第21話 『灰空デート』
灰色の空だった。
崩れた高速道路。
沈黙した広告塔。
風だけが、都市の残骸を撫でていく。
グロウとシロは並んで歩いていた。
ルーチェの待つ家へ向かって。
少しずつ。
少しずつ。
途切れた道を繋ぐみたいに。
シロ「……あとどれくらい?」
グロウ「分からん」
シロ「またそれ」
グロウ「分からんもんは分からん」
シロが小さく笑う。
その笑い声を聞くたび。
グロウの胸の奥が少しだけ軽くなる。
最近。
シロが笑うと安心する。
理由は分からない。
でも。
静かな夜の灯りみたいに落ち着くのだ。
崩れた橋を渡る。
その途中。
シロの足元がぐらついた。
グロウ「危なっ」
反射だった。
腕を掴む。
細い身体。
近い距離。
シロ「……っ」
グロウ「ちゃんと前見ろ」
シロ「見てた」
グロウ「見てねぇから転びそうになるんだろ」
そう言いながら。
グロウはしばらく手を離さなかった。
シロは少し俯く。
耳が赤い。
グロウ「……なんで赤いんだよ」
シロ「赤くない」
グロウ「いや赤い」
シロ「見ないで」
グロウは意味が分からず首を傾げる。
シロはさらに顔を逸らした。
そのまま歩き出す。
でも。
今度はシロの方が少し近かった。
肩が触れそうな距離。
昼過ぎ。
二人は廃墟化した市場へ辿り着く。
天井が崩れ。
植物が侵食し。
かつて人がいた気配だけが残っている。
シロ「……綺麗」
陽光が割れた天井から落ちていた。
灰色の世界なのに。
そこだけ金色だった。
グロウは黙って周囲を見回す。
そして。
古びた屋台の奥から何かを持ってきた。
小さな缶。
シロ「それなに」
グロウ「たぶん果物」
シロ「たぶん?」
グロウ「ラベル剥がれてる」
数分後。
シロ「……甘い」
グロウ「……奇跡だな」
二人で缶を分け合う。
たったそれだけなのに。
妙に幸せだった。
シロはそっとグロウを見る。
口元についた果汁。
少し眠そうな目。
ぶっきらぼうな顔。
胸が痛い。
苦しいくらい。
昔から。
ずっと。
この人が好きだった。
でも。
言えない。
今のグロウは覚えていないから。
シロ「……ねぇ」
グロウ「ん?」
シロ「もし記憶戻ったらさ」
グロウ「?」
シロ「……私のこと、嫌いになる?」
グロウは眉をひそめた。
グロウ「なんでそうなる」
シロ「なんとなく」
グロウは少し考える。
そして。
静かに言った。
グロウ「嫌いにはならねぇよ」
シロの呼吸が止まる。
グロウ「お前、放っとけないし」
シロ「……それ褒めてる?」
グロウ「半分くらい」
シロが吹き出す。
でも。
その目は少し潤んでいた。
グロウ「……なんで泣きそうなんだよ」
シロ「泣いてない」
グロウ「またそれ」
風が吹く。
髪が揺れる。
花の髪飾りも揺れる。
グロウは無意識に、その髪へ触れた。
シロ「っ……」
グロウ「葉っぱついてた」
シロ「……そう」
声が小さい。
グロウは指についた枯葉を見る。
でも、シロはもうそれどころじゃなかった。
心臓がうるさい。
グロウ「……お前最近変だぞ」
シロ「グロウのせい」
グロウ「は?」
シロ「なんでもない」
少し前を歩き出す。
隠すみたいに。
グロウはその背中を見つめる。
小さな背中。
胸の奥がざわつく。
なぜか。
この景色を。
昔にも見た気がした。
つづく




