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君が忘れた名前  作者: オニたん


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六話 白花の街コード:Null

鐘の音は、まだ鳴っていた。

低く。

ゆっくり。

まるで街そのものが呼吸しているみたいに。

白い街に、音だけが広がっていく。


女はこちらを見ていた。

片目を隠す黒布。

長い銀灰色の髪。

白い外套。

そして。

腰には古びた拳銃が吊られている。


グロウは反射的に少女を庇う位置へ立った。

女はそれを見て、わずかに目を細めた。

笑ったようにも見えた。


哀しそうにも。

女が口を開く。

女「……久しぶり」


少女の肩が震える。

???「なんで……」


女は答えない。

ただ静かに歩いてくる。

白花を踏みながら。

花びらが舞う。

雪みたいだった。


グロウ「知り合いか」


少女はすぐ答えなかった。

長い沈黙。

やがて。

???「……覚えてない」


女の動きが、一瞬だけ止まる。

その沈黙。

ほんの一瞬だったのに。

妙に痛かった。


女は小さく息を吐いた。

女「そっか」

その声は静かだった。

怒っていない。

けれど。

少しだけ傷ついていた。


グロウは二人を見る。

空気がおかしい。

ただの知り合いじゃない。

もっと深い。

もっと古い。

そんな感じがした。


女が視線をグロウへ向ける。

女「その子と一緒にいるの?」


グロウ「ああ」


女「……死ぬよ」


即答だった。

グロウの眉が動く。


女は続ける。

女「その子の近くにいる人間は、みんな壊れる」


???「やめて」

少女が小さく言う。


初めてだった。

はっきり拒絶を見せたのは。


女は悲しそうに目を伏せる。

女「ごめん」


???「違う……違うの……」


少女は震えていた。

呼吸が浅い。

何かを思い出しかけている。

頭の奥で。

忘れていた何かが軋んでいるみたいに。


その時だった。

街の奥で。

“歌”が聞こえた。

誰もいないはずなのに。

透き通った女の子の歌声。


古い子守唄みたいな旋律。

白い街に響いている。


グロウの背筋が寒くなる。

グロウ「……誰だ」


女が静かに答える。

女「死人」


グロウ「は?」


女「ここは、“残されたもの”が集まる場所だから」


意味が分からない。

だが。

少女の顔色はさらに悪くなっていた。

まるで。

この街そのものを恐れているみたいに。


歌声が近づく。

霧の向こう。

白い建物の隙間。

そこに、小さな影が見えた。


少女だった。

裸足。

白いワンピース。

こちらを見ている。

だが。

顔がない。

輪郭だけがぼやけている。

グロウが短刀へ手をかける。


その瞬間。

少女の影が、ぽつりと呟いた。

少女の影「……見つけた」


空気が凍る。

次の瞬間。

無数の足音が街中から響き始めた。


白い建物の窓。

路地。

屋上。

あらゆる場所に、“人影”が立っている。


全部。

顔が曖昧だった。


女が低く呟く。

女「まずい……」


グロウ「なんなんだよ、こいつら」


女は銃を抜く。

その目は鋭かった。

さっきまでの静けさが消えている。


女「逃げて」


グロウ「は?」


女「“夜”が来る」



つづく

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