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君が忘れた名前  作者: オニたん


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9/25

九話 誰?

塔は、脈打っていた。

白い街の中心。

巨大な円塔。

骨みたいに細長い外壁。

その表面を、黒い筋が血管みたいに走っている。

生きている。

そんな感じがした。


女「急ぐ」

グロウたちは石畳を駆ける。

背後では、まだ歌声が響いている。

顔のない人影たちも追ってきていた。

数が増えている。

白い路地すべてが敵みたいだった。

グロウは刀を握る。

まだ頭が痛い。

だが。

刀を持っている時だけ、不思議と恐怖が薄れていた。

代わりに。

別の感覚がある。

懐かしさ。

知らないはずなのに。


その時。

前方の路地。

誰かが立っていた。

小柄。

白いフード。

裸足。

年齢はルーチェと同じくらいに見える。

俯いている。

顔が見えない。


女が急停止した。

女「……下がって」

グロウ「?」

女の声が強張っている。

今までで一番。


フードの少女が、ゆっくり顔を上げる。

赤い目。

泣きそうな顔。

けれど。

口元だけが不自然に笑っていた。

フードの少女「……また来たんだ」

その声は幼い。

なのに。

妙に冷たい。

???「……誰」

フードの少女は???を見る。

その瞬間。

空気が変わった。

フードの少女の瞳が揺れる。

まるで。

本当は泣きたいみたいに。


フードの少女「……どうして、まだいるの」

???の肩が震える。

彼女は何も答えない。

グロウが一歩前へ出る。

グロウ「お前、何者だ」


フードの少女はグロウを見た。

その瞬間だった。

彼女の表情から感情が消える。

フードの少女「……見つけた」


背筋が凍る。

どこかで聞いた。

同じ言葉。

次の瞬間。

フードの少女の周囲に、黒い粒子が浮かび上がった。

灰。

いや。

霧だった。

細かな黒霧が渦を巻きながら空中で凝縮していく。

女「避けて!!」

轟音。

黒霧が槍みたいに射出される。

石畳を貫き、爆ぜる。

グロウは反射的に跳んだ。

直後。

さっきまでいた場所が大きく抉れて崩壊する。


グロウ「……なんだよ今の」

フードの少女は悲しそうにこちらを見ていた。

フードの少女「……殺したくないのに」

その声は本気だった。

だから余計に怖い。

次の瞬間。

再び黒霧が収束する。

今度は無数。

鋭い杭みたいな形へ変わり、一斉に空間を裂いた。


グロウは刀で迎撃する。

火花。

凄まじい衝撃。

吹き飛ばされる。

刀が震えていた。

まるで。

“敵を知っている”みたいに。

フードの少女は俯いたまま呟く。


フードの少女「お兄ちゃんが待ってる」

グロウ「……お兄ちゃん?」

フードの少女「この街で、一番優しい人」

女の顔色が変わる。

女「……っ」

グロウは見逃さなかった。

彼女はその存在を知っている。

フードの少女「だから邪魔しないで」

その瞬間。

空気中の黒霧が渦を巻く。

周囲の建物が軋む。

無数の黒い杭が、雨みたいに降り注いだ。


グロウは咄嗟に???を庇う。

刀を振る。

身体が勝手に動く。

斬る。

受ける。

流す。

だが。

全部は防げない。

頬が裂ける。

肩が裂ける。

黒い霧が傷口から滲む。

???「やめて!!」

彼女が叫ぶ。

その瞬間。

白い花びらが舞った。


フードの少女の動きが止まる。

赤い瞳が揺れる。

フードの少女「……どうして」

???が震える声で言う。

???「もう誰も傷つけたくないの……」

フードの少女は黙る。

長い沈黙。

そして。

小さく呟いた。

フードの少女「……じゃあ、なんでお兄ちゃんは泣いてるの」


その言葉。

空気が凍る。

塔の上。

誰かがいた。

黒い外套。

長い髪。

少年だった。

年齢はグロウと同じくらい。

こちらを見下ろしている。

その目だけが異様だった。

まるで。

生きることそのものを諦めてるみたいな目。

少年が静かに呟く。

少年「……やっと来た」

その声が。

なぜか。

グロウの胸を締め付けた。

まるで。

昔。

どこかで聞いたみたいに。



つづく

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