俺とみんなと女王と待遇と
明けましておめでとうございます。
今年も、よろしくお願いします。
と、一月初め以降に読んだ方には一瞬ハテナを思わせる文句にて新年一発目の投稿をしたいと思います。
ではでは、どうぞ。
「では、答えを聞かせてもらおうか」
豪奢な椅子にたおやかに座るのは、威厳に満ちた態度を心掛けている少女。
その傍らで立つのは近衛兵の一人・サルナ。
「はい」
言葉を返したセラに続けて頷く。
俺たちは昨日の返答のために女王の間でルフェン女王の前に立っている。
早朝に出した答えを伝えるために。
「ただその前に伺いたいことがあります」
言葉に僅かに眉を動かしたサルナを制止するようにルフェン女王は手を出す。
フタの質問は昨夜からの悩みの種である【待遇】だ。
結局のところ俺たちの安否はこれに尽きる。
それがわからないんじゃ答えの出しようがない、というのが今朝俺以外の全員が出した結論の一つだった。
「確かに、そのことについて口にしたことはなかったな。
そもそも、わた…余がお前たちに提案を持ち掛けたのはなぜだと思う?」
「…ドラゴン退治の褒美として、だと思われます」
「違うな」
空間が張り詰める。
肌の上を痺れが走り回る感覚だ。
半日程度でここまで女王としての威圧感を戻せるとは思えなかった。
ただし。
「(ルフェン女王様、やり過ぎです)」
「(えっ…!ご、ごめんなさい!まだ加減が…)」
目の前で繰り広げられる光景を見なければ、だ。
「(あと、特に間違っていません。まだ中堅冒険者になったばかりのあの方たちが、老いたとはいえ最高難度の魔物討伐を果たしたのですから)」
「(うぇ!?ま、まぁ確かにそうですけど…でもでも、一回断ってからやっぱりすごいと思ってましたよ!とか言ってみたほうが前の私っぽいかなって…)」
わたわたと手ぶりを交えて弁解するもどこ吹く風。
サルナは公然とした態度で声を細める。
「(確かに効果的に思えるかもしれませんが、実際はそんなことないんですよ?)」
「(そ、そんなぁ~)」
「あ、あの~」
そこそこ遠い位置からもルフェン女王の眼尻に溜まった涙を見て取れるせいでいたたまれなくなったのか、ナリがそろそろと手を挙げて自己主張する。
「うぇ!?な、なんです…なんだです?」
咄嗟の質問に返答する様子を見て全員が理解する。
彼女は、以前のルフェン女王を装おうとしているんだと。
証拠に『やっちゃいましたか』みたいな顔でサルナが天井を見上げている。
「なあ、別にオレたちの前でやんなくてもいいんじゃないか?」
「い、いえ、皆さんの前で演じきれればどんな人にも通用するとおねぇさまが…」
「…それ多分、半分面白がってるぞ」
「「えええ!!」」
俺の言葉に驚きを隠せずにいる二人。
互いに目を合わせてそのまま硬直してしまった。
いやまあ、確かに師匠は必要以上に納得できる話し方する人だけどさ、流石にそこまで驚かなくてもいいんじゃないかな。
「あ、あの、それで、話を戻したいのですが…」
「え、ああ!はい。待遇の話でしたね!こちらは基本的にあなた方の要求を全て呑むつもりですよ!」
「そう、ですか…って、なんと!?」
衝撃のあまり身体が固まるフタ。
いや、正しくはルフェン女王を除く全員だ。
「ル、ルフェン女王様!?昨夜のお話と少しばかり違いますよ!?」
「え、ホント?」
「はい!『あの方たちは全員、私の直属の部隊とします。その上で彼らの自由を保障しようと思います』って!!」
「はい。ですから、自由を保障するとは、彼らの望み通りにさせるという事でしょう?」
何の疑いも持たずにとんでもないことを言ってのけるルフェン女王…いや、今の彼女はとても女王としてあってはいけない思慮深さをしている。
やはり本来のルフェンに戻ってしまったからだろうか。
「それでいくと、例えばあそこのサラシを巻いた動物二種を掛け合わせたような女性がもし、『女王の座を譲ってくれたら~配下になってもいいぜ~ケケケケケ』なんて言ったらどうするんです!?」
「…あ」
そうしてようやく事の重大さに気づいたらしい。
ルフェンの顔からみるみるうちに血の気が引いていく。
「なぁルフト。馬鹿にされてるのはわかるんだけどさ、『動物二種』がどうのってどういうことだ?」
そんな疑問を投げかけてくるのはサルナに変な罵られ方をされた小虎。
「あ~…うん。今お前が言ったことだと思う」
「????」
フクロウのように首を傾げる小虎にとりあえず笑っておく。
今教えると面倒臭くなりそうだからごまかしておこう。
「あ、あの!
