俺とルフェン女王と誓いと
お久しぶりぶりぶりぶりゅりゅ。あああああああ。カピバラ番長です。(汚い)
では、本編をどーぞ。
「彼が、例の?」
「はい。今日お話しした方々のうちの一人です」
目視できる闇は消え、夕焼けのようなほのかさを感じる光の満ちた空間で会話をするのは明らかな異物たち。
一人は既に知っている。自分たちとは異なる世界から訪れ、人としては生きられなくなってしまった少女だ。
けれど、もう一人は知らない。
「そっか。彼にはどこまで?」
地面を抉らんばかりの声に生気はない。あるのは、優し気な口調と恐怖すら感じる穏やかさ。なにかを思う…誰かを想うような彼の言葉は、けれど石臼を引くような音に削られている。
「真実のほとんどを」
「…そっか。なら、気兼ねなく話せそうだ」
ベッドから起き上がる様子はない。いや、多分起き上がれないんだ。
「…遅くなりましたが紹介を。この人はコーリ。昨日お話ししたゴーリの弟です」
ベッドの隣へと足を運び、コーリと呼ばれたベッドの主人の顔を見下ろす形で立つルフェン女王。
後に続いてルフェン女王の隣に立つ。
ゴーリーールフェンに、女王として生きるべきだと提言した男、その弟。ということは、もう何百年も、いや何千年と前に亡くなっているはず…
にも関わらず、人としての姿をどうにか保っている状態だとは言え、今日まで自己を持って生きている。
これは…?
「ごめんね。僕のことはあまり見ないでくれると助かるな」
それは俺が視線を向けたために言わせてしまった言葉だった。
まじまじと、意図していたわけでなくとも、見える範囲で彼を知ろうと不躾にも見てしまっていた。彼は今の姿を誰かに見られたくないんだろうとは考えるまでもないというのに。
「…私の術は本来、攻撃向けのものなんです」
そんなやり取りの中で静かに、重々しく口を開いたルフェン女王。その姿は微かに震えているように見えた。
「以前のーーいいえ、もう一人の私と言った方が適切かもしれませんね。そのもう一人の私が皆さんに過剰治癒を施しましたが、本当はあれが正しい使い方なんです。
…成長とは老化を意味し、老化は傷と言えます」
ベッドの中に手を伸ばし、コーリの手を取り出すルフェン女王。枯れ木のような色になり、細枝のように映る腕の先にある五つに分かれた枝を両手で包み込んでいる。
「あなた達人間は十年、二十年と生きることによって徐々に肉体に傷を…すなわち老化を刻み続けます。そうしてこれが本来、人のあるべき姿です。時と共に身体を老わせ、心を深めていき、生涯を経て描いた思想へと旅立つ。
ですが、私はその環からはみ出した異形。いてはならない怪物です」
柔らかな光が枯れ木に息吹を届けている。枯れた色は萌ゆる生命に塗り替えられ、朽ちた幹には栄養が行き渡る。
見る見るうちに若さを取り戻していったコーリ。けれど、やはり活力は見えない。
「…このように、今の私なら老いた身体を若返らせることができます。しかし、その加減を誤ればあなた達にしたように死を招き入れるきっかけになります。つまりこれは応用。先ほども言ったように私の術は攻撃に特化したものなのですから」
「話が見えません。つまりどういうことです?」
「応用を得るにはまず基本を知らないといけません。基本を知るには、とにかくできることを手当たり次第に実行へと移す必要がある。なら被験者が必要になります。
…私の身体は勝手に治ってしまいますから。
そういう意味ではあの時は良かった。右を見ても左を見ても怪我、傷、血。五体の揃った人の方が少なかった」
「ルフェン女王?」
思いつめた言葉。そこに見えたのは後悔と懺悔の念。
「この世界に墜ちた時、私は近くにあった人間たちの拠点に足を踏み入れた。そうして私には治療部隊の下っ端という役割が与えられました。
彼らの仲間になるため、自身の有用性と身の潔白を証明するために、左ひじから指先までを差し出されたナイフで二股にしました。そうして治して見せて仲間になったのです」
「…まさか」
「いいえ。それは違います。あの時は私自身こんなにも呪わしい術だとは思いませんでしたから。
知ったのは彼らと生活を共にするようになってから一週間後。原因はゴーリの背負ってきた副隊長の傷。右腕を切り落とされ、右腹部の一部を半円に切り抜かれていた傷を治した時です。それまで見てきたものの中でも五本の指に入るほど酷く、また、普通ならとっくに絶命してもおかしくない深いものでした。
それまでに私が処置してきたのは二十と余人。うち、再び戦場へと戻れたのは五、六人程度。戦い手はいても癒し手がいなかった。だから私のような未熟者に彼を治す機会が与えられてしまった。自分に特別な能力があっても少し前までただの学生だった自分にそんな資格はないことはわかってた。でも、それを断るなんてできなかった。だから私は少ない成功でも彼を治すために持てる限りの全力を費やした」
