二十三話 君を待つ場所
灰が降っていた。
静かな公園。
壊れたブランコ。
錆びた滑り台。
ルーチェは一人で座っていた。
ブランコに。
お兄ちゃんが帰ってこなくなってから。
もう何日経ったのか。
分からなくなっていた。
夕暮れの空を見上げる。
灰色。
でも。
昔は違った。
この場所には。
笑い声があった。
小さな頃。
お兄ちゃんはいつもここにいた。
グロウ『ルーチェ、遅い』
ルーチェ『お兄ちゃんが早いの!』
木剣を持って走り回るグロウ。
その後ろを追いかけるルーチェ。
転べば手を引いてくれた。
怖い夢を見れば隣にいてくれた。
雨の日は。
二人で小さな屋根の下へ逃げ込んだ。
グロウ『ほら』
ルーチェ『……?』
グロウ『半分やる』
たった一つのパンを。
いつも半分にして大きい方をくれた。
お兄ちゃんは優しかった。
不器用なくらい。
ルーチェはブランコを見つめる。
小さく揺らす。
いつからだろう。
“お兄ちゃん”を見るだけで。
胸が苦しくなったのは。
たぶん。
あの日だ。
まだ子供だった頃。
夜中に熱を出した。
苦しくて。
怖くて。
泣いていた。
その時。
お兄ちゃんは一晩中、手を握ってくれていた。
眠そうな目で。
何度も。
何度も。
グロウ『大丈夫』
グロウ『俺がいる』
その声が。
世界で一番安心出来た。
次の日。
目を覚ました時。
お兄ちゃんは椅子に座ったまま眠っていた。
その横顔を見た瞬間。
幼いルーチェは思った。
“この人のお嫁さんになりたい”
ルーチェは顔を伏せる。
少し笑う、泣きそうに。
でも。
本当に兄妹じゃないと知ったのは。
もっと後だった。
雨の日。
家の奥。
古い部屋。
偶然。
聞いてしまった。
『あの子たちは血が繋がってない』
ルーチェは息を止めた。
『グロウは施設から来た子だ』
頭が真っ白になった。
でも。
驚かなかった。
どこかで。
ずっと。
そんな気がしていた。
お兄ちゃんだけ。
どこか違ったから。
時々。
知らない言葉を呟く。
時々。
知らない顔をする。
そして。
時々。
泣きそうに空を見ていた。
ルーチェは唇を噛む。
本当の兄妹じゃない。
なら。
この気持ちは間違いじゃない。
そう思った瞬間。
嬉しかった自分がいた。
最低だとも思った。
でも。
止められなかった。
ルーチェ「……お兄ちゃん」
小さく呟く。
風が吹く。
灰が舞う。
数年前。
お兄ちゃんはいなくなった。
突然。
何も言わず。
そして。
数が月後。
帰ってきた。
でも。
別人みたいだった。
目。
声。
雰囲気。
全部少し違う。
何より。
『ルーチェ』その呼び方。
優しいのに。
どこか遠かった。
そして。
決定的だったのは。
グロウ『お前は妹だから』
ルーチェの胸が壊れた。
覚えてない。
全部。
忘れてる。
あの日。
“本当は兄妹じゃない”って。
二人で泣きながら話した夜も。
グロウ『……それでも家族だろ』
そう言って笑った顔も。
全部。
消えてしまっていた。
ルーチェはブランコから立ち上がる。
夕暮れ。
長い影。
ルーチェ「……どこ行ったの」
声が震える。
ルーチェ「また、いなくなるの……?」
つづく