コホン。それでは改めまして、こちらからの提案です」
それまで和やかに流れていた雰囲気から少しばかりの緊張感が現れる。
俺たちに向かって再び呼びかけをしたのは女王としてのルフェン。
どうやら俺と小虎が話している間にサルナと考えをまとめたらしい。
「あなた方にはこちらにいるサルナが所属する【近衛兵隊】と同等の立場を与えます。ですが、あなた方には他の兵たちに対する命令権はありません。しかし、女王である私や近衛兵の誰かがあなた方に兵を預けた場合はこの限りではありません。あくまでも独立した部隊として存在してもらいます。
仕事の内容は決まっていません。遊撃、偵察、強襲、社会奉仕など様々でしょう。
それと、そちらが私たちに何かを要求しようとした場合についてですが、基本的には通らないと思ってください。しかし、事態の深刻性、正当性など、あらゆる理由を鑑み、女王である私が納得できるものであればあなた方にとって良い返事を返せるでしょう。
また、あなた方には王都に住まいを提供しましょう。…これは以前の私も提案、いえ、強制していたことですね。この約束は守りましょう。その代り、給与は出来高制をとらせていただきます。
正直なところ現在の財政事情はあまりよくありません。というのも、ここ最近の星読みの結果が芳しくなく、予算の大方を兵の増員や武具の大量補填、医療施設の充実に用いてしまっているためです。なので、あなた方には私が与える任務の他にギルドでクエストを受けてもらって構いません。多少の色を付けるよう口添えもしておきます。
以上がこちらからの提案です。これには以前のような脅迫的意図は一切ありません。当然断っていただいても問題はありません。ただし、昨日の約束通り今日この場で答えを聞かせていただきます。
恐らく今の条件で有無が変わると思いますから、相談する時間くらいは与えても構いませんが、どうしますか?」
言い終えると同時にサルナの顔を伺うルフェン女王と、親指を立てて笑顔を見せるサルナ。
少なくとも俺たちの前では、もう以前のルフェン女王のようにふるまうつもりはない様だ。
「ありがとうございます。願ってもいなかった好条件ですルフェン女王。せっかくのご厚意ですが、相談の時間は必要ありません。
後出しのようになってしまいましたが、私たちはその提案を受けたいと思います」
深々と頭を下げて感謝の言葉と共に返事を口にするのはフタだ。
もう一つの結論。
それは、フタに今回の件を預けたこと。
それは今回一番の危機感をもって対応していたのが彼女だったというのと、ナリの『フタに任せておけば大丈夫でっす!』という後押しがあったため。
詳しい理由は教えてもらえなかったが、キレると乱暴になったりもするが普段のフタの落ち着いた立ち振る舞いやナリの言葉の持つ不思議な説得力から、満場一致で任せることになった。
「それはなによりです。
それでは、あなた方は只今をもって、暫定的ではありますが、私直属の部隊となりました。