ルフェン女王は言葉を切る。ただ黙って、血色の良くなったコーリに視線を落とす。助けを求めるような行いは、しかしコーリからの言葉はない。
「…その結果、彼は死にました。急激な患部の腐敗、それが死因でした。
それまでも似た死因はいくつもありました。私にとっては見慣れていた亡骸。私は『きっと敵の持つ恐ろしい術だろう』と考えていました。
ですがそれは間違いだった。
同じ敵から攻撃を受けたはずのゴーリは別の方に治してもらっていたのですが、彼には腐敗した部分どころか、なに一つの異常もなかったんです。
その時に理解したんです。私の術が彼らを腐らせたんだと」
言い終え、膝立ちに屈んだルフェン女王はコーリの手を優しくベッドの中に戻す。けれど、その震える細腕がベッドの中から出てくることはない。
「その日の夜、私は可能な限り自分が手掛けたケガ人の事を思い出しました。どんな人が治せて、どんな人が腐敗してしまったのかを。
そうしてある仮説が立ち、その仮説が事実なのかを確かめるために翌日、私が治すことのできた方たちと治せなかった方たちの話を聞いてまわったんです。
その結果分かったのが『元々の治りが遅い人は助かり、平均的か速い人は助からなかった』という事。事実は同時に仮説を実証してくれました。
『傷は癒し過ぎると腐敗が始まる』、『自分の術は治癒力が高すぎる』。という二つの仮説を」
「…ひどい話だ」
抱えてられなかった言葉を吐き出す。それを聞いたルフェン女王は自嘲気味な微笑みを見せると皮肉さを交えた口調で続けた。
「そうでしょう?今でこそ私は様々な国を治める凄い人だと、ラルなどが言っていますがその実、自分の持つ能力の脅威性を知らないままに多くの人を治療した人ご」
「そうじゃない。ひどいっていうのはそうじゃないんです」
「え?」
「貴女は傷ついた人を治そうと必死だった。仲間にしてもらえた恩を返そうと力を尽くしていた。なのに裏切られた。ほかでもない自分の能力に。けれどそれは他人から与えられたもので、貴女はそいつの言葉を信用しての結果だった。
俺はそれが憎くてたまらないんです。むかっ腹が立って、頭に来るんです。だって、ルフェン女王は何も悪くない。なのに、そんなにも自分を責めている。それが何よりもひどい話だって感じるんです」
それは間違いなく本心だった。
でも、だから不思議だった。別に普段から隠し事をする人間というわけではないけれど、かと言ってここまで口に出すほど抑制のない人間でもないはずだ。
何故か彼の…コーリの前でだと感じたことを思わず言ってしまう。言ってもいいのだと思えてしまう。
「…君も兄さんと同じことを言うんだね」
唐突な言葉に一瞬頭の中が真っ白になる。いや、正しくは予想していなかった人物に話しかけられたからだ。
何を驚く必要がある。同じ空間にいる以上、いつ話し掛けられてもおかしくはないんだ。なのに、どうしてこんなに脚が震える。
「兄さんもルフェンに同じことを言ってた。そう言ってみんなを必死に説得したんだ」
見た目が若返っても声は戻っていないのか、なおも恐ろしく響く音で言葉にするコーリ。その一言一言は俺の心を深く抉っていく。やり場のない何かを余すことなく受けている、そんな感覚だ。
「あぁ、ごめんね。水を差しちゃって。今日はどうしてか話したくなっちゃうんだ」
ひび割れのような音が小さく鳴る。
多分、笑ったんだろう。擦れて擦れて空気の中に消え入ってしまったその音は彼の、心からの親しみだったんだ。
けれどそれすらも俺には容易に届かない。
どうすれば隣で微笑みを返すルフェン女王のように直ぐに理解できるのだろう。
…いいや、俺にはーー恐らくはルフェン女王以外にはーー誰もすぐ理解できるようにはなれないだろう。それ程までに二人が共に過ごしてきた日々は遠く、重いんだ。
「…それからしばらくして人魔時代と呼ばれた争いの時は終わりを迎えます。治療部隊でケガ人の手当てをするよりも前線で戦うべきだというゴーリの提案により前線部隊に再配属された私は、その術の効力を遺憾なく発揮し、ついに敵の親玉…魔者の王ーー魔王ーーと対峙し、深手を負わせることに成功しました。
そう、魔王と呼ぶことにしたあの魔者との戦闘をした時、私はその時を今でも悔やんでいます」
「それは、なぜ?」
「…辛勝、いえ、アレは殆ど敗北に寄った勝利でした。所持していた道具は底をつき、身に付けていた装備は触れれば砕ける。そうしてその渦中にいた私たちは…私を除く二人は、その場で蹲る程の力も残っていませんでした。
だから、私は施しました。治療を。行うには無責任に過ぎる術を。その時に理解したんです。長い戦いにおいて、身に付けた能力を休む暇もなく使い続けていたお蔭で【人を直すのに適した要領】を直感で感じ取っていた。けれどそれには問題があった。手段には二つの方法があり、どちらかは間違いなく人を腐らせてしまうものだと。
