十八話 君の体温
夜中だった。
雨はまだ降っている。
地下区画は冷え切っていた。
グロウの呼吸が荒い。
浅い。
苦しそうだった。
シロは物音で目を覚ます。
毛布の向こう。
グロウが小さく身体を震わせていた。
シロ「……グロウ?」
返事がない。
額へ触れる。
熱い。
異常なくらい。
グロウは苦しそうに眉を寄せていた。
汗。
震え。
時折、何かを拒絶するみたいに身体が跳ねる。
グロウ「……やめろ」
掠れた声。
夢を見ている。
『逃げろ』
『処分しろ』
『被験体Gを拘束』
グロウ「っ……ルーチェ……!」
シロの胸が痛む。
グロウは無意識に何かを探すみたいに手を動かしていた。
寒いのだと気づく。
地下は冷えすぎていた。
このままじゃ危ない。
シロは少し迷う。
けれど。
静かに毛布へ潜り込んだ。
細い腕で、そっとグロウを抱き寄せる。
冷えた身体。
熱い呼吸。
シロ「……大丈夫」
自分に言い聞かせるみたいに呟く。
グロウの震えは、少しずつ弱くなっていった。
無意識に。
シロの服を掴む。
子供みたいに。
シロの鼓動が速くなる。
顔が熱い。
けれど。
離れなかった。
静かな夜。
雨音だけ。
やがて。
グロウの呼吸が落ち着いていく。
眠る横顔。
苦しそうだった顔が、少しだけ穏やかになる。
シロはその顔を見つめる。
長い時間。
シロ「……ばか」
小さく笑う。
泣きそうな声で。
朝。
薄い光が地下通路へ差し込んでいた。
雨は止んでいる。
グロウはゆっくり目を開ける。
ぼんやりした視界。
近い呼吸。
柔らかい肌の温もり。
グロウ「……?」
理解するまで数秒かかった。
目の前。
シロの寝顔。
ものすごく近い。
グロウ「っ!?!?」
飛び起きる。
頭をぶつける。
グロウ「いっっっ……!!」
シロが目を覚ます。
眠そうに瞬きをした。
シロ「……おはよ」
グロウ「お、お前なんで!?」
シロ「熱」
グロウ「熱?」
シロ「震えてたから」
グロウが固まる。
昨日の記憶が断片的に戻る。
グロウ「……まじで?」
シロは静かに頷く。
沈黙。
グロウの顔がみるみる赤くなる。
シロ「熱、下がった?」
グロウ「そ、それどころじゃねぇんだけど」
シロ「?」
本気で分かってない顔だった。
グロウは視線を逸らす。
落ち着かない。
心臓がうるさい。
グロウ「……近いんだよ」
シロ「昨日はもっと近かった」
グロウ「やめろ!!」
地下に叫び声が響いた。
シロが少しだけ笑う。
悪気ゼロだった。
グロウは頭を抱える。
グロウ「……なんなんだお前」
シロ「シロ」
グロウ「そういう意味じゃなくて……」
シロは首を傾げる。
その仕草が妙に可愛く見えて。
グロウはさらに視線を逸らした。
その日からだった。
少しずつ。
空気が変わり始めたのは。
歩く距離。
話す時間。
目が合う回数。
小さなこと全部が。
前より少しだけ。
近かった。
つづく