正式な決定は少し先になると思いますが、住居の用意が出来るまでには通しておきましょう。それまでは現在泊まっている宿を引き続き利用してください」
言い終わると豪奢な椅子から立ち上がり、ゆっくりと階段を下りてくるルフェン女王。
その足取りからはやはり威厳などは感じられなかったが、温厚な柔らかさが満ちている。
「どうしました?そんなに見つめて。長生きはしていますが、それでも照れは感じるのですよ?」
「え?あ、あぁ。すいません、つい。
ですが、どうして?」
ぼうっとしていた脳に声が響く。
気が付けばルフェン女王は目の前に立っていた。
「あなたが隊長、ですね?それでは今からあなたに誓いの儀式を。本来なら近衛兵となった者にしか与えないのですが」
「ちょ、ちょっと待って下さい。なぜ私が?」
「なぜって、あなたが答えたのですから…そうですよね?」
首を傾げて尋ねるルフェン女王。
その眼前に立っているのは、フタだ。
「い、いえ、隊長はあっちの…」
言い辛そうに俺を示す。
「え…
ご、ごめんなさい!そうとは知らず!決断を伝えてくれたのがこの方だったのでてっきり…」
一瞬放心した後、平謝りしてくるルフェン。
流れるような頭の下げ方はなんていうか、謝り慣れてるみたいだ。
「い、いやいや、そんなに」
「じょ、女王様!?
そんなに謝らないでいいですから!」
俺が声をかける間もなく走り寄ってきたサルナはすぐにルフェンの事を俺たちのそばから引きはがす。
そのまま光の如く部屋の端まで行くと。
「(いいですか?一国を治める人間は、気軽に謝っては、いけないんです。ましてや、貴女が治めているのは国なんて小さなものだけではないんですから!)」
サルナの説教が始まった。
「(うう…だって、間違えたら謝りなさいってお母さんが)」
「(だってもヘチマもありません!そんな弱気だと、反乱軍に付け入られてしまいますよ!貴女はとても偉い立場なのですかもっと堂々とですね…)」
「(うぅ…はい…)」
あの様子だと元に戻ってから今みたいに失敗するたびに叱られているようだ。
一日前まではあんなにも恐ろしくて、思い出したくもないくらいに怖かった少女が、今ではあんなにも身体が小さくなっているなんて、不思議なものだ。
「…どうして笑っているんです?」
「え?」
隣に立っているセラが不思議そうに尋ねてくる。
「どうしてって…多分、ルフェンを見れてるから、かな」
そう言って笑顔を作って見せると、思っていた反応とは真逆に。
「…えぇ…」
セラが少し後ろに下がった。
「え、なんで?」
「いや、気持ち悪いだろ。なんだ、ルフェンを見てられるから笑顔になるって。怖すぎるだろ」
そんなセラを守る様に身を乗り出したのは小虎で、ゴミを見るような目を向けられる。
「い、いやいや待て待て。俺はそういう意味で言ったんじゃ…」
偽りの姿…と言うと違うけど、本来のルフェンとしてこの空間に存在している姿を見られることがなんとなく嬉しいってだけで!
