二十二話 またあとで
夕暮れだった。
灰色の街が、赤く染まり始めている。
グロウとシロは、高台の坂道を登っていた。
崩れた電柱。
錆びたフェンス。
見慣れた景色。
グロウの足が少しだけ速くなる。
シロ「……嬉しそう」
グロウ「別に」
シロ「嘘」
グロウは少し気まずそうに頭を掻く。
グロウ「……まぁ、久しぶりだから」
その声は少し柔らかかった。
シロは隣を歩きながら、そっと横顔を見る。
ルーチェの話をする時だけ。
グロウは少し違う顔をする。
安心したような。
優しい顔。
胸が少し痛む。
でも同時に。
嬉しくもあった。
この人には。
帰りたい場所がある。
坂を登り切る。
その先。
小さな家が見えた。
壊れかけた外壁。
古い窓。
煙突。
でも。
ちゃんと生活の匂いがした。
グロウの足が止まる。
その目が少し揺れる。
グロウ「……あった」
シロは黙って隣に立つ。
グロウは家を見つめていた。
懐かしむみたいに。
怖がるみたいに。
シロ「……行かないの?」
グロウ「……いや」
そう言いながら。
なぜかすぐ動けない。
ルーチェがいる。
やっと帰ってきた。
なのに。
胸の奥がざわついていた。
その時。
シロが小さく言う。
シロ「……私、少し街見てきてもいい?」
グロウが振り向く。
グロウ「今から?」
シロ「うん」
グロウ「なんで」
シロは少し困ったように笑う。
シロ「……なんとなく」
本当は。
少し怖かった。
ルーチェと会う瞬間。
自分がそこにいていいのか。
分からなかった。
グロウは少し考える。
そして。
静かに言った。
グロウ「じゃあ、見終わったらちゃんと来いよ」
シロ「……え?」
グロウ「お前のこと、ルーチェに紹介したいし」
その言葉。
シロの時間が止まる。
グロウは気づいていない。
どれだけ破壊力のある言葉か。
シロ「……紹介」
グロウ「?」
シロ「……私を?」
グロウ「そりゃそうだろ」
当然みたいに言う。
シロは視線を逸らした。
顔が熱い。
心臓がうるさい。
グロウ「……なんでまた赤くなるんだよ」
シロ「ならない」
グロウ「なってる」
シロは誤魔化すみたいに前を向く。
夕焼けが髪を赤く染めていた。
グロウはそんな背中を見ながら言う。
グロウ「暗くなる前に来い」
シロ「……うん」
グロウ「迷子になるなよ」
シロ「子供じゃない」
グロウ「お前見てると不安なんだよ」
シロは少しだけ笑った。
泣きそうに優しく。
そして。
小さく問いかける。
シロ「……待っててくれる?」
グロウは眉をひそめる。
グロウ「当たり前だろ」
その言葉だけで。
胸がいっぱいになる。
シロは少し俯く。
髪飾りをそっと触る。
シロ「……すぐ行く」
グロウは手を軽く振る。
ぶっきらぼうに。
グロウ「じゃあ後で」
シロは数歩進んで。
ふと振り返る。
夕焼けの中。
家の前に立つグロウ。
その姿が。
夢で見た昔と重なる。
“ちゃんと覚えててやる”
胸が締め付けられる。
でも。
今のグロウは覚えていない。
シロは少しだけ寂しそうに笑って。
静かに街の奥へ消えていった。
つづく




