十七話 ふたりぼっちの地下街
非常灯が、かすかに瞬いていた。
緑色の光。
壊れかけた売店。
雨音。
世界の終わりみたいな静けさ。
シロ「……楽しかったこととか」
グロウは壁へ頭を預ける。
目を閉じた。
グロウ「覚えてねぇよ」
シロ「少しくらいあるでしょ」
グロウ「……」
沈黙。
しばらくして。
グロウがぽつりと言った。
グロウ「妹と、よく夜更かししてた気がする」
シロは静かに聞いている。
グロウ「電気止まってる日とかあってさ」
苦笑する。
グロウ「ロウソク置いて、くだらねぇ話してた」
シロ「どんな話」
グロウ「覚えてない」
そして少しだけ笑う。
グロウ「でも、あいつよく笑ってた」
その言葉だけは。
やけにはっきりしていた。
シロは小さく頷く。
シロ「……きっと、大事だったんだね」
グロウは答えない。
代わりに。
遠くを見るみたいな目をした。
グロウ「失くしたくなかった」
その声。
妙に寂しかった。
沈黙。
雨が強くなる。
天井から水滴が落ちる。
シロは毛布を引き寄せる。
少し寒そうだった。
グロウ「……お前」
シロ「ん」
グロウ「もっとそっち行けよ。濡れてる」
シロ「グロウも」
グロウ「俺は平気」
シロ「嘘」
即答だった。
グロウが少し笑う。
グロウ「最近、お前容赦ねぇな」
シロ「学習した」
グロウ「誰にだよ」
シロ「グロウ」
また笑う。
ほんの少しだけ。
でも。
その空気が心地よかった。
その時。
グロウの腹がまた鳴る。
沈黙。
シロ「……ふふ」
グロウ「聞くな」
シロ「二回目」
グロウ「うるさい」
シロは鞄から小さな包みを取り出す。
乾パン。
少し湿気っていた。
グロウ「まだあったのか」
シロ「隠してた」
グロウ「お前なぁ」
半分渡される。
グロウは少し黙ってから受け取った。
グロウ「……ありがと」
シロが少し目を丸くする。
シロ「今、ちゃんとお礼言った」
グロウ「俺そんな奴みたいになってんの?」
シロ「ちょっと」
グロウは呆れたみたいに笑った。
その横顔を。
シロは静かに見ていた。
ふと。
シロが言う。
シロ「グロウってさ」
グロウ「ん?」
シロ「昔は、もっと笑ってた気がする」
グロウの動きが止まる。
グロウ「……会ったことあったっけ、俺たち」
シロは答えない。
視線を落とす。
シロ「……どうだろ」
今はまだ言えなかった。
グロウは小さく息を吐く。
グロウ「なんか変なんだよな」
シロ「なにが」
グロウ「お前といると」
少し迷って。
グロウ「……懐かしい感じする」
シロの瞳が揺れる。
呼吸が止まりそうになる。
けれど。
グロウは気づかない。
グロウ「会ったことないはずなのに」
シロは俯く。
髪が揺れる。
シロ「……うん」
その返事は。
泣きそうに優しかった。
やがて。
グロウが眠りに落ちる。
浅い呼吸。
苦しそうな寝顔。
シロはしばらく、その顔を見ていた。
そして。
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
シロ「……やっと会えた」
つづく




