいよかもしれないな…」


望遠鏡を下ろし独りごちたラルは、折り畳むと布袋の中へとそれを戻す。


ーーー五年前に偵察した時はこれ程の数の魔者達は存在していなかったはずだ。

そもそも、その時に比べてあの城は単純な大きさが増しているように見える。それに…


「…いや、記憶違いか」


身震いするような憶測をかぶりを振って追い出す。


ーーーそう、五年も前の記憶だ。魔者の数や城の大きさこそ大まかにとは言え記録し、記憶している。だからこそ、その推測自体は正しいだろう。

そうだとも。いくらあいつらが力を蓄えていようとも我々人間が長年をかけて築き上げてきた世界の法則を打破する事ができるはずがない。

はずがない、のだが…


「まさか、な」


やっぱりそんなはずはない、と再びかふりを振る。

いくらなんでも、物理的に領土を広げるなど不可能だ。

何故なら、先祖達がーーそれこそルフェン女王やその仲間達が心血を注いで確立した法則を僅かずつとはいえ侵していくなど有り得る話ではない。

もし、遠い過去の出来事が神話に記録されている通りで、ラルの持つ懸念が正しかったなら、百を超える結界系術使いの行いが全て露と消えてしまう。

だから、この記憶は間違っている、とラルは決定付け思考を終了させた。

それでも、もしも王都に着いた時にまだ疑っているならば、ルフェン女王様に伺えばいいだろう。そう付け加えて。

思考を終えると同時に踵を返して歩き出そうとした。

だが。


「どうした?逃げるのか。私たちから」


背後から届くのはこの場にあるはずのない自分以外の声。仲間ではない。彼らは既に帰り、一人はとうに着いていてもおかしくない頃だ。


「おい、振り向いたらどうだ?私に」


再び届く。

低過ぎず、高過ぎない、所謂青年然とした声だ。

故に有り得ない。

ここには人間など住んでいるはずがないから。

それはつまり。


「貴方も偵察任務を命じられたのですね」


振り返らずラルは声の主に問う。

無論穏やかな雰囲気でではない。いつでも迎撃し、離脱するという覚悟の元に発せられた言葉だ。

故に、挑発の意図も交えていた。

当然、腰の剣と相手の言葉に意識を集中させている。

いつでも引き抜けるように。


「…なに言ってるんだお前?私が?」


そうして返ってきたのは心底から困惑している言葉。この場で嘘や建前を使う利点が何もない中、耳に届いたのは本心から来るものに違いない。

だからこそ、ラルは次の言葉が許せなかった。


「あぁ、そうか。はは、お前も哀れだな。命令されなきゃ動きたくないような君主に仕えているなんて。私と違い」


誰にでもわかる、至極王道な挑発。普通の兵士であるならば一笑に付してしまうようなあからさまなそれに、ラルは切っ先を持って応えた。


「…二度同じ事を言ってみろ。素っ首、次は無いと思え」


磨き抜かれ研ぎ直された刀身に声の主の顔が映る。

体色は薄茶色、日焼けした人の様で。鼻は無い、ただ平面に二つのくぼみがあるだけ。口はある、人のそれと全く同じ。目は二つ、しかし眼球の中に更に小さな眼球がいくつも存在する。


ーーあぁ、紛れも無く魔者だ。しかも運の悪いことに、もっとも知性の高い魔物。

上手くやれよ、ラル。自分の生き死には咄嗟で決着がつくぞ。


「騎士道精神、というやつか。私にも。

いや、バカにはしないさ。そう睨むな。お前たち劣等種でもそんな心意気を持つ奴は好きだよ。私は」


次の斬撃は速かった。

一歩踏み込み、円を描くようにして一回転し刃に遠心力と体重を乗せて繰り出した一撃。ラルにとっては得意とする攻撃方法にして最上位のものだ。

繰り出した後、揺るがぬ勝利と共に敵から歩き去る一連の動作をラルも気に入っていて、特に好んで使っていた。そうして、今まで一度たりとも敵の糸を切り損ねたことはなく。だからこそ、この技には絶対の信頼があった。


「言ったはずだ。同じ意図の含まれる言葉を二度吐くなと」


サクッ。

ラルの行く手に銀色の何かが音を立てて地面に突き刺さる。


「…なるほど。良いものを持っている。血を流したのは久し振りだよ。私は。

だが、少しばかり相性が悪かったかもしれないな。私とは」


「なっ…!」


振り返り、ラルは目を疑った。

折れた刀身にでは無い。

顔の造形や耳こそ魔物のそれではあったが、逆に言えばそれ以外は全て人の身と、ラルの背丈と大差のなかったこの魔者。

しかしどうだろうか。僅か数秒視線を外していただけで、姿がまるっきり変わってしまっている。


「あぁ。今さっき攻撃しなかったのは君の騎士道精神に敬意を評したからだよ。私は。

うん、君達が好む言い方をするとだね、とてもワクワクしているんだよ。今、私は」


メキリ、メキリ、と生物が立ててはいけない音が荒野と草原の狭間で響く。

簡素な布の服が破ける。

背中から二本ずつ、計四本の腕が生え。筋肉が盛り上がり背丈すら変化させている脚は地面にめり込み、大地が悲鳴を上げている。

十数秒。

それは、ラルにとっては逃げられる最後の時間であり。


「名はアダンだ。私は。

君達騎士の流儀なのだろう。名乗るのは。今の、私のように。

であれば、君も何かすることがあるのでは?私に」


彼にとっては戦闘態勢に入るための準備時間だった。

変態を終えたアダンと名乗る魔物。言葉に悪意はない。ただ、これから刃を、意思を交える相手の土俵に合わせて戦うのがこの魔物の信条の一つだった。


「…名はラル。苗字に当たる名は無い。捨て子と変わらなかったからね。私は」


だからこそ、彼は名乗りを上げた。

眼前に立ちはだかる、今はどう見間違えても人とは似ても似つかぬ魔物に。


「…そうか。では、先程までの発言は取り消そう。私の。

挑発が目的だったとは言え、他人の恩人を貶すとは礼儀知らずだったな。私は」


「それはありがたい。

余計な思いが術を鈍らせずに済むのならそれに越したことはない…!」


瞬間、空間の切れる音がした。

それは、人と魔者の最後の戦いの火蓋を落とす音と同じものだった。





To be next story.


三人称視点はやっぱり書きやすいですねぇ…実にいい。どこどこがいいと言えないけど、非常にやりやすい。

そして、とうとう人と魔者の戦いが始まります。もともとバトルものにしたかったんですけども、今日までかかってしまいました。いやーほんと、長かった。


ではまた、次の話で会いましょう。

さよーならー

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