私にはそれがどちらなのかを判断できなかった。術を強く使うか弱く使うかなどという簡単な話では無く、もっと直感的な障害…。職人技にも似た絶妙な手際、とでも言うのでしょうか。求められていたのはそんな不確かであやふやな技量。
だけど、それでも私は二人にそれを使うしかなかった。何故なら、人の住む世界を創るには彼らのように人望に厚い方が必要だったから。その時を少しでも誤れば彼らはどちらもこの世界からいなくなってしまうから」
両肩を震わせ次に言うべき言葉を喉の奥から吐き出そうともがいている。けれど出てくるのは、嗚咽、嗚咽、嗚咽。
絶え間なく漏れる喘鳴は悲鳴なのか叫びなのか。それは分からない。俺に分かるのは、どれだけ生き続けようとも乗り越えられない後悔なんだということだけだ。
僅かな振り戻しの後、ようやく涙声とも取れる声を発した時には、光を留めきれずに溢れていた涙はもうなかった。
「結果として私は兄のゴーリを殺し、コーリを救いました。笑いながら腐敗していった彼の姿は永遠に忘れることはないでしょう。たとえ、それ以外のすべて…つまり、元居た世界のすべてが跡形もなく記憶から消え去ったとしても」
言い終え、震えの引いた腕を外に出して俺へと向ける。
「前置きが過ぎましたね。
ではこれから貴方に誓いを授けます。ギャザとは、私に、ルフェン女王に仕えるにあたり交わされる約束のようなものです。ですが、これは約束よりも重く何よりも守らねばならないこと。故に誓いなのです」
言いながら俺の胸のあたりを人差し指でなぞるルフェン女王。
鳥の足のようなものを背中に描かれる。これは、何かの文字、だろうか。
「…あなたに授けるのは【可能性】のギャザ。貴方の部隊は多方面において活躍する可能性がある。だからこそ貴方やあなた方は常に証明し続けなさい。成長の過程でありながらもドラゴンを倒した時のように」
言い終えると同時に背中から指が離れていく。
「これで儀式は終わりです。
さて、みんなのいるところに帰りましょうか」
コーリを見ることなく扉へと向い、手を伸ばすルフェン女王。そのあとについていき部屋から足を踏み出そうとした時。
「ルフト君」
消え入るような声に振り向く。
「彼女を頼んだよ。僕にはもうできないことを君に託す。どうか、一人にはさせないであげてほしい」
「…はい」
優しくも寂しい光に満ちた部屋の中でした隙間風のような声は閉められた扉の音で終わりを迎えた。
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あの後、俺とルフェン女王は必要最低限の言葉だけを交わして別れた。
誰が命を届けに来るのか。
普段はどこで待機すればいいのか。
そもそもいつから始まるのか。
そんな程度の話をいくつかした。
ただ、帰り際に一つだけ余分なことを聞いた。
『王様はどうしているんですか?』と。
ルフェン女王に謁見できた時に聞こうとセラと考えていたことだ。明るいようで影が見えるような城下民の答えがそこにあるのではと、もしかして近いうちに亡くなっていたのではないかと、そう思い至ったためにできた疑問をこの時に投げ掛けたんだ。
『夫は、日の光の届かない部屋に捕えています。理由は暴徒の御旗となりかけていたから。それ以上は機密事項なので』
そう投げやりに言い終えると自室へと戻っていった。
その後、一人城を後にし先に宿で待っているみんなのもとへと帰ることにした俺は道中、コーリの言葉の意味を考えていた。
『一人にさせないであげてほしい』とはどういう意味なのだろうか。彼女には忠義の厚いと思われる近衛兵が四人もいる。関係的、精神的にも一人だとは考え辛い。
「まさか、恋愛対象になれ、とは言わないだろうし」
思わず口をついた言葉。
我ながらおかしな事を考えたものだ。
「…どうしたんでっす?」
「へ?」
地面から聞こえた声…もとい、俯いて歩いていた俺の耳に届いたのは、どこか焦りの伺えるナリの声だった。
「いえ、今はそんな事どうでもいいんでっす!それより早くこっちに来るでっす!小虎ちゃんが!!」
「は、え、は???」
いつの間に宿に着き、ナリに声を掛けられたかと思ったらいきなり腕を引っ張られる。
「ちょ、小虎がどうしたんだ!?」
「例の占いの結果がわかったんだそうでっす!」
「はぁ!?」
他の宿泊客を押し退けて、バタバタと足音を響かせながら階段を駆け上がる。
「みんな!ルフくんが帰ってきたでっす!!!!」
部屋の扉を開けるが早いか、そう大声で口にしたナリ。その後ろで状況が飲み込めずに立ち尽くす俺にフタ、セラ、そして涙目の小虎の視線が集まった。
To be next story.
はい。意味不明な前書きを書いてしまい、申し訳ありませんでした。
特に書くことがなかったんです。投稿期間?いつものことなので…(責任逃れ)
…それでは、また次話会いましょう。
さよーならー