「あの!それで儀式ってなんでっすか!」
「待って!うやむやにしたらいけないと思うんだ!」
半ば呆れ気味に二人を呼びかけたナリ。
その隣で隠れるようにしているフタは、うっとうしい虫を見るような目つきで俺を見ている。
「…変態だな」
「おかしい。その感想はおかしいぞ!」
ボソリと口にした言葉を、俺の耳は聞き逃さない。多分、フタに会ってから初めて悪口を言われた気がする。
いや、結構きついな。言われなれてない人に言われるのはこんなにも刺さるのか…。
「は、はい!今行きます」
刃物で切られたような鋭い痛みに胸を掴みつつ、駆け寄ってくるルフェンを見る。
「だから、統治者が、走り寄っては、いけないと!」
声を荒げてその後を速足でついて来るのはサルナ。
運動があまり得意ではないのかルフェンの下に着く頃にはかなり息が上がっていた。それでも、十秒程度で呼吸を整えたのは流石だろう。
「いいじゃないですか。今更彼らの前で取り繕わなくても。この方たちの中に私に取って変わろうとする人なんていませんよ」
「そ、そうかもしれませんが…」
「さぁ、これから儀式を始めますのでルフトさんは私についてきてください」
厳しい表情と変わったルフェン…いや、ルフェン女王が差し出した手を取る。
その手は僅かに汗ばんでいて、酷く震えていた。
「では、他のあなた達は私についてきてください。これより先は、あなた方には荷が勝ちすぎます」
「そ、それはどういう」
歩き出そうとした俺の足を、セラがもう片方の俺の手を握って止める。
「セラっち。二人を困らせてはダメでっす」
そんなセラを制止するのはいつになく真剣な表情のナリ。
気迫に押されたセラは俺の手を離すと、きゅっと拳を握って手を降ろす。
「すいません、ナリさん。気を使わせてしまって」
寂し気な言葉を口にしたルフェン女王は厳しい足取りで玉座へと向かう。引かれるままに歩を進める俺は、近づくにつれ震えの増すルフェン女王の手を、ただ強く握り返すしかできずにいる。
「…優しい人。
こう握り返されるのは二度目です」
「え?」
懐かしく言葉にしたルフェン女王は、玉座の元まで導くと止まり、階段から見下ろす。
「彼女たちの誘導は終わりました。
気を、しっかりと持って」
「ありがとうございます。では、また」
「はい!」
交わされた会話はそれだけ。
サルナが深く頭を下げたのを合図に、ルフェン女王は玉座の裏に位置する壁に手を触れると、その部分が指先一つ分へこみ、それまではただの壁だったはずの空間に二人分の幅しかない真っ暗な通路が浮かび上がった。
ーーーー ---- ---- ---- ---
どれくらい暗闇を歩いたんだろう。登ったり、下ったり、曲がったりをしたような気がするけど、どれもしていないような気がする。
みんなが寝静まった夜のように静かなのに虫の声も風の音も聞こえない、あるのは踵の響く音と互いの呼気だけで、闇の世界をただただ引かれるままに進む。
時折聞こえるのはルフェン女王の深く吐く呼吸の音。それは疲れからくる深呼吸ではなく、何かに耐えるような自分を落ち着かせるような呼吸だ。
「あなたにはーー」
やがて、開かれた静寂。
暗闇の中にも関わらず妙にはっきりとしたルフェン女王の姿を目にした時、言葉を失った。
「これからあなたにはこの部隊の長としての覚悟と、私に仕え身を捧げることの意味をお教えします。
…先ほどフタさんが『後出しでーー』と謝っていましたが、それはこちらも同じことです。あなたにはこれより、私たちと同じ業を背負ってもらいます」
震えているような声で、紅の滲む口元で、毅然とした態度で言葉を口にした彼女は、下唇を噛み締めて涙を堪えていた。
「…今から目にするものは絶対に口外してはなりません。この通路を出て、女王の間に戻った瞬間からはたとえ私や女王にも聞いてはいけません」
得体の知れない恐怖を覚えた俺は、それでも、頷いた。
「よろしい。では、心してください。あなたは今から人の感情の果てを目にします」
向き直り、手をかざされた闇の何処か。
音もなく表れた小さな光は徐々に存在を強調していき、やがて一つのベッドが現れる。
そこに横たわっていたのは…
「…二時間と十二分ぶりだね。ルフェン。その人が例の?」
優し気な口調とは裏腹に、死神を侍らせたように重く発し、滅びを知ってもなお希望を謳う聖者のように悲しく笑う、一人の男が横たわっていた。
To be next story.
と言うことで、ようやく話が進み始めました。
人の感情の果てとは一体なんなのか、次回明らかに!
それではさようなら。




