十九話 灰色デート
地下区画を抜ける頃には。
灰色の空に、少しだけ光が混じっていた。
雲の切れ間。
滅びかけた世界なのに。
ほんの少しだけ綺麗だった。
グロウは前を歩く。
その少し後ろを、シロがついてくる。
シロ「待って」
グロウ「遅い」
シロ「グロウが早い」
グロウ「普通だろ」
シロ「ぜんぜん普通じゃない」
グロウは少し笑う。
最近。
自然に笑う時間が増えていた。
途中。
崩れた商店街へ出た。
シャッターだらけ。
割れたガラス。
止まった時計。
けれど。
一軒だけ、まだ電気がついている店があった。
シロ「……やってる」
グロウ「奇跡か?」
古びた食堂だった。
湯気。
灯り。
焼ける匂い。
グロウの腹が鳴る。
盛大に。
シロ「ふふっ」
グロウ「笑うなって」
店主の老人が二人を見る。
驚いた顔。
でも何も聞かなかった。
こういう世界では。
“詮索しない優しさ”がある。
店主「座りな」
出てきたのは。
薄いスープと、固いパン。
それでも。
今まで食べた何より美味かった。
グロウ「……生き返る」
シロが静かにスープを飲む。
湯気越しの横顔。
少しだけ頬が赤い。
グロウはふと見てしまう。
シロ「……なに」
グロウ「いや」
慌てて視線を逸らす。
シロ「変なの」
グロウ「お前が無防備なんだよ」
シロ「?」
本当に分かってない顔。
グロウは深くため息を吐く。
食後。
二人は崩れた街を歩いた。
古いゲームセンター。
止まった観覧車。
水のない噴水。
シロは時々立ち止まる。
知らないはずなのに。
懐かしそうに。
グロウ「……気になるのか」
シロ「少し」
観覧車を見上げる。
灰空の中。
巨大な輪だけが止まっている。
シロ「昔は動いてたのかな」
グロウ「さぁな」
シロ「乗ってみたかった」
その言葉に。
グロウは少し黙る。
数秒後。
グロウ「……直せば動くかもな」
シロ「え?」
グロウ「たぶん」
シロが目を丸くする。
シロ「グロウ、機械触れるの?」
グロウ「知らん。なんか出来そうな気がしただけ」
まただ。
覚えてないのに。
身体だけが覚えている。
シロは少し笑う。
シロ「ほんと、不思議な人」
グロウ「お前に言われたくない」
風が吹く。
髪が揺れる。
その髪を。
グロウは無意識に目で追っていた。
その時。
シロの足が止まる。
ショーウィンドウ。
割れたガラスの奥。
古いアクセサリーが並んでいた。
その中に。
小さな銀色の髪飾り。
白い花の形。
シロが見つめている。
じっと。
グロウ「欲しいのか」
シロ「……別に」
絶対欲しい顔だった。
グロウは呆れたみたいに笑う。
割れた窓から手を入れる。
シロ「危ない」
グロウ「平気」
少しして。
花の髪飾りを取り出した。
埃だらけだったけど。
綺麗だった。
グロウ「ほら」
シロが固まる。
シロ「……いいの?」
グロウ「お前が欲しそうにしてたから」
シロはゆっくり受け取る。
壊れ物みたいに。
大事そうに。
そして。
少し恥ずかしそうに言った。
シロ「……つけて」
グロウ「は?」
シロ「自分じゃ見えない」
グロウ「いやでも」
シロ「グロウ」
甘える声だった。
グロウは観念する。
不器用に髪へ触れる。
柔らかい。
近い。
甘い匂いがした気がする。
グロウ「……動くな」
シロ「ん」
耳が熱い。
心臓がうるさい。
やっとつけ終わる。
シロ「……どう?」
振り向く。
白い花の髪飾り。
少し照れた顔。
灰色の世界の中で。
そこだけ光って見えた。
グロウは数秒止まる。
シロ「……グロウ?」
グロウは慌てて顔を逸らした。
グロウ「……似合ってる」
声が小さかった。
シロは少し目を丸くして。
それから。
嬉しそうに笑った。
今までで1番嬉しそうに笑っていた。
つづく




